若い感性が更新する、都市住宅の新たな可能性
DESIGN / FEATURES
2026年8月20日

若い感性が更新する、都市住宅の新たな可能性

 

DESIGN|Faith Design Competition 2026

 
都市の集合住宅に、建築の力でどのような新しい価値を生み出せるのか――。若手建築家や学生を対象とした「Faith Design Competition 2026」の審査結果が発表され、一般部門U-45と学生部門U-25から計9作品が選出された。今回は1,557件のエントリーがあり、272作品が応募。光や風、緑、街との関係などを多角的に捉えた提案が集まった。
 

Text by OPENERS |Photograph by Faithnetwork

受賞9作品が決定

 
登壇し、はじめてのコンペティションの意義を語る株式会社フェイスネットワーク蜂谷二郎社長
 
主催する株式会社フェイスネットワークは、世田谷区・目黒区・渋谷区の「城南3区」を中心に、投資用新築一棟RCマンションを企画・開発する会社だ。土地の仕入れから設計、施工、賃貸募集、物件販売、完成後の管理までを一貫して担う「ワンストップサービス」を構築し、これまでに300棟を超える物件を手掛けてきた。事業領域は不動産業にとどまらず、建設業、一級建築士事務所にも及ぶ。
 
同社が設立25周年を機に開催した今回のコンペは、単に優れたアイデアを表彰するだけのものではない。東京都世田谷区に建設予定の賃貸用RCマンションを対象とする「実施コンペ」で、一般部門のグランプリ受賞者には賞金1,000万円に加え、同社のマンションブランド「GranDuo」における実在プロジェクトの設計機会が与えられる。若い設計者の才能を発掘し、実作として都市へ送り出すことが明確な目的として掲げられている。
 

実務と建築文化、双方の視点を備えた審査体制

 
審査員長を務めたのは、永山祐子建築設計を主宰する建築家・永山祐子氏。2002年に自身の設計事務所を設立し、「豊島横尾館」や「JINS PARK前橋」、東急歌舞伎町タワーの外装・一部内装など、商業、文化、公共空間にまたがるプロジェクトを手掛けてきた。建築の規模や用途を越え、環境と人の関係を丁寧に編み直す仕事で知られる建築家だ。
 
永山氏はコンペに際し、集合住宅を考えることは都市のコミュニティーを考えることに直結すると指摘。人や街との距離感、住まい方が多様化するなか、すべての人に当てはまる画一的な住宅ではなく、「求めていた誰か」に合う魅力的な住まいの必要性を説いた。また、占有と共有の関係を再考し、集まって住むからこそ得られる豊かさを提示する挑戦的な提案に期待を寄せていた。
 
審査員には、16アーキテクツ代表の建築家・小川達也氏、SUPPOSE DESIGN OFFICE共同主宰の建築家・谷尻誠氏、aat+ヨコミゾマコト建築設計事務所代表で東京藝術大学教授のヨコミゾマコト氏が名を連ねた。
 
小川氏は住宅や商業施設、ホテルなどの建築・インテリアを手掛ける実務家。谷尻氏は2000年にSUPPOSE DESIGN OFFICEを設立し、住宅や店舗、複合施設の設計に加え、事業と建築を横断する活動を展開してきた。ヨコミゾ氏は伊東豊雄建築設計事務所を経て2001年に自身の事務所を設立。「富弘美術館」で日本建築学会賞作品賞を受賞するなど、住宅から公共建築、都市空間まで幅広い実績を持つ。
 
さらに、主催者側からフェイスネットワーク代表取締役社長の蜂谷二郎氏が審査に加わり、一次審査には取締役上席執行役員の奥啓二氏と執行役員の久野泰浩氏も参加した。
 
建築家による空間的・文化的な評価に、事業主として土地を取得し、建物を建設・運営する側の視点が加わった審査体制である。独創性だけでなく、都市の賃貸住宅として成立する可能性や、長く価値を維持できる建築かどうかも重視されたと考えられる。
 
受賞者発表のセレモニーでは、審査委員長を務めた永山氏をはじめ、審査員からのコメントも。
 
 

一般部門グランプリは「Breathing Oasis」

 
一般部門U-45のグランプリに輝いたのは、服部大祐氏、服部さおり氏(MIDW)による「Breathing Oasis」。タイトルが示す「呼吸するオアシス」という考え方からは、建物を閉じた箱としてではなく、光や風、緑を受け入れ、都市環境と応答する住まいとして捉える視点が読み取れる。コンペが掲げた「光、風、緑、素材」というテーマと、都市住宅の現実的な条件を結び付けた提案といえそうだ。
 
一般部門U-45のグランプリに輝いた、服部大祐氏、服部さおり氏(MIDW)による「Breathing Oasis」の建築模型。
 
優秀賞には、卯月裕貴氏、今城瞬氏、山中浩太郎氏による「Sky Frame Window―階高を飛び超える窓」と、林山赳大氏、箕浦浩樹氏、篠原敬佑氏、鈴木俊氏による「経堂の杜と暮らす―GRANDUO KYODO no MORI」が選ばれた。
 
前者は、建築の基本要素である「窓」を階ごとに完結させず、光や眺望、住人同士の気配を垂直方向につなぐ可能性を感じさせる。後者は、計画地である経堂という街を背景に、樹木や外部空間を生活の一部として取り込もうとする提案だ。建物単体の造形ではなく、周辺環境とともに住まいの価値を育てる視点が共通している。
 
入賞は「DEPTH OF THE FAÇADE, WHERE LIGHT MEETS WIND.―ファサードのデプス、光と風の交差点―」「斜めにひらく住まい」「匿名都市の中の居場所」の3作品。建物の外皮に奥行きをつくり出す発想、住空間を斜め方向へ開く構成、個人の存在が埋もれやすい都市に居場所を生み出す試みなど、それぞれ異なる切り口から集合住宅の定型を問い直している。
 

学生ならではの視点で「境界」を再考

 
学生部門U-25のグランプリは、東京藝術大学大学院の村上祥太氏による「Room,Veranda,Balcony__→」。部屋、ベランダ、バルコニーを矢印でつないだ題名が象徴するように、室内と屋外を分断せず、連続する生活領域として捉え直す提案であることを想像させる。
 
優秀賞には、横浜国立大学大学院Y-GSAの石井涼也氏、冨永悠生氏、田村渚歩氏による「東京を象るイエ」が選出された。一つの住宅を私的な空間として完結させず、その集積が東京という都市の表情を形づくるという視点を含んだ題名だ。入賞は、芝浦工業大学大学院の西村隆司氏、萩原心氏による「庭を纏う家」。庭を建物の余白ではなく、住まいと暮らしを包み込む環境として位置付ける発想が印象的である。
 
ゲストスピーカーとして柔道家の角田直美さんも登壇。心身ともにリカバリーできる住まいについて話した。
 
今回の受賞作から浮かび上がるのは、光、風、緑といった自然環境に加え、内と外、専有と共有、個人と都市の「境界」を再構成しようとする姿勢だ。それは、審査員長の永山氏が示した、多様な住まい方や人との距離感を受け止める集合住宅という考え方とも重なる。
 
若い設計者の自由な構想、それを評価する第一線の建築家、そして土地取得から設計・施工・管理まで担うフェイスネットワークの事業基盤。この三者が結び付くことで、受賞案は図面上のアイデアにとどまらず、実際の街や暮らしを変える可能性を持つ。「Faith Design Competition 2026」は、次世代の才能を見いだす場であると同時に、都市住宅の新しい価値を社会へ実装するための出発点となった。
 
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