Twiggy(ツイギー)|Vol.10 松浦美穂の宿選び(前篇)
FASHION / WOMEN
2015年5月11日

Twiggy(ツイギー)|Vol.10 松浦美穂の宿選び(前篇)

Twiggy|ツイギー

Vol.10 松浦美穂の宿選び(前篇) 1

1990年から主宰するヘアサロン「ツイギー」で、各誌ファッション誌で、つねにモードの先端を提案しつづける人気ヘアスタイリスト 松浦美穂さん。そんな彼女が数年来抱いてきたプロジェクトが、昨年ついに実現した。それは、自社で展開する“オーガニック系のシャンプー&トリートメント”。日々科学的な飛躍が目覚ましいコスメ業界において、モードの先端をいくひとが、なぜ「オーガニック」に注目しつづけてきたのか……この連載で、その秘密を紐解いていきます。

語り=松浦美穂まとめ=小林由佳写真=佐藤孝次

熊野の山奥からアフリカまで。松浦さんの渡航先はじつに多彩です。そしてモードの先駆者の旅となれば、当然気になるのは「どんなところに泊まっているのか?」ということ。前回までの旅の話では、あえて宿に触れずにいましたが、それは、松浦さんが「旅」というアクションとは一線を画し、泊まる宿でも別のインスパイアを体験してきた、と教えて下さったからです。「30代で一度高級ホテルを体験、満足し、そして離れようと思った」という松浦さんが好んで泊まるのは、その空間にオーナーの生き様まで感じられるような“高級民宿”。この“高級”は単にラグジュアリーを指すのではなく、ゲストがオーナーのライフスタイルに無理なく飛び込めて、まるでそこに住んでいるかのような心地よさがあることだと、松浦さんは言います。

――旅行先での宿選びには、どんなこだわりを抱いていますか?
旅先で選ぶ宿って、やはり旅の目的に準じたものになりますよね。だから、前回までにお話ししたように、たとえばアマンのようなラグジュアリー系ホテルは、30代の時にいちばん興味があり、10年ほどまえに行きましたね。シシリーのパレルモでは、映画『ゴットファザー』の舞台になった「サン・ドメニコパレスホテル」に泊まったりしました。スペインのアンダルシアでは、アルハンブラ宮殿の敷地内にある国営ホテル「バラドール・デ・サンフランシスコ」にも泊まりました。お城がそのままホテルになっていて、値段もそれなりに高かったけれど、当時はやっぱり“30代の女はこういうところ行くべき”みたいな気持ちが強かったんですね。

でも、こういうところに泊まっていると“高級なものには高級であるべく意味がある”って見えてくるです。すると、逆に“チープであるべくしていいもの”も分かってきます。これも旅から得た学びですね。たとえば“ユニクロで仕事着は買わないけれど、自宅で着るパジャマやヒートテックは買う”みたいなかんじ(笑) 余談になりますが、そういう意味ではジル・サンダーとユニクロのコラボは意外でしたね。ジル・サンダーの良さって、素材のクオリティの高さと、繊細で微妙なデザインなのに、なんでユニクロで出来るのかなって、頭の中は疑問でいっぱいでしたよ(笑) 要はコストパフォーマンスをどこに見るか、ですよね。ひとりひとり価値観は違っていて当たり前、だからそれでいい。
――高級ビーチリゾートや夜のクラヴィングでも有名なスペイン・イビザ島や、ジャマイカでも、独自の楽しみ方で宿を選んでいるそうですね。

イビサは70年代のヒッピーたちが最終的に流れ着いた場所ですよね。そこで何かを始めようとスタートしたひとたちが多いので、別荘地クルーズがすごく面白いんです。ビジネスで大成功している人たちの別荘がドンドンっと並ぶ一方で、パリを捨てましたとか、ロンドン捨てましたっていうひとの別荘もひっそり建っていたりする。この島はカフェ(クラブ)なんかより、いろいろな別荘を眺め、その様子から個々の個性や生き方の選択を見るのが面白いんです。ライフスタイルの見える家作りが、じつに興味深い。

イビザでお世話になっているのは「ラ・テラス」という高級民宿です。ここのオーナーも70年代からイビザに暮らす元ヒッピーのひとで、宿を経営する一方、現地の不動産屋さんと一緒に、オーナー不在中の別荘のレンタルを仲介してくれます。別荘を借りられるのはオフシーズンが主ですが、彼女に別荘のレンタルをリクエストすると、建築家やインテリアデザイナーや音楽アーティストなどの別荘も紹介されるんです……それはもう、メチャクチャにかっこいい別荘もあるんですよ。

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スペイン・イビザ島のホテル「 ラ・テラス」。イビサ島のカフェ(クラブ)やレイブパーティのイメージとは全く別の顔を持つ島の反対側の別荘地にあります。フランス人オーナーのセンスが隅々まで表現されたホテル。近所の畑の野菜や魚のお料理などを中心に腕によりをかけて作ってくれるママのお料理という感じ。プールやテニスコートもあったり、みんなで集えるリビングがあったりと……。客層もとても良くお互いのエネルギーも交換できそうな空間。


Vol.10 松浦美穂の宿選び(前篇) 2

――ジャマイカにも70年代感覚の高級民宿があるなんて知りませんでした。

ジャマイカではネグリル灯台の近くにある「ザ・ケイブス」という高級民宿が素敵なんです。断崖絶壁の一体を全部買い取り、アーティストを集め洞窟を掘ってレストランにしたりと、本当に面白いことをやってるんですよ。

もちろんお金がかかっているのは一目瞭然ですが、ムダに絢爛豪華なのではなく、お金の使い方からして非常にセンスがいい。素敵に、誰もが喜ぶような空間にしているんです。
こういうスタイルを見ると、70年代を乗り越えてきたひとたちの“人生の学び”が伝わってきて、「あぁ、ステキだな」って思ってしまうんです。……私、70年代のヒッピーが好きなんですよね(笑)。

憧れのお兄さん、お姉さん世代なんですが、ヒッピーのインテリジェンス、ヒッピーになる経緯そのものが彼らの人生のベースになっているわけですが、彼らの作り出したものから伝わってくる、悩みや苦しみを乗り越えた独自の潔さ、けじめの付け方がとても好きなんです。70年代を象徴する反骨精神も大盛りですしね(笑)。

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ジャマイカにある「ザ・ケイブス」は、断崖絶壁の上に建つホテル。崖の下にある洞窟がレストランになっている。

――その発見は、モロッコの宿でもあったとか。

ええ。マラケシュにある「リアド・ザルカ」もそう。センスのいいイタリヤ人やフランス人、スペイン人たちが、自分たちのテイストでモロッコの古いおうちを改造して運営している宿です。小さい宿なのに、オーナーのセンスがすごく光っていて、「センスよく生きているな」と思わせる空間でした。

自分のエゴを満足させることに成功したライフスタイルって、本人が何も言わなくても“こう生きてきたんだな”って感じさせてくれるじゃないですか。オーナー達と会ってみたい、話をしてみたいという衝動にかられますよね。そういう気分でオーナーに触れることが出来ることが、「高級民宿」の良さではないでしょうか? それはイコール、その「国」や「村」に触れているという感じ……。その“付かず離れず”距離感も良い!!

で、こういう方たちって、必ずと言っていいほど、いろいろな形で社会貢献をしているんです。さり気なく、いろんな人たちとコミュニケーションがとれていて、自分のエゴを満足させるためだけには生きていない。それは本当に素晴らしいと思いますよ。そういうひとたちが共鳴しあって、強大にならなくとも自分たちにやれることだけでつながっていくという感性が、私の思う自分らしさや自分のセンスにつながるようで好きなんですよね。

高級ホテルが嫌いとか飽きたというのではないんです。高級ホテルの良さもまだまだ底知れなく魅力的です。ただ、これだけお金かけてこの程度? って感じることが多すぎる(笑) 見かけ倒しのセンスが多いですね。だから、旅行先では、たとえば飛行機で疲れた初日だけはちょっと大きめのホテル……誰もが素敵と言うようなホテル……に泊まり、翌日からは高級民宿に泊まるということをよくやります。帰国前も、仕事に戻るリセットのつもりで泊まることがあります。そういうホテルには、何と言うか、単に“ゲストを気遣わないサービス”を求めて行く、というかんじです。

マラケシュの「Riad  Zakka」のゲストルーム

マラケシュの「Riad Zakka」のゲストルーム。インテリアは部屋ごとに異なる。

民宿ってね、気配りが満載なんですよ。「今日はどうする?」「ご飯食べた?」「洗濯は?」ってね(笑)。もちろんそれが好きで、まるでそこに住んでいると錯覚しそうなホテルこそが、私にとっての「現実逃避」であり、その国や町を少しでも深く知るひとときだと思っています。そうすることで自分自身の大きさや小ささを見つけることができ、リセットすることができるのだと思うんです。

――高級ホテルにはない、高級民宿の魅力ってなんですか?

“この場所が好き”っていうよりも、そこでの出会いから生まれることが、自分のライフスタイルにワクワク感や興味を覚えさせてくれます。で、学びがいっぱいあるんですよ、本当に。それは“このコーディネイトは自宅のインテリアの参考になるワ”なんていう直球のものではなくて、目にするものや空間を通じて作ったひとたちのマインドに触れ、それが自分の感性に響くからなんです。高級民宿と呼ばれる、オーナーの人の良さ、そのひととなり、そのひとの歴史を感じる宿が、私は泊まっていていちばんくつろげるんです。

……ただ、もちろん、実際にそこに身を置いてみないと自分が欲している環境かどうか見極めるのは難しいのかもしれません。ぬくもりや、生活環境にあって当然のにおい……そういうものって「くつろぎ」にすごく大事なんですけれど、当然それに飽きてしまうこともあります。私も、いくつかの場所で民家に泊めていただいたこともありましたが、やはりオーナーと近すぎることで気遣いで疲れたこともありました。そういう時は、高級ホテルで放っておかれる解放感が恋しくなるわけです。

私の宿の情報は、日々のお客様との会話で得ることがほとんどですが、自分の好みや興味を抱いているところは積極的に話しますね。そうすると、「じゃあ松浦さんはココも好きになるんじゃない?」って新しい宿を教えていただける。ワクワクドキドキをずっと続けるためには、自分を解放しなくちゃいけないなって思うんですよ。だから“家族もいて私はもう男の人に恋しなくなっちゃったな”って思った時から、もう旅に恋しているように、行き先や宿選びがどんどん細かくなってる(笑)。いちばん簡単に、やりやすいことなんじゃないかと思うんです。

次号に続く

           
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