MOYNAT|パリの老舗トランクメーカー「モワナ」の現在と過去を知る
MOYNAT|モワナ
フランス・パリの本店&アトリエへ
時代を旅するトランクメーカー「モワナ」(1)
現存するフランス最古のトランクメーカーとして知られる「モワナ」。2010年、ブランドのルーツはそのままに、ハンドバッグなどの革製品を主体とするラインナップでリバイバルを果たした。今回、フランス・パリにてブティック、オフィス、アトリエを取材。本邦初公開のアーカイブ資料を披露する。そして、現在のモワナを支えるスタッフたちに話を聞くことができた。
Photographs by MATSUNAGA ManabuText by IWANAGA Morito(OPENERS)
老舗トランクメーカーが軒を連ねる通りに新ブティックをオープン
モワナ唯一のブティックは、フランス・パリのサントノーレ通りに位置する。この通りは、歴史あるトランクメーカーが軒を連ねる激戦区。1階がレディスフロア、2階がメンズフロア、そして3階がオフィスとなっている。
店内には、ヴィンテージのトランクとともに、ハンドバッグや小物類など、現行のモワナの製品がフルラインナップで揃う。モワナのCEOを務めるギョーム・ダヴァン氏がブティックを案内してくれた。
「このブティックがオープンしたのは、ちょうど2年前です。ディスプレイしてあるすべての現行の製品は、過去にモワナが世に送り出してきた製品からインスパイアされたものです。見ていただけるとおり、モワナの商品は豊富なカラーバリエーションを誇ります。実はこれも、ブランドのルーツに根差したコンセプトなのです。
当時、現在でさえ多くの制約を受ける天然の染料を用いて、可能な限り多くのカラーリングのアイテムを製作していたそうです。
グリーンの色合いにしても、バリエーションはさまざまです。基本的にメイド・トゥ・オーダーで製作をおこなっていたということもあり、おなじカラーをリピートしてつくることもあまりなかったのです」
ダヴァン氏は、これまでもさまざまなメーカーのトランクを新旧ともに見てきたが、モワナのトランクには、ほかにはない魅力を感じたという。
「モワナが世に送り出した『リムジントランク』には、大胆なカーブが採用されており、なおかつそれが機能的に働いている。わたしたちがリバイバルのために製作した商品にもそのフォルムは取り入れられ、美しさと機能性を兼ねるブランドのアイデンティティとなっています。
そして、もっともユニークなのは創業者が女性であるということです。当時のフランスは現在とは比べものにならないほどの男性社会であり、女性がビジネス、ましてやトランクメーカーとして会社を興すなど、考えられませんでした。
そんななか創業者のポーリーヌ・モワナは、クリエイティビティと商才を発揮し、顧客を着実に増やしていきます。創業当初の1849年には車用のトランクをヒットさせ、1880年には、当時としては非常にめずらしい、レディスのハンドバックコレクションをデビューさせます。彼女は時代と顧客のニーズを捉えながら、革新的なビジネスを打ち出しつづけました。
そして1890年代、コメディ・フランセーズの女優、ガブリエル・レジェンヌのために制作された『レジェンヌ』が生まれました。レジェンヌは現在においても、かたちを変えて、モワナを象徴するアイテムとしてラインナップされています。
ポーリーヌ・モワナのイノベーション、クラフツマンシップの精神、そこにどのようにあたらしいものを取り入れていくのか、それがわたしたちの課題です。
モワナの製品は、過去においても、そして現在においても、クラフトマンシップの意匠が詰まったタイムレスなものです。これから長い年月をかけて、世界の主要都市へと展開していきます。クオリティ、ファッション性、サービスを大切にしながら、小さな宝石のようなプロダクトを、ゆっくりと広げていけたらと考えています。
マーケティングやコミュニケーションを大々的にやるつもりはありません。わたしたちはマカロントランクのように、人々に驚きや感動を与えられるものをつくり、アピールしていきます。それはポーリーヌ・モワナが創業当初に生み出した、伝統に根差したつくりのうえに成り立つ斬新な提案、イノベーションの精神を受け継ぐということでもあります」
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時代を旅するトランクメーカー「モワナ」(2)
Photographs by MATSUNAGA ManabuText by IWANAGA Morito(OPENERS)
歴史を物語るアーカイブ資料
ブティックの3階にあるオフィスへ。ここにはショップスペースには置いていないアーカイブのトランクが、資料として保管されている。引き出しとハンガーのついたワードローブトランク、モワナが特許をもつ独自のウィッカー(枝編み)で製作されたイングリッシュトランクなど、ポーリーヌ・モワナの女性ならではの視点が反映された、ユニークなトランクたちが所狭しとひしめき合っていた。当時の持ち主のイニシャルや、ステッカーなどから、世界各国にモワナのオーナーが存在していたことがうかがえる。
高い堅牢性から愛好するものが多かったというモワナのトランクを象徴するディテールのひとつ、金属部品。アーカイブで発見されたパーツはデザインとしての完成度も高く、現行の製品にデザインがそのまま流用されているものもある。内製のパーツで特許を取得していた会社は、当時パリで営業していたトランクメーカー約250軒のなかでも限られた5、6社ほどで、モワナはその代表格だったそうだ。
由緒あるトランクメーカーの代表的な顧客サービスであるイニシャルのペイントは、このオフィスフロアでおこなわれている。モワナは王室への献上品を製作していた経歴もあり、アーカイブのトランクには、王位を示す紋章やイニシャルが入ったものもあった。
現在のサービスでは、オーダーにたいして、さまざまなスタイルの文字を提案する。色だけでなく、ポップなフォントや3Dに見えるグラフィカルなドローイングをほどこすなど、ほかにはないオーダーも可能だ。
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時代を旅するトランクメーカー「モワナ」(3)
Photographs by MATSUNAGA ManabuText by IWANAGA Morito(OPENERS)
現代のアルチザン
ブティックから歩いてそう遠くない場所にあるアトリエに、アルチザンたちの作業風景の見学へ。そこは作業用の蛍光灯が明るく照らす、予想を裏切るクリーンな空間。老舗メーカーの工房といえば、現代とは距離を置いたタイムスリップしたような場所に老練の職人がいるようすを想像しがちだが、このアトリエのアルチザンたちは若い。
彼らの経歴はさまざまだが、その技術力の高さは製品の仕上がりを見ればわかるだろう。モワナに来る以前に、国から奨励され、若くして超一流のメゾンを渡り歩いてきたというものもいれば、現にトップメゾンでアトリエを取り仕切っていた経歴をもつものもいる。まさしく、エキスパートをヘッドハンティングしてつくられたチームがそこにはあった。
このアトリエでは、アッセンブリー、ステッチング、フィニッシングの工程をおこなう。分業はおこなわず、ひとつの製品にたいして、ひとりの職人がすべての工程を担当する。ひとつのハンドバッグにかけられる時間はおよそ20時間。作業時間を考えると、ひとりが1週間に仕上げられるのは、せいぜい2点だという。
アルチザンたちにモワナにたいする印象を聞いた。かつて働いていたメゾンと異なる部分は、バッグの外見以外にも、100パーセント、ナチュラルなレザーを使用するというところだという。通常であれば、裏地やパイピングなどに、使い勝手のよいシンセティックなものを使うことが多いのであるが、モワナにはそれがない。そして、仕上げにかける手間。ひとつの鞄を製作するのに費やす時間の半分を占めているのが、フィニッシングの工程というから驚きだ。
丹念なフィニッシングの成果がよくあらわれているのが、コバの部分。2枚の革を張り合わせた接合面の凹凸やざらつきをまったく感じさせないなめらかな仕上がりは、モワナのアイデンティティのひとつ。
削り、目止め塗料の塗布、乾燥――このプロセスを何度も繰り返す。美しいモワナのバッグをかたどる輪郭には、職人たちのテクニックと時間が凝縮されているのだ。
なぜ、およそ効率的とは言えない方法で製品の生産をおこなうのか。CEOのダヴァン氏は、「ひとりの職人がひとつの製品を責任をもって仕上げる。それが経営者として伝統を重んじ、クラフツマンシップへの敬意を払うことだと考えています。今後もやり方を変えるつもりはありません」と答えてくれた。
MOYNAT Paris
348 Rue Saint-Honoré, 75001 Paris, France
Tel. +33 1 47 03 83 90
好評を受け、伊勢丹新宿本館でのモワナの取扱いが再開
2013年12月25日(水)まで、伊勢丹新宿店で開催されていたポップアップショップ「ル・モワナ トランクショー」の好評を受け、2014年1月8日(水)から、同会場にて「モワナ ポップアップ ショップ」と題し、商品の販売が再開される。日本でモワナのアイテムが手に入るのは、この機会のみ。
モワナ ポップアップ ショップ
日程|1月8日(水)~1月30日(木)
場所|伊勢丹新宿本館4階 センターパーク
東京都新宿区新宿3-14-1
Tel. 03-3352-1111(代表)
モワナ
http://moynat.com/jp/