マーガレット・ハウエルの「色」の不思議

今日着ているマーガレット・ハウエルのカシミアニットはとてもお気に入りで、ほぼ毎年買い足していますが、改めてその魅力をかんがえると、結局「色」で選んでいるんですね。洋服を「素材・デザイン・色」という要素にすると、僕は「色・素材・デザイン」の順番で選んでいます。そういう自分には、マーガレット・ハウエルは選びやすいブランドのひとつです。

マーガレット・ハウエルというブランドをよく見てみると、ひとつのアイテムのなかではだいたい2色、多くて3色というカラー展開で、単品内での色数は多くはありません。世の中にこれだけモノや色があふれていると、それが逆にとても新鮮なんですね。

「今年は、この形にはこの色が絶対」というデザイナーのマーガレットさんのメッセージが感じられて、「迷わずこの色を選びなさい」と言えるのがブランドの特徴になっている。

マーガレット・ハウエルがデビューから長いあいだ、世界中でこれだけ愛されている理由のひとつに、いま、申し上げた厳選されたカラー展開があるのでは。そういう頑固さがあるからつづいているのだと思います。お客さまに「迷わせない」というのもじつは親切なことで、「この色が絶対いいですよ」という信念で服をつくっていることが買い手に伝わるんでしょうね。

ハウスホールドグッズも、これだけモノが溢れている時代には逆にチャレンジングなコンセプトだと思いますが、「あなたの暮らしにはこれがいい」というフィロソフィーとメッセージが明確だから人気なのだと思います。

ひとのことをかんがえながら真面目に服をつくる

今年オープンしたパリ・マレ地区のマーガレット・ハウエルのショップで、マーガレットさんにお会いしました。マーガレットさんやコム デ ギャルソンの川久保玲さんのような女性デザイナーの共通点はぶれないこと。それが商品に出て、ブランドの強みになっている。いい意味で合理主義なんでしょうね。ひたすら真面目にモノをつくる、余計なことはしない、広げすぎない、という基本姿勢が似ている気がします。

男性のデザイナーは自分のミューズのために服をつくるけど、メンズを手がける女性のデザイナーは自分が着たいものというより、相手（着るひと）のリスペクトからスタートしているのかもしれません。それがブランドを成立させている。ひとのことを真剣にかんがえながらモノを選んだり、つくったり、構築しているので、いいものが出てくる。

マーガレット・ハウエルの商品から感じる温かさとか真面目さというのは、「マーガレットさんからのギフト」なのかも知れないですね。「相手のことをつねに考えている」というギフトっぽい発想を私たちは感じているから、ご本人の“迷いがなくブレがない”部分に強く惹かれるのでしょう。

世の中は迷っているのに、迷いのなさが気持ちいい。マーガレットさんとの出会いが、私たちにとってのギフトなのかもしれません。

栗野宏文｜KURINO Hirofumi
ユナイテッドアローズ 上級顧問クリエイティブ・ディレクション担当
1953年生まれ。和光大学人文学部芸術学科卒業後、鈴屋を経てビームスに入社。同社で「ビームスF」店長などを務める。1989年ユナイテッドアローズ立ち上げに参画し、販売促進部長、クリエイティブディレクター、常務取締役兼CCO（最高クリエイティブ責任者）を歴任後、現在は上級顧問クリエイティブアドバイザーを務める。バイイング、ブランド・ディレクションなどのほか、エッセイなどの執筆も手がける。2004年に英国王立美術学院より名誉フェローを授与された。

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