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2024年7月3日
ロロ・ピアーナの『In To The Wild』コレクションに見るカルチャーの系譜|LORO PIANA
LORO PIANA|ロロ・ピアーナ
ロロ・ピアーナ2024年秋冬コレクション
ロロ・ピアーナが、発表した2024年秋冬コレクションは、久しぶりにカウンターカルチャーに思いを馳せるいい機会だった。『In To The Wild』と題されたそのコレクションはその名の通りにアウトドアウェアを主軸としたもので、ブランドからの資料によれば「自然とのつながりはロロ・ピアーナのマインドの一部であり、ラグジュアリーの真髄としての経験と、屋外で自然に触れることを楽しむスタイルを育むこと」とある。果たして『In To The Wild』に流れる物語は。
Text by YOICHIRO Maeda
『In To The Wild』といえば、ショーン・ペンが脚本と監督を手掛けた2008年日本公開の映画を思い出す向きも多いのではないだろうか。裕福な家庭に育ちながらも大学卒業後、全ての財産を放棄し、社会から離れてアラスカへの自由な旅に出た青年の実話を基にしたこの作品は、当時ショーン・ペンの監督としての才能とともに絶賛された。主人公の青年、クリス・マッカンドレス(通称アレクサンダー・スーパートランプ)の旅は、自己探求と解放を求める旅であり、その思想的な源流には、物質的な豊かさよりも精神的な充実を求める姿勢が根源に流れている。
ところでクリス・マッカンドレスの愛読書はジャック・ロンドンの『ザ・ロード』だったことが知られている。ジャック・ロンドンは、19世紀末から20世紀初頭にかけて活躍したアメリカの作家だ。『ザ・ロード』はホーボー(放浪者)として全米を旅し、その経験を元に書かれていて、社会の底辺で生きる人々の姿を生々しく描き出し、自由を求める魂の葛藤を表現している。そして、ロンドンの『ザ・ロード』に影響を受けたのが、ジャック・ケルアックだ。ケルアックは、1950年代の物質文化を享受する富めるアメリカを痛烈に批判したビート・ジェネレーションを代表する作家で、彼の代表作『オン・ザ・ロード』は、若者たちの自由への憧れと放浪の旅を描いた小説として、後のフラワームーヴメントにも強く影響を与えている。
『オン・ザ・ロード』の主人公サル・パラダイスは、仲間と共にアメリカ中を旅しながら、既成の価値観から解放され、自分自身を見つめ直そうとする。彼らは、社会規範や物質主義から距離を置き、自由と真理を求めて旅を続ける。クリス・マッカンドレスが、そんなジャック・ロンドンとジャック・ケルアックから、自由を求める旅人の精神の有り様に影響を受けたことは間違いないだろう。彼もまた、社会の束縛から逃れ、自分自身を見つめ直すために、荒野へと旅立った。
マッカンドレスの旅は、過酷な運命に終わったが、彼が求めた自身の物語は、ロンドンやケルアックが描いた放浪者の系譜に連なるものであり、現代社会に生きる僕たちに、自由の意味を問いかけている。
メインコレクションではないながらも、『In To The Wild』を掲げる今季のロロ・ピアーナ。プレスに確認をとった限りでは、ジャック・ロンドンからジャック・ケルアック、ホーボーからビート、それに憧れた無名の青年の物語の系譜やブランドの意図は聞かれなかった。けれども、ロロ・ピアーナが定義する現代のラグジュアリーが「本物を追求し、自分らしさを表現すること」である以上、物質的な豊かさを超えた、人生の真の意味を探求するテーマ付けに、自分らしさの探求を置いていたとしたら、それはブランドからの詩的な問いかけじゃないか。
可能ならば、焚き火を前に、こんな素晴らしいコレクションピースを着て、精神の自由について語れる、そんなインテリジェンスが欲しいものだ。
問い合わせ先
ロロ・ピアーナ ジャパン
https://jp.loropiana.com/ja/
Tel.03-5579-5182