特集|初夏を彩る、ジェントルマンの必需品 Vol.01 傘
特集|初夏を彩る、ジェントルマンの必需品
Vol.01 価値のある上質な “傘”
凡庸なファッションスタイルや価格を重視した商品が好まれる現代。かつて紳士は、手の届く範囲のなかで高価なものを求め、礼儀やマナーのひとつとして身だしなみにこだわった。名品と言われるものには、相応の歴史と背景があり、これまで多くの紳士が愛した理由がある。今回の特集では、夏のワードローブの定番であるパナマハット、傘、ペニーローファーを3回に渡って紹介する。コーディネートの提案やヒストリーの解説をくわえながら、それぞれのアイテムの魅力に迫った。
Photographs by YUASA TohruStyling by IDA MasaakiText by MURAMATSU Ryo(OPENERS)
雨の日の装いをモダンに演出
アンブレラの語源は、ラテン語の “アンブラ” である “影” を意味し、もともと日傘を指していた。雨が多いことで知られるイギリスでも、産業革命が進む18世紀ごろまで傘は婦人が使うものであり、紳士は帽子や外套で雨から身を守っていたという。イギリスで雨傘をメジャーなものにしたのは、旅行家のジョナス・ハンウェイだと言われている。彼が旅先から持ち帰った傘を、雨が降るロンドンの街で差したことが契機となり、一般にも普及していったと考えられている。
現在では、生活スタイルの変化から手ごろなビニール製のものが普及し、買い換えることが当たり前になった。このような時代のなかで、あえて傘にこだわってみてはいかがだろうか。味のある腕時計や革靴とおなじように、傘も愛着をもって扱うことで、日に日に持つひとのスタイルに馴染んでくる。とくにフォーマルな装いと相性がよく、いまの季節であれば、リネンのセットアップやシアサッカーのジャケットと合わせた、クラシックなスタイルをおすすめしたい。
下では、さまざまな服に合わせやすいモノトーンのものを中心にセレクトした。なかでも「前原光榮商店」や「スウェイン・アドニー・ブリッグ」は、傘を開くときの独特なくぐもった音が印象的で、職人が手作業で丁寧に作ったことを感じさせる。さらに「フォックス・アンブレラ」や「ロンドン アンダーカバー」は、ハンドルにあしらった天然の木材が少しずつ手に馴染み、長く使うことで経年変化を楽しむことができる。雨の多くなるこれからの季節、価値のある一本を手に入れてほしい。