リチャード ジェームス来日インタビュー 伝統の世界を変える挑戦的なスタイル
RICHARD JAMES|リチャード ジェームス
伝統の世界を変えた挑戦的スタイル
リチャード ジェームス来日インタビュー (1)
Savile Row(サヴィル・ロウ)とは、ロンドンの中心部にあるストリートの名前であり、最高峰のテーラーが軒を連ねるビスポークテーラリング発祥の地である。サヴィル・ロウの歴史は長く、これまで伝統を重んじる職人堅気のテーラーたちによってそのスタイルは守られてきた。ただし“伝統を重んじる”という言葉には“変化を拒む”という意味もふくまれていた。
ハイファッション全盛を迎え、サヴィル・ロウは活気を失っていった。そんな“アンティーク”となってしまったこの街がいま、大きな変化を遂げている。若きビスポークテーラーが続ぞくと店をかまえ、ビスポークテーラリングのあらたなスタイルを提案しているのだ。そんなサヴィル・ロウの新時代を築くデザイナーのひとりであり、革新的なパターンや鮮やかなカラーパレットでサヴィル・ロウ スーツをよりモダンに昇華させた「RICHARD JAMES」クリエイティブディレクター リチャード ジェームス氏に、ビスポークテーラリングの“いま”を聞いた。
Text by OPENERSPhoto by JAMANDFIX
「スーツを作る」という経験をしてもらうことがもっとも重要
──これまでのサヴィル・ロウを変えたいという思いがあったのですか?
RJ すばらしいクラフツマンシップのもと作られるサヴィル・ロウのスーツはパーフェクトだと思っております。そして私はつねにサヴィル・ロウへ敬意をはらってきました。ですから、変えたいというよりもこのすばらしい世界を若い世代もふくめ、もっと多くのひとに経験してもらいたいという思いが強かったんです。
──若い方には少々ハードルが高いのでは?
サヴィル・ロウのビスポークテーラーは歴史ある店が多く、その古いたたずまいには独特の雰囲気がありますのでドアを開けるには少々勇気がいると思います。なので我われのお店では誰でも入りやすいようにオープンでクリーンなイメージを心がけいます。
それから、お客さんがお店にはいって最初に会話をするスタッフには、スーツはもちろん、ファッション全体に対し造詣が深いことを求めます。また、若い方がリラックスできるよう若いスタッフが対応するようにもしています。
そういったスタッフがいるということだけでもサヴィル・ロウではかなり珍しいことなんです。通常は“カッター”という生地を切るスタッフが店頭に立ちます。テーラーの知識はもちろん豊富で、アドバイスもできるのですが、テーラーの世界しか知らないということが多いんです。
我われの店はそうではなく、世のなかの動向やトレンド、そしてファッションについてなど幅広い知識や話題を豊富にもつスタッフを揃えています。何気ない世間話やトレンドの傾向を話せることで、お客さんは「このひとなら自分の希望を理解してくれる」と安心してくださるんです。
──実際に若いお客さんは増えましたか?
平均年齢は30代くらいまでに下がってきています。なかには18~20歳くらいの若い方もいらっしゃいます。我われはいま、数あるビスポークテーラーのなかでとてもいいポジションに位置していると感じています。それはどんな方にもフィットするクラシックなデザイン、そのなかで挑戦的なスタイルを提案できるからであり、それはとてもよろこばしいことです。
──あなたが仕立てるビスポークスーツのこだわりは?
私の場合は“フィッティング”です。私が誰かのためにスーツを作るとき、もっとも重視するのはそのひとを “いちばん引き立てる”という点です。そのためには身体にフィットしているということが大切なんです。また、生地やライニング、ポケットやボタンの数などをそのひとが自分で自分のために選んで決めること、「スーツを作る」という経験をしてもらうことがもっとも重要であり、我われはそのアドバイスをしているのです。
──歴史あるサヴィル・ロウのなかで斬新なデザインを発表することに抵抗はなかった?
我われとしてはクラシックの枠のなかでデザインしていると思っています。スーツでもシャツでもパンツでも、そのもの自体の形を尊重したうえであたらしさをくわえるのであれば、それはクラシックであると考えます。
RICHARD JAMES|リチャード ジェームス
伝統の世界を変えた挑戦的スタイル
リチャード ジェームス来日インタビュー (2)
サヴィル・ロウのスーツとは相手の視点を変える一着なんです
──今シーズンはフラワーモチーフがテーマだそうですね。
じつはふたつの要素を融合させているのです。テーマとなっている色鮮やかでピースフルなフラワーモチーフに、イギリスのパブリックスクールのなかで生まれた反抗心を描いた1960年代の映画『if』から受けたインスピレーションを融合させました。まったく異なるふたつの要素を組み合わせることで、エスタブリッシュされたものとそうでないものとを掛け合わせたらどうなるか、ということを表現しています。サヴィル・ロウという完成されたエスタブリッシュなもののなかであたらしいものを提案している我われ自身にもおなじような部分があると思います。
──男性にとってスーツとはどんな存在なのでしょう?
まずひとつ言えるのは相手への敬意だと思います。相手のためにきちんとした格好をしていく、レストランであればそのレストランで食事を楽しみますというメッセージになると思います。そして重要な点はスーツはひとを引き立てるということです。きちんとデザインされたものを着て、きちんとした格好をすることで、そのひとのよさがますます引き出せるのだと思います。
──あなたにとってのサヴィル・ロウ・スーツとは?
“クラシックなものを追求したい”という思いから私はサヴィル・ロウに店をかまえました。クラシックなものとはハイファッションとはちがいます。トレンドに左右されず長く愛用できる質のよいものを作りたかったのです。サヴィル・ロウとはまさにその代名詞といえるでしょう。
サヴィル・ロウとは“卓越の道”といいますか、街自体がエクセレンスを追及しているような場所です。なので、おとずれるお客さんは年配の方や富裕層の方が多く、当然、平均年齢は高くなってしまいます。しかし、我われとしては自分を引き立たせてくれる完ぺきなるサヴィル・ロウ・スーツをもっと若い世代に訴求していきたいと思っていました。ハイファッション全盛であった世代の方がたに対し、こういった質のよいクラシックなスーツもすばらしいですよ、と伝えたかったのです。いくらか時間はかかりましたがその訴求には成功していると思います。
それからもうひとつ。視点を変えるといいますか、あたらしい視点を提案したかったのです。たとえばパーティーにハイファッションブランドのスーツを着ていくとします。すると友人からは「あなたすてきね、それ○○○のスーツね」と言われるでしょう。ところが、もしそのひとが我われのスーツを着ていたら、ブランド名ではなく「今日のあなたすてきね、それどこの?」という会話に変わるのです。
私が言う“引き立てる”ということはまさしくそうで、サヴィル・ロウのスーツとは「“ハイファッションブランドのスーツを着ているから”あなたはすてきね」ではなく、「今日のあなたはすてきね」と、相手の視点を変える一着なんです。最近ますますそういった価値観がみなさんのなかに生まれてきていると感じています。
──今後の展望は?
東京にもう一店舗、スーツに対し高い意識をもつ方の多い丸の内のような街にオープンできたらと思っております。東京のビスポークテーラリングの歴史は長く、すばらしいテーラーもたくさんいると思っています。
サヴィル・ロウのように東京のビスポークテーラリングも今後より成長できると思っています。決して簡単なことではありませんが、なによりその精神が大事だと思います。
もしビスポークスーツをお持ちでないという方がいらしたら、ぜひ一度「リチャード ジェームス」へお越しください。あなたをより引き立てる、あなたのためのスーツを我われに作らせてください。
──ありがとうございました。
Richard James|リチャード ジェームス
1992年リチャード ジェームス、ショーン・ディクソンによって設立されたビスポークテーラー「RICHARD JAMES」。そのクリエイティブのすべてをディレクションするリチャード ジェームスは、これまでにない革新的なデザインで、ブランドをたった15年で歴史あるブリティッシュテーラー界の最前線へと導いた。
サヴィル・ロウの歴史を変えたとまで言われるそのデザインは、シングルの打ち合わせやウェスト部分のテーパーシルエット、長くカットされたダブルベンツを基本とする英国的シルエットに、鮮やかなカラーパレットや大胆なパターンをもちいて永遠のクラッシクをモダンに昇華させる。その功績はメンズファッションにもっとも貢献したとして、2001年2月におこなわれたロンドンファッションウィークで、リチャード ジェームスは英国ファッション評議会より名誉ある「メンズデザイナーオブザイヤー」に表彰された。
RICHARD JAMES
東京都港区赤坂9-7-1東京ミッドタウン ガレリア1F
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