MARGARET HOWELL|祐真朋樹が語るクリエイション
Fashion
2015年5月8日

MARGARET HOWELL|祐真朋樹が語るクリエイション

MARGARET HOWELL|マーガレット・ハウエル

2014年秋冬コレクション

祐真朋樹が語るマーガレット・ハウエルのクリエイション(1)

現在のメンズクロージングの基礎を作ってきた英国。この地でおこなわれるロンドンコレクションが注目を集めている。その好評ぶりを印象づけたAW14シーズン、マーガレット・ハウエルもロンドンの旗艦店を会場にしたショーを開催した。日本での正式な展開がはじまる前から最新作まで、同ブランドの軌跡を見てきたスタイリストの祐真朋樹氏に話を伺った。

Photographs by YABUKI Takemi(W)

Interview & text by KAWASE Takuro

はじめて体験したロンドンコレクション

――今年1月に開催された、AW2014ロンドンコレクションに祐真さんが足を伸ばすことになったのは?

「2年前にティモシー・エヴェレストでタキシードを作りにロンドンに行ったことがあるのですが、ある雑誌でそれをドキュメンタリー的に取材したいということになり、5月にロンドンに滞在することになりました。そのときサヴィルロウで出会ったデザイナーたちといろいろ話をしているうちに、次第にロンドンのファッションシーンが面白くなってきていると同時に、BFR(ブリティッシュ・ファッション・カウンシル)の方から、ロンドンコレクションを観にきて欲しいとアプローチがあったのですね。あいにく当時はタイミングが合わなかったのですが、やっと今年の1月に実現しました。ロンドンコレクションを見たのは、じつは、今回がはじめてだったんです」。

――バーバリー プローサムやトム フォードといったミラノで発表していたブランドが、ロンドンコレクションに参加したことも大きな話題になりました。

「最近、ロンドンのファッションシーンが面白くなってきているという実感はたしかにありました。そうした機運があったからこそ、その2ブランドもロンドンを選んだのではないでしょうか。

実際にロンドンコレクションを見て驚いたのは、ブランドの豊富さでした。

いわゆるビッグブランドと新人デザイナーズブランド、それからサヴィルロウ系のブランドが混在しているのですが、そのバランスも非常に興味深かったです。コレクション会場が比較的コンパクトにまとまっていて、退屈せずにたくさんのブランドを見ることができました。

あと、どの会場にも椅子に携帯電話用の充電器が付いているのには感心しましたね。これはBFRが用意したものなのですが、コレクションの写真をSNSなどにリアルタイムでアップして欲しいという意図があるのでしょうね」

――2014年秋冬のロンドンメンズコレクションを通じて、感じたことを教えてください。

「すごくアヴァンギャルドなデザインもあるのだろうと予想していたのですが、実際にはよく考えられた、ウェアラブルな服が多かったのが特徴です。たとえば、ジャケットがひとつも出てこない新人ブランドがあって、丸首のかぶり物ばかりで40ルックもつづくのですが、ちゃんとコレクションとして成立している。

そのいっぽうで、メンズウェアの基礎を作ったイギリスらしく、テーラードのジャケットを主体とするブランドもある。もちろんショーピースもあるのですが、そういうブランドのデザイナー本人は丸首のセーターとジーンズという本当に普通な出で立ちで、ギャップがあったりしたことも面白かったです」

MARGARET HOWELL|マーガレット・ハウエル

014年秋冬コレクション

祐真朋樹が語るマーガレット・ハウエルのクリエイション(2)

ブレないクリエイションから見える安定感とストイックな姿勢

――ロンドンコレクションで見た、マーガレット・ハウエルAW2014の印象はどうだったのでしょうか?

「ショー会場が、ショップだったことをいま知ったのですが、やはり洋服と会場の雰囲気がマッチしていましたね。モデル選びについては、若くフレッシュでピュアなイメージでした。

全体的にシルエットがゆったりしているのが特徴ですが、決してだらしなくはない。一番気に入ったのは『2』のルックです。『1』のルックは、ネクタイをしているのに裾を出している着こなしが面白いですね。

やっぱりこのブランドはシャツがいい。そもそも僕がはじめて買ったマーガレット・ハウエルのアイテムがシャツでした。まだ京都に住んでいた1982年頃かな、一目でマーガレット・ハウエルとわかる、大胆な切り替えのデザインでした。当時は並行輸入品でしたが、すごく話題になったシャツ。高価な買い物だったのですが、ずっと気に入って着ていました」

――「2」と「3」のセットアップは、フォックスブラザーズの生地を使ったものです。こうしたセットアップやスーツの着こなしについて、どのような印象を受けましたか?

「歴史ある服地メーカーであるフォックスブラザーズの生地は、特別な存在です。マークが可愛いというのも好きな理由。『3』はイケメン王道スタイルかな(笑)。このスタイリングもシャツの裾を出しているのですが、パンツ裾丈をちょっと長めにしています。インナーのシャンブレーシャツをノータイで着ているのも、変化があって面白い。また、スーツやセットアップの着こなしで難しいのがベルト選び。

ベルトひとつで、コーディネイトが台無しになってしまうこともあります。全体的にこのブランドのジャケットは、ラペルが細めでゴージラインが低いボクシーなシルエットが特徴です。それを活かすひとつの方法として、シャツの裾出しというのは効果的ですね。

それから、『4』のルックからは素材と色合いからも英国らしいカントリーテイストを感じます。でも同時にモダンな雰囲気を漂わせているのがマーガレット・ハウエルらしいですよね。ややハイウエストでテーパードのきいたパンツを、ボリューム感のあるシューズと合わせているのもいいですね。

ほかにもアーミッシュのようなデザインをコレクションに挟んでいるのが面白かった。スーツやジャケットの下にVネックを合わせて、独特なバランスを生み出していますね」

――マーガレット・ハウエルさんご本人について、思い出深いエピソードなどあれば教えてください。

「ご本人と直接話をしたのは、白金の『寅』という炭火焼きの店でした。すごく緊張してしまって、そのとき話した内容は忘れてしまったのですが、(ホテル)オークラまで見送ったのははっきり覚えていますね(笑)。そのときもマーガレットさんは、ブルーのデニムシャツを着ていたのですが、いまでもよくブルー系のシャツを着ていますよね。年月が経っても変わらない、彼女流のスタイルなのだとおもいます」

「どこかストレンジで、面白いアイデアをもっている」

――ナチュラルでベーシック、でもどこか強い芯を感じさせるデザイン。そんなイメージのあるマーガレット・ハウエルですが、祐真さんはどのようなところに魅力を感じるのでしょうか?

「たしかに、雑誌などでベーシックやナチュラルを合い言葉にいろいろ提案していますが、そのなかで“ホッコリ系”みたいな括りがあって、マーガレット・ハウエルもそのなかに入れられることがありますよね。でもその括りとこのブランドは、ちょっと違うんじゃないかなって。ミリ単位でこだわって服を作りつづけてきたひとだからこそ到達できたデザインであって、流行だからそうしたというデザイナーとは、わけがちがう。年齢を重ねるごとに、その表現方法も広く深くなっていって、雑貨やインテリアはその表現のなかに含まれているものなのでしょう。

僕は最初ロンドンにあったハウエルのショップがすごく好きだったんですね。当時の店の雰囲気はいまとはちがっていて、夜の社交やカルチャーを感じさせるようなところがあったんです。隣のレストランにミック・ジャガーがよく来ていたという話も聞いたことがあります。そんなロケーション選びからも、彼女のとんがった部分を感じていました。

いまはガーデニングが趣味、というひとが好きそうな雰囲気のショップですが、きっとどこかに、そういうとんがった感性を隠しもっているはず。どこかストレンジで、面白いアイデアをいつももっているデザイナーだとおもいます。だからこそ、こんなに長くブランドをつづけることができるんだろうし」

――現在のトレンドは、一言で表せばベーシック。そうしたなかでもマーガレット・ハウエルは、すこしちがった存在感をはなっています。それはなぜでしょうか?

「ロンドンのブランドでありながら、マーガレット・ハウエルは僕たち日本人が頭に浮かべる『モッズ』とか『パンク』とか『カーナビーストリート』とかというイメージとは、かけ離れていますよね。でもある意味、非常にイギリスっぽくもある。たとえば、社会人になってサヴィルロウで素敵なスーツを誂えるような人に会ったとき、『この人は青年の頃に何を着ていたんだろう』とおもうと、僕はこのブランドを思い浮かべます。

高校生の頃からずっとこのブランドを見ていますが、クリーンでニートなイメージは不変。『ベーシックでシンプルだからみんな好き』ということなのだろうけれど、ただベーシックでシンプルなわけじゃない。素材選びから細部のあしらい、Vネックの空き具合やボタンの間隔……それやこれやがすべて完璧に計算されている。そんな緻密さこそ、マーガレット・ハウエルの持ち味であり、強さです。そこにほかとはちがう存在感があるのではないでしょうか」

祐真朋樹|SUKEZANE Tomoki
1965年京都市生まれ。マガジンハウス『POPEYE』編集部でファッションエディターとしてのキャリアをスタート。現在は『UOMO』(集英社)『GQ JAPAN』(コンデナスト・ジャパン)『Casa BRUTUS』(マガジンハウス)『MEN'S NON-NO』(集英社)『ENGINE』(新潮社)などのファッションページのディレクションのほか、著名アーティストや文化人の広告のスタイリング等を手掛けている。パリとミラノのコレクション観覧歴はかれこれ20年以上。

アングローバル
Tel. 03-5467-7874
http://www.margarethowell.jp

           
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