YUTA MATSUOKAがMEDICOM TOY at RESTIRのために作った3型のワンオフモデル。デザイナー 松岡佑太氏インタビュー|MEDICOM TOY
DESIGN / FEATURES
2021年1月21日

YUTA MATSUOKAがMEDICOM TOY at RESTIRのために作った3型のワンオフモデル。デザイナー 松岡佑太氏インタビュー|MEDICOM TOY

MEDICOM TOY|メディコム・トイ

1着を作りこむことで価値観と特別感を意識しました

岐阜を拠点に、デザインからパターン、サンプル縫製に至るまでほぼすべてを自社アトリエで行っている『YUTA MATSUOKA』のデザイナー、松岡佑太氏。昨年行われたメディコム・トイのポップアップイベント『AKASHIC RECORDS(アカシックレコーズ)』にて、Anne Valerie Dupond(アン・ヴァレリー・デュポン)さんとのコラボレーションモデルを発売したことも記憶に新しいが、このたび『MEDICOM TOY at RESTIR』のために3型のワンオフモデルを制作。彼のこれまでとこれからを訊いた。

Text by SHINNO Kunihiko|Edit by TOMIYAMA Eizaburo

アルティザンが生み出す芸術品のような洋服

「アルティザン」(Artisan―フランス語で職人)という言葉は、この人のためにあるのではないだろうか。自身の名を冠したファッションブランド『YUTA MATSUOKA』のデザイナー 松岡佑太氏は1990年岐阜県生まれ。名古屋学芸大学卒業後ブランドを立ち上げ、2015ssより東京での展示会をスタート以来、毎シーズン展示会形式で発表している。デザイン、パターン、サンプル縫製などほぼすべてを自社アトリエで行ない、オリジナル生地は地元・尾州で毎シーズン織るというこだわり。一着ずつ作られていくヴィンテージテイストの洋服は、まさに生活に即した芸術品といえる仕上がりだ。
YUTA MATSUOKA 2021 S/S
昨年10月にはメディコム・トイのポップアップイベント『AKASHIC RECORDS(アカシックレコーズ)』で、フランスのテキスタイル彫刻家Anne Valerie Dupond(アン・ヴァレリー・デュポン)さんとのコラボレーションでカスタムアパレルを12作品発表したことも記憶に新しいなか、1/23 (土)にラグジュアリー・セレクトショップ『RESTIR(リステア)』のEコマースプラットフォーム内に出店中の『MEDICOM TOY at RESTIR』エクスクルーシブとなる、『YUTA MATSUOKA』のワンオフモデルが3型発売されることになった。これを記念して、松岡氏にブランドのこれまで、そして『MEDICOM TOY at RESTIR』のために制作した新作に込めた思いをうかがった。

大学卒業後、すぐに自身のブランドをスタート

──まずはファッションデザイナーを志したきっかけについてお聞かせください。
松岡 両親が洋服好きで、物心ついた頃には私も大好きになっていました。高校に上がるころには漠然と洋服を作る仕事がしたいと思っていた気がします。
その後。ファッション学部のある大学(名古屋学芸大学)を卒業してすぐにブランドを始めました。まずどこかのブランドで経験を積むことも考えたんですが、まず自分でやれるだけやってみようと思い、展示会ベースで発表を続けて今に至ります。
──ファッション、映画、音楽など、これまでどのようなものから影響を受けてきたのでしょうか。
松岡 たくさんありますが、ファッションでいうと『コムデギャルソン』と『クリストファーネメス』が好きです。それは今も変わらないです。映画も色々観ますが、ギャスパー・ノエと、ギレルモ・デル・トロと、キム・ギドクの映画は特に好きですね。
音楽もジャンルに拘らず、古いのも新譜も聴きます。最近はInga Copeland(Lolina)をよく聴きます。歌のあるものだと、女性ヴォーカルの方が好きになることが多い気がします。
あとは、詳しくはないですけどアンティークなど古いもの。自分のアトリエにはショップも併設しているので、家具や標本、オブジェなどを集めてディスプレイしています。

感覚的にも物理的にも東京との距離は感じない

──『YUTA MATSUOKA』の立ち上げから現在に至るまで、岐阜にアトリエを構えて活動されていますが、そこにはどんな思いがあるのでしょうか。
松岡 岐阜は今も縫製工場や機屋がたくさんあるんです。量産は工場にお願いしていますが、できる限り目の届く範囲で生産したいという思いがあって・・・、なので何かあればすぐに行ける距離で、腕のある工場さんにお願いしています。
また、近くには新幹線も高速も通っているので、関東にも関西にもアクセスしやすく、今のスタイルでものづくりするには都合がいいです。
母親の実家が東京で、幼い時からよく東京には遊びに行っていたんです。なので、感覚的にも物理的にも東京に距離を感じてはいなくて。もちろん、常に東京にいるわけではないので情報が入ってくるのが遅かったり、横のつながりを作るのが難しいと思うことはありますけど、あえて東京で活動しようとは思いませんでした。
──オリジナルの生地を地元・尾州で作っていることや、制作工程のほぼ全てを自社アトリエで行うことへのこだわりについて教えてください。
松岡 尾州で生地を作るのは、信頼できる機屋さんが近くにいるからです。生地の知識など何もない時からお世話になっていて、今でも勉強させてもらいながら、新しい生地を作るのに協力していただいています。
卒業してすぐにブランドを始めたこともあって、大学で得た知識をもとに自分で形にするしかなかったことも大きいです。だからこそ、ほとんどの工程を自社アトリエで行う今のスタイルが始まったんです。でも、自分の作る服は責任を持って提供したいですし、その方が説得力があって、自分の世界観をつくるという点でも向いていると思うので、このやり方は続けていきたいと思っています。ブランド名を自分の名前にしたのも、そういう理由があるんです。

サンプル縫製まで行うのは、作る過程でステッチを増やしたり、変更したり、全体のバランスを確認しながら納得のいく表情を見つけやすいからです。
──昨年のコロナ禍以降、松岡さんの中で変わったことはございましたか?
松岡 基本的には変わっていません。コロナとどう向き合って服を見せていくかについては考えますが、希望を持ってもらうために、やはりファッションは必要なものだと思います。

メディコム・トイとの出会いは合同展示会

──昨年はメディコム・トイのイベントでのアン・ヴァレリー・デュポンさんとのコラボレーションが話題となりましたが、松岡さんとメディコム・トイとの出会いについてお聞かせください。
松岡 合同展示会(2019A/Wシーズン)に参加した際、赤司社長がうちのブースで足を止めていただいたのが最初だったと思います。それまでは個展のみでコレクションを発表していて、その時が初の合同展だったのですが、たくさんブランドがある中、1着1着丁寧に見ていただいた後、名刺を交換させていただき驚いたのを覚えています。その後2020ssの個展に招待させていただいた際、アン・ヴァレリー・デュポンさんの話題が出て『AKASHIC RECORDS』の話を頂きました。

プロダクツについては、やはりBE@RBRICKは素晴らしい発明だと思います。その名を知らない人でも、見たことがあるという人がほとんどだと思うので。常に新しくて面白く、興味を惹かれる企画にチャレンジしている印象が強いです。
『AKASHIC RECORDS』にて販売されたAnne Valerie Dupond × YUTA MATSUOKAのカスタムアパレル(全12ラインナップ)。

アン・ヴァレリー・デュポンさんの作品が以前から好きだった

──アン・ヴァレリー・デュポンさんとコラボレーションされた感想をお聞かせください。
松岡 以前、2Gで展開されていたBE@RBRICK × アン・ヴァレリー・デュポンを知っていて、私もアンさんの作品のファンだという話をしたのがきっかけだったと思います。後日ご連絡をいただいたときはとても驚いて、喜んだのを覚えています。

これまでコラボレーションというものをしたことがなかったのですが、初めての経験がアンさんでありメディコム・トイさんであったのは、本当に幸せなことだと思っています。ブランドを続けていると、こんな幸せもあるのだと心から思いました。

また、完成したものの写真を見たときは、想像をはるかに超えた素晴らしいものでした。イベントにも行き、生でも見ましたが、迫力があって、繊細で、本当に素晴らしい1点物になったと思います。服自体も、どれも思い入れのある商品だったので、正直1着欲しかったです。イベント自体も、圧倒的な作品ばかりで、参加できてとても光栄でした。

RESTIRには、高級で特別なイメージがある

──今回のMEDICOM TOY at RESTIRにて発売されるエクスクルーシブのワンオフモデル(black jacket、white jacket、ecru coat)について、構想から完成までの経緯をお聞かせください。
松岡 お話を頂いたとき、まずはいつもと違うアプローチで1着に時間をかけて作ろうと思いました。テーマやコンセプトを具体的に設けて取り組むのはあまり得意ではないので、1着に対して大まかなイメージをもとに感覚的に取り組みました。

初めにblack jacketを作ったのですが、これは植物の蔓や、有刺鉄線が巻き付いたイメージです。蝋引きの紐を2本撚り合わせ、不均一に結び目をつくり、ミシンでとめていきました。紐を撚り合わせて結ぶのもすべて手作業によるものなので、3点のうち最も時間をかけました。生地は数年前に尾州で初めて作ったジャガード生地です。
black jacket
価格|18万円(税別)
white jacketは、その時見ていた映画(サスペリア)をイメージしました。生地は17ssのシーズンに、これも尾州で制作したカットジャガードを洗いこんで立体感を出し、表面に走っているヨコ糸にアレンジを加え、手縫いで毒々しさと強さを表現しました。
white jacket
価格|24万円(税別)
ecru coatはアン・ヴァレリー・デュポンさんの作品をイメージしました。これを作るにあたっては、先にルールを決めました。手縫いをしないことと、白い生地を使わないことです。それは自分の色がちゃんと出るようにするためです。パーツには好きで集めているアンティークレースと、麻ヒモと、ブレード。着古した表情と、アートの要素を取り入れる為に、生地を破ったりペイントを施しています。ポケットを立体的にしたのは、アンさんの作品が布を立体造形にしている点からです。
苦心した点は、明確な完成図を決めていないので、どこでストップするべきか見極めが難しかったです。時間をかけるので数点しか作ることができませんが、1着に向き合う作業は、新鮮で楽しかったです。
ecru coat
価格|22万円(税別)
RESTIRの印象は、高級で特別なイメージなので、1着を作りこむことで高級という価値観と特別感を意識しました。
──松岡さんとしては今後メディコム・トイとはどんなことをやってみたいですか?
松岡 今回のワンオフモデルのような1着に時間をかけて作りこむことは、またやってみたいです。大変ですが、楽しんで作ることができたので。このようなことを、アンさんのような自分が好きだと思えるアーティストと、取り組めたらいいなと思います。
──最後に、松岡さんが服を作るうえで意識していること、心掛けていることをお聞かせください。
松岡 うちはシーズンテーマを設けずにコレクションを発表しているのですが、ここ数年は特に「色気」というものを意識して制作しています。表面的なものではなく、茶目っ気だったり、上品だけどどこか抜けているような奥ゆかしさだったり、内面的な。そのためには、着る人に身近で、馴染む必要があるので、できるだけ手入れが楽だけどカッコのつく服でないといけません。飾りすぎてはいないけれど、どこか違和感のあるものを心掛けて作っていきたいと思います。
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RESTIR
住所|東京都港区赤坂9-6-17
営業時間|11:00〜20:00
定休日|不定休
TEL|03-5413-3708
https://www.restir.com/
問い合わせ先

メディコム・トイ ユーザーサポート
Tel.03-3460-7555

                      
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