もはや修行ですね(笑)。人と疎遠になるくらい編み物に取り組んでいます|MEDICOM TOY
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編み物☆堀ノ内さんに聞く(1)
時代のアイコンをカラフルなセーターに編み込むSNSで話題沸騰のアーティスト、編み物☆堀ノ内さん。グラフィックデザイナーを生業としていた堀ノ内さんがニットに目覚めたのは2012年。これまではハンドメイドゆえに極少量しか作られてこなかったが、メディコム・トイとのコラボレーションにより「KNIT GANG COUNCIL featuring 編み物☆堀ノ内」というブランドがスタートすることになった。今回は堀ノ内さんが編み物を始めたきっかけ、そしてブランド設立に至る経緯をうかがった。
Photographs by Ohtaki KakuText by SHINNO Kunihiko
グラフィックデザイナーだから製図は作れる
――もともとグラフィックデザイナーの堀ノ内さんが、なぜ編み物作品を発表していこうと思ったんですか?
堀ノ内 たまたま音楽系情報サイトを見ていたら、ロックをモチーフにした手編みのセーターを世界中から集めて特集している記事があったんです。
いま見ると2、3色で編んだそんなに複雑なものじゃないんですけど、それがすごく面白くて。
一時期流行ったアグリーセーター(※欧米のクリスマスシーズンにクリスマス特有の柄を過剰に編み込んだ悪趣味さを楽しもうとするもの)みたいな感じで、自分の好きなものを編んでみようと思ったのが最初です。
それまで編み物なんてやったこともなかったんですが、グラフィックデザイナーだから製図(※絵柄を編むための図面)は作れることに気づいて。
だったらあとは技術を学ぶだけだなと思って、まずは手編みを独学で習得しました。
――独学でここまで緻密な作品を編めるのは驚きです。
堀ノ内 橋本治さんの『男の編み物 橋本治の手トリ足トリ』(1983年刊)という本がありまして。橋本さんが編んだ山口百恵さんや沢田研二さんのグラフィックのセーターが載っていて、当時すごく話題になったんです。編み物のHow to 本としてもすごく優れていて、参考書としては一番分かりやすかったです。さすが頭いい人が書くと違うなと思う説明の上手さですね。
――作品第一号は何だったんでしょう?
堀ノ内 ブルース・リーのベストです。ニットというソフトなイメージで硬派なブルース・リーを作ったら絶対おもしろいぞと思って。
次に作ったのが横山やすしさんのセーターでした。最初は初期衝動だけで作ってみたんですけど、SNSで紹介したところ自分の予想を超える反響があって。
ところが、なんとか編めるようにはなったものの1点作るのに1カ月近くかかるので、これじゃ仕事にならないなと思って、家庭用の編み機を導入しました。
ただ家庭用の編み機については何のHow to 本も出てないし、YouTubeで探してもほとんど出てこない。なので千葉にあるカルチャースクールに週一で半年ぐらい通い、マダムにまざって機械編みを習得しました。それでも1点編むのに1週間くらいかかるんですけど。
――家庭用編み機で、あれだけ複雑な絵柄が編めるものなんですか?
堀ノ内 編み機も複雑な絵柄は想定していないので、最初は複雑な絵柄は編むことができなくて。前身頃の絵柄のところだけ手編みで編んで、無地部分だけ機械で編んでいたんです。先生も編み機で絵柄を作るのは無理だとおっしゃっていたんですけど、いろいろ試行錯誤した結果、機械でも作れるようになりました。要は根気ですね。
なぜ先生ができないとおっしゃってたのかと言うと、人の顔の入り組んだ製図は、なかなか作れないからなんです。そこはやっぱりグラフィックデザインをやっている強みだと思います。
――’70年代、’80年代のサブカルチャー要素もさることながら、ロックミュージシャンをモチーフにした作品も多いですね。
堀ノ内 SNSで反響が大きいのは皆んなが好きなメジャーアーティストで、セーターで面白いモチーフを編むという僕のコンセプトは、あまり理解されないみたいなんです(笑)。
だったら、もうちょっとロック寄りでやってみようかなと思ってデビッド・ボウイのセーターを作ったら、ものすごい問い合わせがきて。
やっぱりアーティストの知名度と反響はつながるんだなと思って。それで最近はどんどんロック寄りになってきています。
――写真のようにリアルなものをニットで表現するには根気がいりますよね。
堀ノ内 もはや修行ですね(笑)。編み物を始めてからは人と会うとか飲みに行くということがほとんどなくて。作業に時間を取られちゃうので、人と疎遠になるくらい編み物に取り組んでいます。
Page02. 商品を作るうえで何よりも大切なのはタイミング
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編み物☆堀ノ内さんに聞く(2)
商品を作るうえで何よりも大切なのはタイミング
――「編み物☆堀ノ内」というアーティストネームの由来は?
堀ノ内 最初は横文字のかっこいいものにしようと思っていたんですけど、うちの奥さんが雑誌の編集者で、こういう名前はどうかなって言ったら「そんなの絶対ダメだよ。キャンドル ジュンさんみたいにひと目で何をやっているかわかるようにしなきゃ」と言われて(笑)。最初は「編み物」と「堀ノ内」の間に半角開けていたんですけど、「この半角も中途半端だからダメ。何か入れるべき」ってことで入れたのが☆なんです。
――いいお話です(笑)。「狂い編みサンダーニット」というキャッチフレーズは石井聰亙監督の映画『狂い咲きサンダーロード』(’80年)がモチーフですね。
堀ノ内 2015年に福岡のBEEHIVE DELUXEというお店の方からニットの個展をしませんかと声を掛けていただいて、その時にチラシを作るから何かキャッチコピーをつけてくださいと言われて無理矢理考えたものです。あれは編み物活動を始めて間もない最初期の展示会でした。
――2016年には東京・原宿で長い歴史を誇るパンクショップ「A STORE ROBOT」でも展示会をされています。
堀ノ内 自分の作品をセディショナリーズの横に並べていいのか? と一瞬悩みました(笑)。僕らの世代からすると憧れのショップなので「本当にいいんですか? よろしくお願いします!」みたいな感じでした。
――編み物☆堀ノ内さんの作品は、偶然にもアレッサンドロ・ミケーレがクリエイティブ・ディレクター就任後のGUCCIに代表される近年のハイファッションの動きと呼応しているようにも感じられます。
堀ノ内 グッチのニットも衝撃的ですよね。今年のミラノコレクションで発表した少女漫画の絵柄(1968年に少女漫画雑誌『りぼん』で連載された井出智香恵の『ビバ! バレーボール』のキャラクター)のニットとか、日本のサブカルチャーもどんどん取り入れて。
2、3年前の話ですけど、タクシーの運転手さんからいきなり電話がかかってきたことがあるんです。その人はグッチのデザイナーが日本に来るたび専属で運転手をされているそうですが、僕のウェブサイトを見たらしく「彼女が君のニットを見たいと言ってるんだけど、いまから行っていいか?」って。
ただ、その時は夜で既に自宅に帰っていたので作業場に行くことができなくて。あの時なぜ作業場にいなかったのだろうと思います(笑)。
――今回、メディコム・トイとご一緒されるまでのお話をうかがわせてください。
堀ノ内 今年の初め頃、赤司さんからセーターを一着作ってくれませんかという、すごく丁寧なメールをいただいたんです。もちろん作れますよ、みたいな。
だけど手編みなのでどうしても高くなっちゃうんです、量産すると単価が安くなるんですけど、というやりとりをさせていただいて。そうしたら一度お話をうかがってもいいですかということになって。
――半年程度の間にトントン拍子で進んだんですね。
堀ノ内 びっくりしました。赤司さんがおっしゃっていたのが、商品を作るうえで何よりも大切なのはタイミングなので、どんどんやっちゃいましょうと。
赤司さんも私より先輩ですけど世代的には近いので、作っているモチーフに反応していただけたんだと思います。メディコム・トイさんは新しいメディアとしての役割もすごくある感じがします。
先日の表参道でのエキシビションも、入った途端にベアブリックがたくさん並んでいて、改めてそのデザイン性の高さに感動しました。これはひとたび集めはじめるとキケンだなって(笑)。
Page03. 矢沢永吉さんが昔から大好き
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編み物☆堀ノ内さんに聞く(3)
矢沢永吉さんが昔から大好き
――その第一弾として「デビルマン」と「セクシーロボット」を作ることになったのは?
堀ノ内 空山 基先生については、コンピューター・グラフィックスのない時代にこんな精密な絵を手描きできるんだ? という感動がありました。エアブラシで絵を描く人は当時も結構いたと思います。けれどもセクシーロボットの完成度とデザイン性の高さはいま見てもすごい。当時のインタビューを読んでいても我が道を行くみたいな感じですよね。
それから私は永井 豪先生に憧れて漫画家を目指した時期もありました。おふたりとも尊敬しています。
――量産することによってお値段のほうはかなりお安くなりそうですか?
堀ノ内 ハンドメイドで一着一着作るよりはずいぶんお安く提供できると思います。量産だと糸を6色までしか使えないという制限があるんですが、そのなかでいかに素敵なものが作れるかも腕の見せどころですね。
昨年、岡村靖幸さんのツアーグッズとして作ったセーターが量産品第一号だったんですけれども、それが偶然にも同じくメディコム・トイさんとコラボが始まる「Noodle.」の飯嶋久美子さんからいただいたお話だったんです。
もともと岡村さんが私のSNSを見て、これは面白いと思ってくださったそうで。いろいろな方と交流されていて幅の広い方だなと思いました。
――「KNIT GANG COUNCIL」というブランド名については?
堀ノ内 赤司さんがつけてくださった名前なんです。最初は一過性の
コラボかなと思っていたんですがブランドまで作ってくださって、しかもfeaturing 編み物☆堀ノ内と入れてくださって。それも大変な驚きでした。メディコム・トイさんは海外にもマーケットをたくさんお持ちなので、これからの展開が楽しみでもあります。
いまメディコム・トイさんと「ロックと映画」をモチーフにしたものを作っていて、もうちょっとカジュアルに着られるものになるんではないかと思ってます。僕も最初は日常で着ることを前提にしていない作品作りとしてニットを作っていたんですけど、これからは着てくださっている人を街などで見かけるようになったらいいなと思います。
――今後の展開が楽しみです。個人制作としての編み物も続けていくんですか?
堀ノ内 はい。たぶんそのほうが面白くなるんじゃないかなと思ってます。
ギャラリーでやりませんかと言うお声掛けはいくつかいただくんですけど、全然作品がためられないんです。個人のオーダーも受けてはいるんですが、どうしても時間が足りなくて。
本業のデザイナーとしての仕事もやりつつなので、
常にグラフィックやって、編み物やって、グラフィックやってという感じです(笑)。
――最後に、堀ノ内さんの夢をお聞かせください。
堀ノ内 僕、矢沢永吉さんが昔から大好きなんです。アルバム『P.M.9』が好きで、いまでもライブに通ってます。なのでいつか何らかの形でお仕事ができたらいいなと思っています。