カッコつけてないし、かといってふざけているわけでもない|MEDICOM TOY
MEDICOM TOY|メディコム・トイ
Noodle.田中秀幸さん、飯嶋久美子さんに聞く(1)
電気グルーヴのアートワークや『OH!スーパーミルクチャン』などを手掛けるアートディレクターの田中秀幸氏と、きゃりーぱみゅぱみゅや椎名林檎の衣装を手掛けるスタイリストの飯嶋久美子氏が昨年立ち上げた実験的ファッションプロジェクト「Noodle.(ヌードル)」。<Premium error collection>と題した巨大すぎるポロシャツ、三段、四段重ねのキャップなど、いまのファッションに飽きた人、服に刺激を求めている人に向けたひねりのあるアイテムの数々は、いずれも刺激に満ち溢れたものばかりだ。
Photographs by OHTAKI KakuText by SHINNO Kunihiko
こういうものがあったら面白いよね
――そもそも、おふたりはどういう経緯でブランドを始めることになったんでしょうか?
田中 飯嶋さんとは、きゃりーぱみゅぱみゅさんの「最&高」(2016年)のミュージックビデオの撮影現場でお会いしたのが最初でしたね。
飯嶋 田中さんが監督で、私がスタイリストとして参加して。
田中 もともと僕の方で<Premium error collection>のベースとなるビジュアルを、二次元のグラフィックで作っていたんです。こういうものがあったら面白いよね、みたいな感じで。
飯嶋 それを田中さんから見せていただいたんです。最初はエラーポロシャツとエラーキャップの画像でした。
田中 そしたら「これはぜひ実物を作ったほうが面白い」という話になって。僕もこういう服を自分で作ったことがなかったので、飯嶋さんにいろいろ教えてくださいというところから一緒にやることになりました。
飯嶋 ポロシャツという定番アイテムをこんなに面白く解釈できるんだ、普通の方とは頭の構造が違うなと思って参加させていただいたという経緯です。しかも「エラー」に重きを置いたところもすごく素敵だなと思って。基本的にエラーを出してはいけないアパレル産業において、エラーを起こすことがテーマというのはシニカルな発想ですよね。すごく新しいなと思って。
――どういうところからエラーを起こそうという発想に至ったんでしょうか?
田中 例えば、コインとか切手はコレクターの間ではエラーに価値があったりしますよね。だけど、洋服では聞いたことがないなと思って。コンセプトとしてはそういうエラーをプレミアムとして解釈してほしいということです。非常に説明しづらいんですけど(笑)。
なので洋服をデザインするというより、大量生産する工業製品が起こしたエラーというものに価値を見い出す──そういうなかで突飛なシェイプが作れないかなという発想です。
飯嶋 トレンドとは疎遠というか、真逆というか。逆ですらないかも(笑)。
田中 そういうことを漠然と思っていたんですけど、現実問題としてこれを工場で作るのは難しいだろうし、パターンも必要だし、そういうことを考えると僕だけではできないから。
飯嶋 真夜中にエラーキャップをケネディ大統領にかぶせたコラージュがメールで送られてきては“何これ、すごい! しびれる!”みたいな(笑)。最初は完全にビジュアル先行でしたね。
――試作第一号は何だったんでしょう?
飯嶋 ポロシャツを8型くらい作りました。大きいのとか、短いの、襟が拡大されているもの。そこから、ちょっと首がきついようだったら少しずつ修正して。
田中 まずは二次元のビジュアル通りに作って、実際に人に着せてみて飯嶋さんが微調整するという流れでやってました。先日のメディコム・トイさんの展示でもマネキンに着せたりしないで壁に貼り付けて二次元的に展示したんですが、あれは最初のコンセプトデザインをイメージしたものです。
――工場もよく間違えずに作ってくれましたね。
飯嶋 エラーのエラーみたいなものもありました。本当のエラーみたいな(笑)。
――何段にもなった変形キャップを作るのも大変だったのではないでしょうか。
田中 そうですね。これはデザインするより実際に作る方が大変で、コストがすごくかかるので試行錯誤しているところです。どうしても職人さんが手作業でやらないといけない工程が結構あって海外の工場にも出せないので、いまの段階では高級なものになってしまうという(笑)。
Page02. ということは現段階ではMade in Japan ?
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ということは現段階ではMade in Japan ?
――ということは現段階ではMade in Japanですか?
田中 ほぼすべてそうです。TシャツやバッグにMade in Chinaと書かれていますけど、実際はMade in Japan。フェイントです(笑)。
――<Noodle Made in China >シリーズも非常にユニークです。このMade in Chinaというメッセージはどういう発想から生まれたんでしょう?
田中 Made in Chinaに関してはメッセージTシャツを作りたくていろいろ考えた末、ねじ曲がってこんなのが出来上がりましたという感じです(笑)。自ら進んで着るにはちょっとハードルがあると思うんですけど、このメッセージ自体いろんな意味で受け取られると思うし、これを面白がってくれる人に着てもらいたいなということで作りました。
飯嶋 頑張ってハードルをクリアしてほしいという。これを着て、街を歩くこと自体アブストラクトアートみたいな感じですよね(笑)。
田中 中国の人に見せても、すごく面白いという人と、これはちょっとなぁ……という人がいるんです。いまのメッセージTシャツって、かなり過激なことが書いてあっても意外と着れちゃうじゃないですか? ここまで着ようかどうしようか迷うメッセージって、なかなかないと思うので。
これを買ってくれたカメラマンの知り合いも、「Made in ChinaのTシャツを着て中華料理屋に行ったら、ちょっと変な気分だった」と言ってました。
――体験してみたいですね。
飯嶋 ぜひ。私はこれを着てレストランに行ったら、英語のメニューが出てきました(笑)。
――Noodle.というブランド名の由来についてもお聞かせください。
飯嶋 「最&高」のミュージックビデオの打ち合わせの時に、田中さんと「何が最高ですかね?」という話をしていて。
田中 「ラーメンとおにぎりかな?」みたいな話で盛り上がったんです。
飯嶋 それでステージはラーメンのどんぶり型、きゃりーちゃんの頭にもナルトが付いたという(笑)。田中さんとは好きなラーメン屋さんも一緒だったので、打ち上げでそのお店に行きましょうということになって。恵比寿の「ちょろり」という
ラーメン屋さん。
田中 ふたりとも麺類好きという共通点があったから、「Noodle.」はどうだろうって。
飯嶋 ラーメンとか、みんな好きじゃないですか。みんなが好きなものになるといいなみたいな思いもありました。
田中 なんとなくNoodle.っていう語感がすごくしっくりきたんです。フニャフニャしてつかみどころがない感じとか、ちょっとアジアっぽい感じとか、なんとなく自分たちがやろうとしていることと近いなと思って。カッコつけてないし、かといってふざけているわけでもないという。
――ブランドのマスコットキャラクターもかわいいです。
田中 これはNoodle.のシンボルマークで、いちおうヌードルマンという名前がついています。この他に昨年、上野でポップアップショップをやったときにパンダの「麺麺」というオリジナルキャラクターも考えました。
――Noodle.は、これまで昨年9月に東京・恵比寿リキッドルーム Gallery KATAで行なわれたデビュー展示会以降、オンラインストア以外では今年4月のパルコヤ上野-PARCO-のポップアップストアで販売されたくらいですよね。
田中 最初にリキッドルームで発表したときは、たくさんのお客さんに来ていただいたんですけども、ほとんどがふたりの知り合いという、身内のパーティみたいな感じでしたから。
飯嶋 知らない方たちに見ていただく機会がほとんどなくて。
――ウェブなどを見て気になっていた方も多いと思いますが、今回メディコム・トイとのコラボレーションによってさらに手に入りやすいものになりそうですね。
田中 メディコム・トイの赤司さんがうちの服をSNSでご覧になったらしく、メールをいただいたんです。もともとうち(フレイムグラフィックス)はメディコム・トイさんと『ダウンタウンのガキの使いやあらへんで!!』のフィギュアのパッケージデザインなどで
何度か仕事をさせていただいたことがありましたし、事務所がすぐ近所なんです。なので赤司さんにすぐ見てもらいたいと思って実物を何点かお持ちしたところ、即購入していただいたんです。
飯嶋 ありがたいです。
田中 もともと僕の妄想にすぎなかったものが飯嶋さんのおかげで形になって。そこから赤司さんのおかげで広く世に出ていくことができるのかなと思っています。飯嶋さんはスタイリストとかコスチュームデザイナー、僕はグラフィックデザイナーとか映像ディレクターとして仕事をしているので、お互いの分野を超えたプロダクトの商売というのはやったことがなくて。作ったのはいいけど、プロモーションの仕方も売り方もわからない。展示して知り合いに見せるぐらいしか考えつかなかったんですけど、それをしたおかげで赤司さんの目に止まったということです。
飯嶋 通常のアパレルのサイクルのように春夏物があって、秋冬物があって、コレクションがあってというプロジェクトじゃないので、どういう販路とか売り方があるだろうとずっと考えていて。
田中 僕らは洋服を作っていますけど、ペースがファッション業界とはまったく違うんです。面白いことを思いついた時に作ろうみたいな自由なペースでやっているので。そういう話を赤司さんとさせていただいたところ、だったらうちとやるのはぴったりですねという話になって。僕らが自由にものを作っているペースでものを流通させるパートナーとしてメディコム・トイさんはぴったりだなと思いました。
Page03. どんな人が着ても面白いシェイプになる
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どんな人が着ても面白いシェイプになる
――新作のデニムジャケット、パーカーも、これから寒くなる季節に向けて袖を通してみたくなります。
田中 デニムジャケットとかパーカーは僕も好きでいつも着ているものなので、そういう定番のものをエラーさせるということが面白いなと思って。なんでもエラーさせたくなっちゃうんです(笑)。
飯嶋 今後は靴もやってみたいですね。スニーカーとか。でも、エラーだと歩けるのかな? そう考えるとハードルがめっちゃ高いのかなあと思ったり。
――基本はユニセックスですか?
飯嶋 そうです。基本的にワンサイズで、サイズ展開があるのはTシャツぐらいですね。
田中 そこはこだわりというよりは、サイズ的に合えば男性女性どちらでも着られるものがいいなと思っていて。
――それもすごくいまっぽいなという感じがします。
飯嶋 昨今のファッションは何でもありですから。男の子が女の子っぽかったり。世界中の人に着てほしいですね。
田中 カタログ用の撮影でいろんな身長、体型の人に着てもらったんですけれども、ワンサイズを180センチの男性と150センチの女性が着ると見た目がまったく変わって。どんな人が着ても面白いシェイプになるんです。
――ポロシャツを着たとき、きれいなドレープが出るような生地感も素晴らしいです。
飯嶋 田中さんと「生地、どうします?」みたいな話を毎回しています(笑)。
――Noodle.のプロモーションビデオでは、石野卓球さんが新曲を提供されています。
田中 ありがたいです。そういえば卓球くん、今度スーツを作って欲しいって言ってましたよ。
飯嶋 あはは。エラースーツですか?(笑)
田中 いろんな人に面白がってもらいたいですね。
飯嶋 昨年の展示会には知人がたくさん来てくださったんですけど、エラーポロシャツがすごく売れて。定番として愛されているアイテムの威力をすごく感じました。特に女性には襟の大きいタイプがめちゃめちゃ評判よかったです。首元が詰まっていない方が快適だし、きれいに見えるので。桃井かおりさんも買ってくださったんです。アメリカに住んでいるんですけれどもなかなかいいポロシャツがなくて、ってすごく喜んでいただいて。大人の女性が楽しくなっちゃうようなアイテムは今後も狙っていきたいところではあります。
――これからメディコム・トイを通じてどんなプレミアムなエラーを起こしていただけるのか、楽しみにしています。
飯嶋 頑張りたいです。
田中 販売情報に関してはメディコム・トイさんの公式アプリ、アイテムの詳細に関してはNoodle.のホームページを見ていただければと思います。また9月30日まで東京・南青山のミツカルストア青山店でポップアップストアを展開しています。今回紹介したアイテムを手に取ることができる機会なので、ぜひ足を運んでいただけたら嬉しいです。