大阪から世界へ向けた文化装置 「VS.」に今から目が離せない | VS.
DESIGN / ARCHITECTURE
2023年10月28日

大阪から世界へ向けた文化装置 「VS.」に今から目が離せない | VS.

VS. | ヴイエス

安藤忠雄氏が監修する注目の建築が大阪うめきたに

北大阪地区の再開発計画「うめきたプロジェクト」の第2期として、2024年9月に「グラングリーン大阪」の開業が控えているが、先日その中核施設の正式名称が「VS.(ヴイエス)」と発表されたばかり。本施設の設計監修に携わった安藤忠雄氏をはじめ、気鋭のクリエイターやアーティストも数多く参加した記者発表会をここにリポートする。

Text by KAWASE Takuro

異なる事象を対立させてイノベーションを起こす

2013年のグランフロント開業によって大きな賑わいを見せているJR大阪駅の北側地区が、来年秋にさらなる変貌を遂げる。VS.には9つの開発事業者がジョインし、運営を担当するのはトータルメディア開発研究所と野村卓也事務所。会見ではこの2社の代表である山村健一郎氏と野村卓也氏(写真下)によって説明がなされ、多くの報道関係者が詰めかけた。
うめきた地区が貨物列車用の操車場であったことにも因み、正式名称に採用されたVS.にはVisionを実現するStationという意味を持たせ、さらにStudio / Stage / Society という含みを持たせたSとしても定義。一方、VS=Versusの略語である通り、ファッションと伝統工芸、食とメディアアートといったように異なる事象を対立させ、新たな価値を生み出すという意味も持たせている。
VS.はうめだの北地区と南地区を繋ぐ通路の中間部に建設が進められており、緑豊かな「うめきた公園」の景観を配慮してあえて背の低い建築とした。その代わり、施設の大部分を地下に配置している点がユニークだ。地上へと連なるスタジオAは天井高15メートルを誇る空間で、大型作品の展示やさまざまな映像作品やパフォーマンスにも対応する。
さらに連結することで多様な使い方ができるスタジオB・Cを擁し、これら3つのスタジオを繋げるホワイエは、大人数のパーティやレセプションにも利用できる。その総面積は1400㎡にもおよぶというから驚きだ。地上にひょっこりと顔を出す部分には、既存の有名コーヒーチェーンではなく、全く新しい形態のカフェが入るというのも楽しみだ。
カフェの運営は2005年創業のスタートアップ企業フィディアが担当し、同社代表の森武司氏が登壇。建築家ミース・ファン・デル・ローエから取った「ローエ」をコンセプトに掲げ、日中は世界で受賞歴のあるトップクオリティのコーヒーを、夜間はバーとして有田みかんを使ったワインなどを提供するという。オリジナルのフードも楽しみた。
施設・プレイヤー・キュレーションを三位一体とした文化装置として、テクノロジー、リベラルアーツ、国内外のさまざまな伝統文化がVS. という装置を通じて、新しいアイディアやヴィジョンの発信基地を目指すという。その重要な役割を担う人物として、孫正義育英財団の一期生かつ米ハーバード大卒の気鋭キュレーター、丹原健翔氏が紹介された。
VS.の建築は設計を日建設計が、設計監修を安藤忠雄建築研究所が担当。大阪生まれ大阪育ちの安藤忠雄氏本人が登壇し、今回の大規模プロジェクトについて、さらなる説明がなされた。冒頭から「大阪には文化がない、大阪人はケチや」と自嘲気味に語り出した安藤氏だが、「大阪に命の公園を作る」と力強く発言。人生100年の時代に、まだ見たことのない新しい世界を見せたいと意気込む。
安藤氏は大阪の歴史を改めて振り返り、戦後の御堂筋の復興時に大きく地権者の協力を取り付けセットバックさせた日本でも珍しい例や、明治から大正時代に株式仲介人として活躍した岩本栄之助氏の寄付による大阪市中央公会堂など、大阪市民の力を再確認したと語った。そして、大型ターミナル駅に隣接した世界的に見ても珍しい大規模な公園として、これから50年、そして100年続く場所を目指して監修に当たったという。
「グラングリーン大阪」のオープニングプレイベントとして、先端テクノロジーを現代アートと接続させ、各方面から注目を集めるライゾマティクス代表の真鍋大度による「オーディオヴィジュアルパフォーマンス」が、来る11月1日(水)から11月3日(金)まで開催される。「身体を使ったパフォーマンスを大阪の皆様に久しぶりにお店できることを楽しみにしています」とヴィデオメッセージにてコメントを寄せた。
次回オリンピックで正式種目となり注目を集め、特に大阪で盛んなブレイキンを含めたストリートカルチャーを紹介する大型展示、大阪万博のある2025年の4月には「安藤忠雄建築展(仮)」も控えている。日本文化と世界、テクノロジーと伝統が対立する場所=VS.の誕生によって、今後もうめきた地区から目が離せなくなりそうだ。
現在建設中のVS.をグランフロント北館から撮影。
                      
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