AUDI CONCEPT C
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MOTOR SHOW
2025年10月23日
自動車界はリストウォッチを追う? ポスト「EV至上主義」の行方
IAA MOBILITY 2025リポート
ヨーロッパを代表する自動車ショーのひとつ、IAAモビリティが2025年9月8日から14日までドイツ・ミュンヘンで開催された。過去2回と同様に、メッセ会場と無料の市街地オープンスペースの双方で展開され、期間中50万人以上の来場者を記録した。会場のスターは依然EVだったが、直面している現実とは?
Text & Photographs by Akio Lorenzo OYA
3大プレミアムが示した新潮流
メッセ会場における最大の話題といえば、いずれもBEV(電気自動車)オンリーで発表された新型メルセデス・ベンツ「GLC」と新型BMW「iX3」であった。
GLCは、ブランドの伝統的ラジエターグリルを再解釈したフロントデザインを前面に打ち出した。ちなみに、市内レジデンツヘーフェ(王宮の中庭)に設営されたパビリオンのファサードさえも、それを巨大にしたものだった。
対するiX3は、BMWの新型EV用アーキテクチャー「ノイエ・クラッセ」の採用第1弾である。満充電からの最長航続可能距離は、GLCが713km、iX3が805km(いずれもWLTP値)である。
2台は市内会場でも高い注目を浴びていた。GLCはメルセデス史上最大の39.1インチMBUXハイパースクリーンがビジターたちの度肝を抜き、同様にiX3のモダンなディスプレイ&操作システム「パノラミックiドライブ」も、体験を希望する人々の待ち列が絶えなかった。
いっぽうアウディは、数日前にミラノで世界初公開したクーペ・カブリオレEV「コンセプトC」を市内パビリオンに展示した。
2024年にジャガー/ランドローバーから移籍してデザイン・ディレクターに就任したマッシモ・フラシェッラによる造形は、限りなくミニマリスト志向である。簡潔なスクエアのブランドフェイスは、今後のアウディ車に応用されるという。
かくも造形的視点でいえば、従来以上の強い押し出しで迫ったメルセデスと、アグレッシブ志向から一転し、クリーン&シンプルを指向したBMW/アウディという二派に分かれたかたちである。
従来なら市場、とくに中国をはじめとする新興国はメルセデス流を好みそうだが、刻々と新しい世代がユーザー層になりつつある。彼らがどちらをとるか、今から興味あるところだ。
タイムラグをもって訪れた暗雲
そうしたバッテリーEV攻勢と対照的に、内燃機関モデルでも重要な新型が披露された。1台はフォルクスワーゲンの2代目「T-Roc」である。先代は2024年に西ヨーロッパにおけるVWグループ販売で最多モデルだった、と記せば、その重要度とメーカーが新型に寄せる期待がおわかりいただけるだろう。
当初EV専用車として計画していた新型カイエンを、市場投入当初は内燃エンジンとPHEV(プラグインハイブリッド)のみとすることを明らかにした。パナメーラとカイエンも、2030年代まで内燃エンジンとPHEVを維持すると声明した。
続いて9月25日、ブルームバーグは、フォルクスワーゲングループがアウディ「Q4 e-tron」を生産するツヴィッカウ工場で1週間の操業停止を予定していると発表。フォルクスワーゲン「ID.4」「ID.7」「ID.7トゥアラー」を生産するエムデン工場もすでに操業時間の短縮や、数日間の生産ライン停止を実施していると報じた。
10月に入ってからは、ドイツのメルツ首相が2035年以降の新車に対する内燃機関禁止規制を定めたEU に対して、見直もしくは撤回を求めることを明言した。
当初BEVで欧州市場の足がかかりをつかもうとしていた中国ブランドも、実はHEV(ハイブリッド)やPHEVのラインナップを拡充している。
例としてBYDはBEVの8車種には及ばないものの、すでに3車種のHEV/PHEVをカタログに載せている。
今回IAAには参加しなかったが、すでに欧州各国で存在感を増しているSAIC(上海汽車)系ブランドのMGも、BEV4車種に対してPHEV/HEV/ガソリンは8車種もあり、事実上販売を支えているのはそうしたモデルたちだ。
現れるか、自動車界の“自社ムーブメント”
ふたたびIAAモビリティに話を戻せば、フォルクスワーゲングループはT-Rocのパワーユニット選択やポルシェで前述のような現実的選択をとりながらも、EV市場におけるシェア拡大を目指した取り組みも披露した。
ひとつは「エレクトリック・アーバン・カーファミリー」だ。フォルクスワーゲン「ID.クロス」、同「ID.ポロ」にグループ内の他ブランドであるシュコダやクプラを加えた計4モデルを2026年から順次投入し、エントリーレベルのBEV市場開拓を目指す。
同一のプラットフォーム「MEB+」を用い、同じスペインの工場で生産することにより、ベースモデルの価格は25,000ユーロ(約442万円)になるという。
そう考えた場合、時計のハイエンドモデルがオリジナルのムーブメントづくりに傾倒していったのと同様、高級EVも次のフェーズとして、独自プラットフォームやバッテリーで訴求してゆくことは十分想像できる。








