フェラーリ 458 スペチアーレを試乗する|Ferrari
CAR / IMPRESSION
2018年2月23日

フェラーリ 458 スペチアーレを試乗する|Ferrari

Ferrari 458 Speciale|フェラーリ 458 スペチアーレ

自然吸気V8エンジンを積んだピュアスポーツ フェラーリ

フェラーリ 458 スペチアーレを試乗する

「360 モデナ」以降、「チャレンジストラダーレ」「430スクーデリア」とシリーズ最後を飾るにふさわしいハイパフォーマンスモデルを用意してきたフェラーリ。「458 イタリア」もその例に漏れず、マラネロは最終兵器として「458 スペチアーレ」を送り出した。新型「488 GTB」では姿を消した、自然吸気V8エンジンを積んだ伝統の乗り味を、大谷達也氏のインプレッションとともにお届けする。

Text by OTANI TatsuyaPhotographs by ARAKAWA Masayuki

レーシングカーに通ずる軽量化の努力

恥を忍んで告白すると、地下駐車場ではじめてフェラーリ「458 スペチアーレ」と対面したとき、スタンダードな「458 イタリア」とのちがいがよくわからなかった。なるほど、そのアピアランスからは何ともいえない凄みが伝わってくるものの、それが何のせいなのかが判然としない。さすがに、後輪の直前に垂直に切り立ったエアロダイナミックフィンには気がついたものの、それ以外の特徴を私は具体的に指摘できなかったのである。

それでもコックピットに乗り込むと、この特別(スペチアーレ)なフェラーリの特別たる所以が少しずつわかってくる。その特徴をひとことでいうと、レーシングカーに通ずる軽量化の努力がいたるところにあらわれている、となるだろう。

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たとえば、シートは簡素な作りのスポーツタイプで、リクライニングやスライドはすべて手動。ただし、クッションも決して厚くはないものの掛け心地は悪くなく、サイドサポートはかなり深めなのに乗降性は上々という、シンプルに見えて実はよく練られているのがこのシートの特徴でもある。

助手席側に目をやるとグローブボックスは見当たらず、そこにはパッセンジャー用の大型のニーパッドが取り付けてある。そしてカーペットが張られていないフロアには前方に巨大なフットレストが設けられている。どちらも、強大な加速Gにさらされる乗員が少しでも安楽でいられるようにするための“心配りグッズ”だが、まるで往年のラリーカーを見ているようで気分が盛り上がってくる。

さらにいえば、ダッシュボードの造形そのものは458 スペチアーレと共通ながらカーボンが多用されていていかにも軽量そうだし、センターコンソールは「あれ、こんなにシンプルだったっけ?」と首をかしげたくなるほどあっさりした作り。それらは、車内をレーシングカー的な雰囲気で満たす大きな要因となっている。

Ferrari 458 Speciale|フェラーリ 458 スペチアーレ

自然吸気V8エンジンを積んだピュアスポーツ フェラーリ

フェラーリ 458 スペチアーレを試乗する (2)

男らしい設定

スタンダードな458 イタリアとのちがいは、エンジンを始動させるとさらに際立つ。アイドリング時に、エンジンがときどき“ブルルッ”と身震いするのだ。これもキャブレターで燃料を供給していた時代の高性能車にありがちな特徴だが、おそらくフェラーリはわざとそうした演出を盛り込むことで、これがいかに特別なクルマであるかをドライバーに伝えているのだろう。

1速を選択してスロットルを優しく踏み込む。その瞬間、458スペチアーレはふわっと浮き上がったかのような、極めて軽快な身のこなしを見せた。さらに数メートル進んだところで右足のつま先にほんの少しだけ力を込めると、このクルマはまるで地球の重力から解き放たれているかのごとく、瞬時にスピードを増していく。

ひとことでいえばレスポンスが鋭いのだが、重いクルマを強大なパワーで突き動かしているのとはまるでちがう、まるでレーシングカートやフォーミュラカーのような加速感なのだ。ここでもキーワードとなるのは、やはり“軽さ”である。

こうした感覚の源といえるのが、ボディ自体の軽さにくわえて、ギア比が低い点にある。5速は40km/hから使えるし、50km/hになれば6速にエンゲージされ、70km/hで7速に入る。100㎞/h巡航時のエンジン回転数は7速でおよそ2,700rpm。しかも、首都高をオートマチックモードで走行中、渋滞に遭遇して減速したところ5速までキックダウンして私を大いに驚かせた。

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おかげで日本の公道でもエンジンの“おいしいところ”を無理なく引き出せる。ハイギアリングにしてエンジン回転数を落とし、燃費を稼ごうとする昨今のハイパフォーマンスカーに敢然と背を向ける、実に男らしい設定といえる。

首都高の遅い流れに身を任せている状態からぐっとスロットルペダルを踏み込むと、またしてもギクシャクした身のこなしを見せた。

もちろん、ていねいな操作を心がければスムーズな加速も可能だが、こちらも意図的にそう躾けられていることは明らか。裏を返せば、滑らかな運転ができたとき、ドライバーはこの特別なフェラーリを我が物にしたかのような満足感を得ることだろう。

Ferrari 458 Speciale|フェラーリ 458 スペチアーレ

自然吸気V8エンジンを積んだピュアスポーツ フェラーリ

フェラーリ 458 スペチアーレを試乗する (3)

9,000rpmまでまさに一瞬

それにしても、このエンジン音はどうだろう。マラネロ生まれのスーパースポーツカーであるからして音が悪いはずはないのだが、その音色は458 イタリアとは決定的にことなる。あちらは、8つのシリンダーが爆発している様子を微塵も感じさせることなく、まるでよく訓練された弦楽器奏者のように滑らかで美しい音色を響かせる。

いっぽうの458 スペチアーレはもっと粒立ちのいい音だ。不要な雑音成分を含んでいない澄んだ音色という意味では458 イタリアと共通ながら、そのトーンはバイオリンというよりも、真空管アンプによって軽いオーバードライブを効かせたエレクトリックギターに近い。かといって品の悪いところは一切なく、音量自体もどちらかといえば控えめで、実に心地いいサウンドなのだ。

そんなエグゾーストノートに耳を傾けつつ、時にスロットルペダルを強く踏んだり、軽く離してみたりを繰り返してみる。右足に力を込めれば、タコメーターの針はレッドゾーンの始まる9,000rpmまでまさに一瞬で届く。そのときに感じるのも、あくまでも軽快感だ。これもまたレーシングエンジンに共通する特徴だが、荒々しいところは微塵も感じられないところがいかにもモダン フェラーリらしいといえる。

軽いといえば操舵力も軽め。ステアリングをすっと切り込むと、ノーズはなんの遅れもなくすっとそちらの方向を向く。別に458 イタリアがなまくらなハンドリングだったというつもりはないが、一度この458ス ペチアーレを経験すると、記憶に残る458 イタリアの感触がまるでラグジュアリーセダンのように思えてくるから不思議なものだ。

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乗り心地も同様。458 スペチアーレはサスペンションがはっきりと固められているが、アーム類や取り付け部の剛性が恐ろしく高く、しかもそれらがフリクションのかけらも感じさせないくらいスムーズな動きを見せるため、乗り心地はさらーっとしていてまったく不快に感じられない。

これもレーシングカーに通ずる感触で、一度こちらを味わったら458 イタリアがまたしてもラジュグアリーセダンにおもえてくることだろう。

Ferrari 458 Speciale|フェラーリ 458 スペチアーレ

自然吸気V8エンジンを積んだピュアスポーツ フェラーリ

フェラーリ 458 スペチアーレを試乗する (4)

見事なトラクションコントロールの設定

さて、そんな軽快感の塊のような458 スペチアーレをワインディングロードで走らせて楽しくないはずがない。実は、箱根のタイトな道幅では1,951mmの全幅を持てあましてしまうのではないかと心配していたのだが、走行ラインをそれこそミリ単位でコントロールできるので、ボディの大きさはまったく気にならない。

そんなハンドリングに助けられながらペースを上げていくと、タイトコーナーではトラクションコントロールの警告灯がチカチカと点滅するようになってきた。605psのパワーをリアの2輪だけで受け持つのだから当然といえば当然のことだが、このトラクションコントロールの設定が実に見事で、エンジンパワーの抑制はあくまでも最小限に留められるのだ。

つまり、後輪がスキッドするのを防ぐための制御というよりも、後輪のグリップを確保して積極的にトラクションを稼ぎ出すための制御であるように感じられるのである。「そんなの当たり前」とあなたはいうかもしれないが、トラクションコントロールの効きをここまでギリギリに抑えている例は滅多にない。だから飛ばしていても自分がクルマをコントロールしているという実感が強く、フラストレーションを感じずに済むのである。

いっぽう、ステアリングを操作する度にヒシヒシと感じられのがノーズの軽さ。そのレスポンスの鋭さは、繰り返しになるがレーシングカートやフォーミュラカーに比肩する。ただし扱いにくさは皆無で自分の思い描いたままにコントロールできるため、フロント:245/35R20、リア:305/30R20のミシュラン パイロットスポーツ カップ2が生み出す横Gを最大限まで引き出すことができる。

いやいや、そんな大それたことを何気なく口にできるほど私のスキルは高くない。それでも、458 スペチアーレであれば本当にタイヤの限界を使い切れるのだ。「スーパースポーツカーは、見ている分には楽しいけれど、日本の公道で走らせたらストレスが溜まるだけ」と思い込んでいる方々には、是非458 スペチアーレを試していただきたいとおもう。

Ferrari 458 Speciale|フェラーリ 458 スペチアーレ

自然吸気V8エンジンを積んだピュアスポーツ フェラーリ

フェラーリ 458 スペチアーレを試乗する (5)

フェラリスタにとって重要なこと

付けくわえるならば、走れば走るほどクルマとの一体感が深まるのが458 スペチアーレのもうひとつの特徴である。そうやってペースをさらに上げていったところ、2速を使うタイトコーナーからの立ち上がりでスロットルペダルを深々と踏み込んだ拍子に、バランスをまったく崩すことなく4輪がきれいに斜めにスライドしていく妙技を見せた。その瞬間、私は458スペチアーレを完全に我が物にしたような感覚にとらわれ、深い満足感に満たされたのである。

限界を引き出せるスーパーカーという特性はランボルギーニ「アヴェンタドール SV」でも味わえたし、“ドリフタビリティ”という言葉を標榜して登場したマクラーレン「650S」でもはっきりと感じ取ることができた。

その2台と458 スペチアーレを比較してどちらが優れているかを論じるのは無益なことだが、フェラリスタにとってひとつ重要なことは、これが自然吸気V8エンジンを積んだ最後のピュアスポーツ フェラーリになる可能性が高いという点にある。

ご存知のとおり、V8フェラーリの主流はターボエンジンを積んだ「カリフォルニア T」、そして「488 GTB」にシフトしつつある。それらを否定するつもりはないが、いずれにしても、長い歴史を誇る自然吸気のV8フェラーリが消えつつあるいま、スポーツドライビングを心から楽しめる特別なモデルが登場したことは偶然ではないはずだ。

そんな歴史的記念碑ともいえる458 スペチアーレ、扱い易いだけにどれだけ長い距離を走らせても飽きることはないのだが、ここぞというときだけ慈しむように乗りたくなる貴重なモデルであることもまた事実だろう。

Ferrari 458 Speciale|フェラーリ 458 スペチアーレ
ボディサイズ|全長4,571×全幅1,951×全高1,203 mm
ホイールベース|2,650 mm
トレッド 前/後|1,679 / 1,632 mm
重量|1,430 kg
エンジン|4,499cc V型8気筒
最高出力| 605ps/ 9,000 rpm
最大トルク|540Nm/ 6,000 rpm
トランスミッション|7段デュアルクラッチ
駆動方式|MR
タイヤ 前/後|245/35ZR20J9 / 305/30ZR20
ブレーキ|カーボンセラミック(CCM3)
最高速度|325 km/h
0-100km/h加速|3.0 秒
0-200km/h加速|9.1 秒
0-400m加速|10.7秒
フィオラーノ・ラップタイム|1分23秒5
燃費|11.8 ℓ/100km
CO2排出量|275 g/km
燃料タンク容量|86 ℓ
参考価格|3,290万円(販売終了)

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フェラーリ

https://www.ferrari.com/ja-JP

           
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