フォード マスタング 50 イヤーズ エディションに試乗|Ford
CAR / IMPRESSION
2015年7月10日

フォード マスタング 50 イヤーズ エディションに試乗|Ford

Ford Mustang 50 Years Edition|フォード マスタング 50 イヤーズ エディション

あらたな歴史を作る第6世代モデル

フォード マスタング 50 イヤーズ エディションに試乗

誕生から50年を経たマスタングの記念モデルとして、フォード・ジャパンは「50 イヤーズ エディション」を4月に発売を開始したが、わずか1ヵ月たらずで予定販売数の350台を完売。慌てて200台を追加輸入するという人気ぶりを見せている。第6世代へと進化した新型は、1964年にデビューした初代モデルのデザインをモチーフに、現代的に再解釈。モダンに変身したエクステリアが目を引くばかりでなく、パワートレーンやシャシーも全面刷新されている。独自の進化を遂げたフォードのFRスポーツカーに櫻井健一氏が試乗した。

Text by SAKURAI KenichiPhotographs by TSUKAHARA Takaaki

マスタングのための独自設計

1964年に初代「マスタング」が登場した際は、フォードがもっていた既存のシャシーやパワートレーンを流用、2ドアクーペのボディを採用しスタイリッシュに仕上げた、いわゆるスペシャリティカーであった。

ベースになったのはフォード「ファルコン」。そのためマスタングは、スタイリッシュでありながら比較的低価格で発売され、若者を中心に大ヒットを飛ばし、このカテゴリーの立役者となった。シボレー「カマロ」やポンティアック「ファイアバード(トランザム)」といったフォロワーを生み出し、2ドアクーペブームが世界中を席巻したのも、元はといえばこのマスタングの功績である。

Ford Mustang 50 Years Edition|フォード マスタング 50 イヤーズ エディション

Ford Mustang 50 Years Edition|フォード マスタング 50 イヤーズ エディション

それから50年後の2014年。誕生から50周年を迎えたマスタングは、よりスタイリッシュなボディと最新のパワートレーン、専用のシャシーを得て第6世代に進化した。フォードの他の乗用車ラインナップがFF化するなかで唯一FRを貫き、デビュー当初とはことなりシャシーがマスタング専用であることを考えれば、もはやスペシャリティカーと呼ぶことを躊躇するほど独自の進化を遂げてきた。

2000年代に入ってから、燃費やライフスタイルの変化を理由に、アメリカンブランドや日本のライバルというべき2ドアスペシャリティカーが生産中止に追い込まれる中、マスタングは孤軍奮闘。現在にいたるまで、1度も生産を休止することなく歴史を紡いできた。2ドアスペシャリティカーのライバル、シボレー「カマロ」は2002年、ダッジ「チャレンジャー」はそれよりも前の1983年に生産を中止。早々とこのマーケットから撤退していた。

現行モデルのひとつ前となる我々がよく知る第5世代モデルは、ご存知のように北米市場で大ヒットを飛ばし、2005年から2014年という長きにわたり生産された。それに刺激を受けたクライスラーはチャレンジャーを2008年に、シボレーはカマロを2009年に復活させた。カマロは映画『トランスフォーマー』で華々しく活躍しているイメージなのだが、実際は2002年の生産中止から復活には7年を要した。

かつて「ポニーカー」と呼ばれた伝統の3モデルが、ふたたびそろい踏みしたのは、じつは極めて最近のことでもあるのだ。

Ford Mustang 50 Years Edition|フォード マスタング 50 イヤーズ エディション

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あらたな歴史を作る第6世代モデル

フォード マスタング 50 イヤーズ エディションに試乗 (2)

初代モデルがモチーフ

ライバル達の事情を横に、アメリカンスポーティカーを代表するアイコンとして世界中にファンを持つマスタングは、1994年に日本でも正規輸入が開始された(当時はフォード・セールス・ジャパン)。2014年はマスタング輸入開始20年の節目の年でもあった。日本での累計販売台数は1万7,000台以上といわれており、これがアメ車のスポーツカー=マスタングといわれるひとつに理由にもなっている。

さて、進化した第6世代モデルのボディサイズは、全長4,790×全幅1,920×全高1,380mmという数値。従来のモデルに比べ、全長がマイナス25mm、全高がマイナス35mm、全幅は40mm拡大された。ホイールベースは第5世代モデルの2,720mmと同一である。したがって、よりワイドアンドローを強調するアピアランスとなったことが実車からもよくわかる。

Ford Mustang 50 Years Edition|フォード マスタング 50 イヤーズ エディション

Ford Mustang 50 Years Edition|フォード マスタング 50 イヤーズ エディション

特徴的なエクステリアデザインは、先にも説明したように初代モデルがモチーフになっている。シャークノーズと呼ばれる逆スラント形状のフロントフェイスや、そこに収まる台形のグリル、3つに分割されたテールライトのデザインなどは、マスタングをよりマスタングらしく見せるパート。こうした伝統的なデザイン要素をもちいながらも現代流にアップデイトさたフォルムは、誰にもひと目でマスタングだとわかるフィニッシュである。

水平基調で左右対称のデザインを採用するダッシュボードなど、インテリアもまた、マスタングの伝統に則ったものだ。ツインアイブローと呼ばれる眉毛を連想させる小さなひさしをデザインしたダッシュボードは、1964年の初代モデルにも見られたデザインエレメント。しかしその質感は、大幅にグレードアップしている。スポーツカーを印象付ける若干タイトなデザイン、緻密に組み込まれたパネルやスイッチ類、ステアリングホイールやシフトノブの感触は、これまで以上に上質だ。

さらに、当初日本に導入される左ハンドルの50 イヤーズ エディションでは、フロントシートにシートヒーターとクーラーを完備し、またエアコンやオーディオ、ハンズフリー電話や車両セッティングなど車内のさまざまな装備や車両情報を、8インチのタッチスクリーンをもちいてスマートフォン感覚の直感的な操作や音声(英語音声)で簡単にコントロールできる最新のドライバーコネクトテクノロジー、MyFord Touch(マイフォードタッチ)も備わっている。

オートエアコンは左右独立温度調整機能付きで、快適性が求められる現代のスポーツカーとして、申し分のない装備を得ているといえるだろう。

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フォード マスタング 50 イヤーズ エディションに試乗 (3)

マルチリンクを初採用

しかし、こうした内外装以上に進化したのがシャシーやパワーユニットなどのハードである。従来モデルのシャシーは、ルーツを探れば1979年のFOXフレームを採用した第3世代モデルまで遡ることが可能だ。いまでは乗用車用としてはほとんど見られなくなったリジッド式のリアサスペンションを採用した初期のそれは、伝統的なFRスポーツカーらしいといえば聞こえは良いが、サスペンションのアタリが若干ハードであったほか、リアスライドが始まるとそれを収めることはともかく、コントロールするのにはかなりのスキルを必要とした印象がある。

それでも長年使ってきたこのシャシーは、5世代目モデルでは究極といえるまでに熟成された。直進安定性はもとより、FR車らしいハンドリングと挙動がファンの心をつかんで離さなかったのだ。V8との組み合わせも完成の域に達したといえ、後期モデルで採用された電動パワーステアリングは、誰も電動化の違和感を訴えることがないほど、広くユーザーに受け入れられた。いわれてはじめて「電動だったの?」と気づく(いや多分、いわれなければ本当は気づかない)人がほとんどである。

Ford Mustang 50 Years Edition|フォード マスタング 50 イヤーズ エディション

Ford Mustang 50 Years Edition|フォード マスタング 50 イヤーズ エディション

事実、熟成されたシャシーがもたらす走りは定評があり、北米で“ドリフトマシンといえばマスタング、マスタングといえばドリフトマシン”とさえいわれるまでになっていた。走り屋系の映画で重用されるのも、こうした走りのポテンシャルがあってこそ。単純にカッコ良いからという理由の他に、チューニングパーツが豊富で、プロがコントロールする際、見栄え良く派手にパフォーマンスが可能だったからマスタングは選ばれていたのである。つまり、5世代目は、それほどまでの完成度を誇っていたということだ。

第6世代モデルでは、マスタング史上はじめて、リアサスペンションにマルチリンクを採用した。試乗前は、(5世代目の良さを知るだけに)大きな懸念材料がふたつあり、これがそのひとつだったが、マルチリンクサスペンション導入による“らしさ”の不足感は杞憂に終わった。クルマの挙動はとてもわかりやすく、路面情報がステアリングを経由しドライバーによりダイレクトに伝わるようになった。

ビギナー向けといっては語弊があるかもしれないが、一番のちがいは高速コーナーでのマナーだ。リアのグリップ力は大幅にアップし、山道を攻める程度では、リアがスライドをはじめるようなケースはほとんど見受けられない。それほどまでにリアが粘りボディの安定性が確保され、誰にでも乗りやすくセッティングされていたのだ。

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あらたな歴史を作る第6世代モデル

フォード マスタング 50 イヤーズ エディションに試乗 (4)

直列4気筒ターボの実力は

これには50 イヤーズ エディションに装着されているハイパフォーマンスタイヤ、ピレリ「Pゼロ」の存在も大きく影響しているはずだ。ひとことで表現すれば、非常にグリップ力が高くコントロールしやすいということ。誰が乗っても、パワーのあるFR車を操る楽しさが蘇ってくるはずだ。シャシーのポテンシャルは相当に高く、反面では、これまでのようにアクセルオンで簡単にリアをスライドさせ、アグレッシブな走りを楽しむというわけにはいかなくなった。そこに持っていくには、相当なスピード域に達してなければならない。

パワーのあるFR車と走りを紹介したが、6世代目の日本導入初期モデルには、お馴染みのV8エンジンは搭載されていない。これがもうひとつの懸念材料だった。あらたに搭載されたのは、ダウンサイジングされた2.3リッターの直列4気筒DOHC直噴ターボチャージャーユニット、“2.3リッター EcoBoost”である。最高出力231kW(314ps)/ 5500rpm、最大トルク434Nm (44.3kgm)/ 3000rpmは、じつは223.6kW(304ps)を発生する従来型の3.7リッターV6の上をいく。

Ford Mustang 50 Years Edition|フォード マスタング 50 イヤーズ エディション

Ford Mustang 50 Years Edition|フォード マスタング 50 イヤーズ エディション

マスタングにまさか直列4気筒のターボエンジン? といぶかる向きもいるだろう。かくいう自分がその筆頭なのだが、歴史をひもとけば、1979年に登場した第3世代モデルではすでにフォード初のターボエンジンとして、2.3リッターの直列4気筒ターボエンジンを採用していた。デザインと同様に、2.3リッター EcoBoostパワーユニットの採用も過去へのオマージュなのである。

2.3リッター EcoBoostは、低速域からじゅうぶんなトルクを発生させる。ターボと聞いて想像するようなタイムラグや唐突なパワーの出方などはいっさいない。いわれなければ電動パワーステアリング同様、こちらも自然吸気エンジンかとおもうような軽快な回転上昇感が得られる。このあたりのセッティングはとても上手い。力を込めた右足に即座に反応するトルク感とシームレスに連動する加速フィーリングは、とてもターボエンジンのそれではない。わずか2.3リッターの排気量がマスタングにふさわしいものかと懐疑的であったが、このパフォーマンスであれば、もちろん自分も含めどこからも文句は出まい。

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マスタング初となるパドルシフトを備えた6段ATを駆使し、シフトダウン。直4エンジン搭載ゆえに軽いノーズは、ステアリングの操作に対しリニアに反応してくれる。適度な手応えとともに、ノーズがスッと内側に入り込むソリッドな反応は、これまでのマスタングからの優性遺伝だろう。そこから右足に力を込め、パワーを後輪に送る。しかる後にアクセルで曲がると比喩されるダイナミックで爽快な走りがもれなく味わえることになる。

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あらたな歴史を作る第6世代モデル

フォード マスタング 50 イヤーズ エディションに試乗 (5)

右ハンドルモデルをラインナップ

「アメ車=高速道路だけの直線番長」という評価は、残念ながらマスタングには当てはまらない。アメリカンマッスルカーの単純なイメージなどはそこになく、誤解を恐れることなくマスタングをハンドリングカーだと紹介したい。

しっかりしたボディとシャシー、グリップの良いタイヤとサスペンション、アクセルにリニアに反応するエンジン。スポーツカーを構成するエレメントに不足はない。もしもネガとして何かを伝えなければならないとするなら、それはワインディングロードを楽しむにはいささか大きなボディサイズのみである。むろんこのサイズ感を許容できるのであれば、それすら問題にならないのは当然であるが。

Ford Mustang 50 Years Edition|フォード マスタング 50 イヤーズ エディション

Ford Mustang 50 Years Edition|フォード マスタング 50 イヤーズ エディション

「50 イヤーズ エディション」では、こうしたワインディングでの走りをサポートする専用チューニングのサスペンションと大型のブレーキローター&キャリパー、アドバンストラック(スタビリティコントロール)のプログラムをスポーティな走行に対応したパフォーマンス パッケージを標準装備する。

路面の凹凸や進路の変化をモニターしながら、強い横風や路面のうねりなどによるステアリング操作をサポートする“ドリフト補正機能”や、電動パワーステアリングにはステアリングホイールの微小なブレや震動を感知して、それをシームレスに打ち消す制御をおこなう“アクティブニブルコントロール機能”も装備。こうした最新の電子デバイスが、知らず知らずのうちにドライバーをサポートしてくれている。

6世代目の発売は、まずはこの左ハンドルの50 イヤーズ エディションのみ。日本導入は当初350台の限定だったが、発売から1か月足らずで完売したため、200台が追加輸入されるという。その後は、コンバーチブルモデルと、最高出力223.6kW(441ps)と、これまでどおり圧倒的なパワーを誇るV8ユニットが日本に導入されるが、その際は2.3リッター EcoBoostも合わせて、右ハンドルでのラインナップになるという。マスタングが右ハンドルモデルをラインナップするのは、もちろん歴代初である。

こうした日本や左側通行地域向けとなる右ハンドルモデルのラインナップ開発は、フォードが提唱する「One Ford」戦略の一環だ。そう、マスタングも、これまでの北米専用モデルから、「フィエスタ」や「フォーカス」「クーガ(北米ではエスケープ)」のようにグローバルモデルへと大きく舵を切ったのである。

Ford Mustang 50 Years Edition|フォード マスタング 50 イヤーズ エディション

Ford Mustang 50 Years Edition|フォード マスタング 50 イヤーズ エディション

もしも、仮にアメリカンマッスルカーらしくオリジナルの左ハンドルモデルを楽しみたいとするのなら、チャンスはいましかない。ただし、その場合パワーユニットは直4の2.3リッター EcoBoost限定で、だ。6世代目の新型マスタングでは、V8+左ハンドルという、これまで誰もが当たり前だとおもっていた人気のラインナップが導入されない。

オリジナルにこだわり左ハンドルを選ぶか、それともV8を待つか。ファンには悩ましい選択だろうが、2.3リッター EcoBoostは想像以上のパフォーマンスを発揮し、それはマスタングというスポーツカーにあってもなんら違和感のない走りをもたらすと、最後にひと言だけ付けくわえさせていただく。

Ford Mustang 50 Years Edition
フォード マスタング 50 イヤーズ エディション

ボディサイズ|全長 4,790 × 全幅 1,920 × 全高 1,380 mm
ホイールベース|2,720 mm
トレッド 前/後|1,580 / 1,645 mm
重量|1,660 kg
エンジン|直列4気筒直噴ターボ
総排気量|2,260 cc
ボア×ストローク|87.5 × 94.0 mm
最高出力|231kW(314 ps)/ 5,500 rpm
最大トルク|434Nm(44.3 kgm)/ 3,000 rpm
トランスミッション|6段AT
駆動方式|FR
サスペンション 前/後|マクファーソンストラット/マルチリンク
ブレーキ 前/後|ベンチレーティッドディスク
タイヤ 前/後|255/40 ZR19
価格|465万円

フォードお客様相談室
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