『ONE GRAVITY』デザイナー 猪股裕樹 インタビュー第二回
Fashion
2015年4月13日

『ONE GRAVITY』デザイナー 猪股裕樹 インタビュー第二回

「ONE GRAVITY」デザイナー

猪股裕樹インタビュー 第二回

ひきつづき、『ONE GRAVITY』のデザイナー猪股裕樹さんに、ブランドの立ち上げまでの経緯、そしてファッションのデジタル化への考え、デザインの方法についてなど、おはなししていただいたインタビューの第二回目。

文=金子英史(本誌)

─いまは、地方に行っても大手のセレクトショップさんが入られていますからね。そこにはやはり勝てないですよね。

そうです。でも、当時は人口がたった30万人くらいしかいない都市なのに服が売れていたわけですから、すごい時代でしたよね。そのときに感じたのは、人がすくないということはそれだけお客さんに対して目のとどく範囲で取り込めるということでした。

─一種のコミュニティをつくるということなんでしょうね。

そう。でも、それって都心部ではできないことですよね。まして多店舗じゃできない。

─コミュニティをつくってそこでお金をまわしていく方法って、音楽でいうといわゆる演歌ですよ。でも、それがビジネスの基本的なカタチなのかもしれないですよね。
いまは、そこからさらに進んでインターネットで服を売り買いできる状況になっているわけですけれど、つくり手側としては、このインターネット化──いわゆるデジタル化の状況をどのようにみているのでしょうか?
猪股さんのところは、ホームページもなければ、ネットで物販もやっていないわけですけれど。

モノを買うという行為は、そのモノに対する喜びとか感動に共鳴して、はじめて欲しいと思う、そういう部分だと思うんです。インターネットだと誰かが着ていたとか、そういう余計な情報の部分に価値観がある人にとってはとてもいいツールになるんでしょうけれど、残念ながらモノとしての価値は伝わらないですよね。さわれないし、色だって、じっさいのものとはちがうはずだし──。という意味で、インターネットで服を買うという行為に関していえば、自分にはよくわからないのです。
服以外のジャンルであれば、そういうスタイルでかまわないものもたくさんありますけれどね。みずから感触を得る喜びを放棄しているとしか、僕には思えないんですよ。だから、ネットで服を買うという行為は、店頭に行って服を買うという行為とはまったく別のものなんじゃないかな。そういったちがう楽しみを感じられるひとは、インターネットで服を買えるんでしょうね。
それは、世代的な価値感のちがいなのかもしれないですけれど。

─上野のアメ横とかって、いっぱいものがあるじゃないですか? 買うものを決めて行ったはずなのに、結局ちがうものを買って帰ってくることが個人的によくあったんです。だけど、インターネット通販だとそれが少なくなったような気がしますね。じっさいの現場においてもそう感じてはいるのですが、お金に余裕がなくなったのかはわからないですけれど、そういった文化自体がなくなってきたような気がします。

どこにいっても同じような状況、いわゆる同質化ということもあるんでしょうね。
お店に行ったときに、目的のモノじゃないんだけれど「これは素敵だ!」から「買ってしまおう!」に意識がうつるモノが減ったんだと思うんです。どこに行ってもおなじような、ヘタするとおなじブランドのおなじ品番のものが置いてあったりするじゃないですか?

─なんだかもったいない気がしますよね。

もったいないですよ! だけど、ビジネス的に考えれば、仕入れでやっていたものをオリジナルでつくるようになって、それが軌道にのってくれば、仕入れを減らしてオリジナルを増やすと利幅が上がる。服なんてトガッたデザインの商品はたくさん売れないので、よりマス化されたものが売れるという状況があるんです。

そうなると、シーズンが始まっておそらく1ヶ月サイクルくらいでモノをつくったり、追加をする──というシステムでいえば、たぶんA社さんもB社さんも同じものをつくろうとするに決まっているんです。ということは、店頭にならぶ商品は当然似たようなものになりますよね。逆に似ていなければ、流行をハズしているって話になるだろうし。

─むかしはお店によってちがうモノを売っていたから、あそこに行けばこういうものが売っているとかありましたよね。否定的ではないのですが、今後また状況は変わって行くのかなとはおもいます。
さて、服のデザインについてなのですが、どのような方法ですすめられているのでしょうか?

じっさいにカタチにしていくのはパタンナーとやっていくのですが、基本的には言葉のやりとりだけです

─パタンナーがラフをつくられて、「ココの部分はこうしよう」とか、そんな方法なのですか?

そうです。コチラの希望を言ってそれにちかづけていく感じです。それはカタチをつくっていくときも、原材料、製品を加工するときもすべて同様で、言ってしまえばイメージのキャッチボールだけですね。
最初に玉を投げるのはわたしなのですが、生産側にそれぞれ受け手がいて、あとはその人たちが進めていくという感じです。

それができるのも、まずは昨日今日知り合ったひとにパターンを引いてもらっているわけじゃないという点、それに縫製工場さんも、製品に加工してくれるところも、やはり長くお付き合いをさせていただいているところで、そういうところで仕事をしているんですね。流れ作業的に仕事をしていく必要がない規模、自分の目が届く範囲でやって行きたいと思っているので、そういうカタチでやっていけているんです。
スタッフがたくさんいて、いちいちコミュニケーションが取れないような形であれば、当然、細かくラフを描いてとかやっていかないとけないんでしょうけれど。

           
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