Patek Philippe|貴婦人たちにとって、時計は自らを彩るアクセサリーだった
Patek Philippe|パテック フィリップ
Pendant Watch
ペンダント・ウォッチ
パテック フィリップは19世紀中ごろから20世紀初頭にかけて、貴婦人たちを美しく飾るさまざまなペンダント・ウォッチを製作している。
Text by KOIZUMI Yoko
貴婦人たちにとって、時計は自らを彩るアクセサリーだった
時計の着用方法はその時々のファッションと密接な関係があるが、19世紀中ごろの女性にとって、ペンダント・ウォッチはアクセサリーであり、欠かすことのできないファッションアイテムだった。多くの場合、胸元にアクセサリーで装着する。たとえば英国ヴィクトリア女王のペンダント・ウォッチ(2013年12月26日公開)も同様の使い方がされた。
しかしここで紹介しているモデルは、ペンダント・ウォッチが隆盛の時代、1869年ごろに製作されたものにも関わらず、一般的なペンダント・ウォッチと趣を異にしたシャトレーヌ・スタイルが採用されている点が特徴だ。
シャトレーヌとは、美しい装飾を施したメダルを重ねた鎖のことで、鎖の先に時計や香水入れ、鍵、印章などを付け、これを腰に吊るして使用する。これは1700年代に流行した時計の着用方法で、男女を問わず、圧倒的な人気となっていた。100年も前に流行したモデル製作した理由は、当時、クラシックなスタイルが好まれていたためである。
このシャトレーヌは装飾を極力廃すことで、細密七宝画の美しさを際立たせる額縁のような役割を果たしている。とはいえ、グリーンゴールドの下地に彫金を施し、黒の七宝で飾るという手の込んだつくりになっており、ケースの細密画を囲む装飾も同様の手法が採用されている。
シャトレーヌの1~3cmほどの4枚のプレートに描かれるのは、牧歌的な雰囲気を醸し出す羊飼いの少女と羊、牧羊犬。一方、懐中時計のサイズは直径3.35cmという小ささである。このサイズにこれほど豊かな世界をつくりだせる手腕に驚かされるが、アクセサリーになり得るほどの小さな時計を製作できる当時の時計職人の技術力にも感嘆を覚える。往時の一流の職人たちのクラフツマンシップが堪能できる逸品である。
時計/ローズゴールド、竜頭巻上げ・時刻合わせ式
高さ47.7mm、直径33.5mm、厚さ10.7mm
シャトレーヌ/各プレートの裏面はマザーオブパールによって保護される
縦92mm、横32.6mm、厚さ11.7mm