ジム・ジャームッシュ監督4年ぶりの新作『オンリー・ラヴァーズ・レフト・アライヴ』|MOVIE
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2015年7月14日

ジム・ジャームッシュ監督4年ぶりの新作『オンリー・ラヴァーズ・レフト・アライヴ』|MOVIE

MOVIE|何世紀もの間愛し合ってきた、吸血鬼のラブストーリー

ジム・ジャームッシュ監督4年ぶりの新作

『オンリー・ラヴァーズ・レフト・アライヴ』(1)

“孤高の映像作家”として、リスペクトを集めつづけるジム・ジャームッシュ監督。7年間温めつづけていた構想をもとに、4年ぶりに発表した新作が『オンリー・ラヴァーズ・レフト・アライヴ』だ。何世紀にもわたり愛し合ってきた吸血鬼のラブストーリーが12月20日(金)よりTOHOシネマズ シャンテほかで全国公開される。

Text by YANAKA Tomomi

ティルダ・スウィントンが吸血鬼に!

『ストレンジャー・ザン・パラダイス』(1984年)や『ブロークン・フラワーズ』(2005年)など、一貫してアウトサイダーを描いてきたジム・ジャームッシュ監督。“インディペンデント映画の巨匠”と呼ばれ、熱い支持を受けつづける彼が放つ新作は、何世紀もの間、人目を忍んで生きつづけてきた吸血鬼という、あらたなアウトサイダーの姿だった。

ジャームッシュ監督のもとに、新旧の豪華キャストが集結。ヒロインのイヴは、本作の映画化の実現を待ち望んでいたという、ティルダ・スウィントンが演じた。また、ロックミュージシャンとしての顔を持つアダム役には、英国人俳優のトム・ヒドルストン。さらに新進女優のミア・ワシコウスカや、ジャームッシュ作品の常連でもあるベテランのジョン・ハートが脇を固める。

『オンリー・ラヴァーズ・レフト・アライヴ』 02

『オンリー・ラヴァーズ・レフト・アライヴ』 03

穏やかな悦楽の日々をかき乱す妹の来訪

アメリカ・デトロイト。寂れたアパートでひっそりと暮らすアダムは、何世紀も生きつづける吸血鬼だ。その姿を隠し、アンダーグラウンド・シーンでカリスマ的な人気を誇る、伝説のミュージシャンとして生きている。

そんな彼にある夜、懐かしい電話がかかってきた。“永遠の恋人”吸血鬼のイヴからだった。モロッコに滞在していた彼女は、デトロイトに住むアダムを訪ね、久々の再会を果たす。それからふたりは、堕落した悦楽の日々を過ごしていた。

しかしそんな時間もつかの間。イヴの破天荒な妹、エヴァが突然ふたりに会いにやってきたことから、3人の運命はゆっくりと変わりはじめる。

何世紀にもわたって繰り返されてきた彼らの恋物語。現代の世界が壊れゆく中、この聡明で儚いアウトサイダーたちは、生き残ることができるのか。ファッションやアートにも多大なる影響を与えてきた、ジャームッシュ監督の“集大成”との呼び声高い新作だ。

MOVIE|何世紀もの間、愛し合ってきた吸血鬼のラブストーリー

ジム・ジャームッシュ監督4年ぶりの新作

『オンリー・ラヴァーズ・レフト・アライヴ』(2)

ここからは、ティルダ・スウィントンの独占インタビューをお届けしよう。出演作品にこだわる彼女が今回演じたのは、なんと吸血鬼! 構想段階からジム・ジャームッシュ監督と話を詰めていたという彼女が、作品にかける熱い想いを語ってくれた。

Edited by TANAKA Junko (OPENERS)

「愛していれば、完全に理解する必要はない」

――ジム・ジャームック監督とは通算3作目、2008年の『リミッツ・オブ・コントロール』以来となりますが、「また一緒に作品を作りたい」という気持ちにさせる監督の魅力とはなんでしょう?

ジムとは長い付き合いよ。もう15年ぐらいになるかしら。わたしは彼のやり方が好き。彼はいつも、撮影当日になにを撮るか決めるんだけど、それが(わたしの)集中力を高めるの。前日までなにを撮るのかわからない。そういうやり方がとても好きだし、わたしには合っているみたい。構えないですむの。

映画監督によって関係性は違うけど、ジムの場合は、感情を共有してエネルギーを得る感じ。俳優たちにすべてを投げ出して考えさせるのね。最終的にはジムが望んだとおりになるんだけど。でも最初はとにかく、自分の身を相手にゆだねるの。パラシュートなしで飛び降りるのよ。それはすばらしいことだわ。

――この作品は、監督が長年温めていたプロジェクトだったそうですね。

そう、7~8年ぐらいね。かなり初期の段階から、この作品について監督と話をしていたから、こうして形になったことが本当にうれしいの。でも不思議なのは、あれほど長い間話し合ってきたのに、撮影中は毎日が初日みたいに感じたこと。妙な充実感があったわ。

『オンリー・ラヴァーズ・レフト・アライヴ』 06

『オンリー・ラヴァーズ・レフト・アライヴ』 07

――ティルダさんは、これまでに何度も人間以外の役に扮してきましたが、吸血鬼という役どころは今回がはじめてです。実際に演じてみていかがでしたか?

吸血鬼。なぜ私たちは彼らにこれほど魅了されるのかしら。彼らは長い、長い……おそらくは決して終わることのない人生を生きている。そして私たちは、死の必然性を考えるのをとても恐れ、それが不死の考えに引きずりこむの。彼らの生き方には、淀みの中でも、物事に執着することなく、鳥のように人生をわたっていくようなところがあるんじゃないかしら。

この作品で気に入っているところは、目に見えない生涯という発想なの。ジムにとっては、これ以上ないほどピッタリなテーマよね。彼が最初に「吸血鬼の映画を作ろう」って言ったとき、まったく驚かなかったもの。「あなたは、吸血鬼の映画をもう何年も作っているわね」とでも言いたい気分だったわ(笑)。彼がそのような不可視の、不死身の世界を描くことは、とても自然な流れのように感じたの。

――たしかにこの作品には、これまでの“ヴァンパイア映画”とは一線を画すなにかがあります。

私たちがこの作品で描きたかったのは、あるひと組の男女が、長い年月にわたって一緒にいようと努力する姿なの。劇中に「これは500年にわたる会話の一部分ね」という台詞が出てくるんだけど、この発想はとても興味をそそられたわ。明らかに一緒になる運命に思えるふたりだけど、それでも、彼らはお互いの関係性を説明し合わなければいけないという、ささやかな形式を持って接している。このような複雑に入り組んだ構造は、演じる側にとっても興味深いものだったわ。

――お話を聞いていると、『オンリー・ラヴァーズ・レフト・アライヴ(=生き残った唯一の恋人たち)』というタイトルが、だんだん意味深に思えてきますね。

『オンリー・ラヴァーズ・レフト・アライヴ』 08

このタイトルはとても好き。前から聞いていたけど、あとからいろいろな意味が含まれていることに気づかされたわ。彼らは文字通り“唯一の恋人たち”。つまり別の恋人たちを犠牲にして生き残るの。それから事実を述べているだけともいえる。生き残るためには恋人にならないといけないし、愛がなければ生きられない。愛がすべてのルーツだから。それが出口の扉なの。同時に彼らの孤独をあらわした言葉でもある。彼らのほかに誰もいない。お互いが唯一の友達なの。だから深くつながっている。「アダムと一緒じゃなきゃ、生きられない」というのは、イヴの素直な気持ちだと思うわ。生き長らえるかもしれないけどね。

――音楽についてはいかがでしょうか? 伝説のミュージシャンというアダムの設定や、ワンダ・ジャクソンの「Funnel of Love」、デニス・ラサールの「Trapped by a Thing Called Love」といった音楽通をうならせる選曲にも、監督のこだわりが詰まっているように感じました。

ジムにとって音楽は不可欠なもの。彼といるとだんだんそれが移ってくるの。この作品についていえば、イヴは一見、アダムの音楽を全面的に支援しているように見えるけど、本当のところは理解していないの。それもまたいいところなんだけど……。愛していれば、その人のことを完全に理解する必要なんてないと思うわ。たとえ理解していなくても「ステキ」って言えばいいのよ。愛する人が好きだというなら、その話を聞けばいい。「あなたを信じる」って、いいでしょ?

『オンリー・ラヴァーズ・レフト・アライヴ』

12月20日(金)よりTOHOシネマズ シャンテほかで全国ロードショー

監督・脚本│ジム・ジャームッシュ

出演│トム・ヒドルストン、ディルダ・スウィントン、ミア・ワシコウスカ、ジョン・ハート

配給│ロングライド

2013年/アメリカ・イギリス・ドイツ/123分

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