必要なのは変化ではなく最適化

アウディのモデルラインナップは、ル・マン24時間レースで勝利したレーシングカー「Audi R18 e-tron quattro」を頂点に、FIA GT3クラス仕様のレーシングモデル「Audi R8 LMS」シリーズ、以降、RS、S、AおよびQとつづいていくが、「R8」は、このうちで「R8 LMS」に直結するロードカー──あるいは「R8 LMS」が「R8」の競技バージョンであるといったほうが正確だろうか。

公道走行を前提としたアウディとしては、スポーツ性能において最上位に位置するモデルであり、2006年にパリモーターショーでデビューを飾った。「R8のような時代を超えて愛されるスポーツカーに求められるのは、変化ではなく、最適化だ」とquattro GmbH
のチーフエンジニア ステファン・レールがいうように、今回、アウディジャパンが日本に導入した、“新型R8”は、R8のアップデートバージョン。昨年、モスクワ国際モーターショーで公開された。

このR8の最新モデル、マイナーチェンジとはいえ、見どころは少なくない。

最大の変化はトランスミッションの変更によるスペックの向上。アウディのモデルラインナップ中、唯一、ミッドシップレイアウトをとるR8用に開発されたデュアルクラッチトランスミッション「S-tronic」を搭載したモデルが、従来の「R-tronic」モデルにかわってラインナップにくわわった。5.2リッターV10エンジンモデルでは、アルミニウムのスペースフレーム「ASF（アウディスペースフレーム）」をもちいてうまれる軽量なボディを、静止状態から100km/hまで、3.6秒で加速させる。これは、おなじエンジンを積む従来型の3.9秒から0.3秒の短縮となっている。

このほか、新型R8は、19インチのアルミホイールを標準装備し、シングルフレームグリル、フロントバンパー、ヘッドライト、テールランプ、ドアミラー、ディフューザー、エグゾーストパイプに形状変更がくわわっている。運動性能にかかわる部分では、ブレーキディスクが、より放熱性にすぐれた波型のものに置き換わった。インテリアにはほとんど変化はなく、パドルシフトの形状が変わったのが最大の変更点だ。

なお販売されるすべてのクルマはニュルブルクリンク北コースで8,000kmの耐久テストをクリアした、quattro GmbHのお墨付き。あらゆる箇所が、職人による入念なチェックを受け、最後にアウトバーンでの公道テストを経ての出荷となる。

ラインナップは全5モデル。すべてに左ハンドル仕様と右ハンドル仕様が用意される。価格は、4.2リッターV8エンジン搭載モデルの6段マニュアルトランスミッションモデルが1,729万円、7段S-tronicモデルが1,799万円、5.2リッターV10エンジン搭載モデルのMTが2,049万円、S-tronicが2,119万円、スパイダーは5.2リッターV10エンジン＋S-tronicの組みあわせのみに設定され、2,339万円だ。

また、新型R8の発表と同時に、日本のカスタマーレーシング（スーパーGTシリーズ、スーパー耐久シリーズ、GT Asiaシリーズ）に参戦する競技車両「R8 LMS ultra」の2013年モデルも披露された。

世界的にみれば、2012年モデルは、スパ24時間レース、ニュルブルクリンク24時間レースでの勝利をはじめ、世界211レースに参加し、1位を40回、2位を39回、3位を34回奪取して、GT3クラスにおいて、おおいに存在感をしめした車両。

ライバルとなる、スーパーカーブランド、スポーツカーブランドも、威信をかけて、年々進化したモデルを投入するGT3クラスなだけに、2012年モデルの好成績にあぐらをかいていることはできないが、おなじコースをおなじドライバーで走った場合、2013年モデルの「R8 LMS ultra」は、2012年モデルよりもさらに数秒はやいラップタイムを記録するという。