誕生から40周年を迎え、今なお輝き続ける「セクシーロボット」の魅力を探る|MEDICOM TOY
MEDICOM TOY|メディコム・トイ
イラストレーター空山 基さんに聞く(1)
待望の空山 基画伯の登場である。デジタルグラフィックツールなどない1970年代後期に描かれ、一躍脚光を浴びた「セクシーロボット」。その単なるエロティシズムに留まらない魅力は、40年という長い年月を経て、なお注目され続けている事実が物語る。しかも驚くことに、画伯は今も紙と筆でセクシーロボットを描いている。メディコム・トイからも各種プロジェクトが進むなかで、画伯の現在の心境を直球勝負でうかがった。
Photograph by OHTAKI KakuText by SHINNO Kunihiko
セクシーロボット誕生秘話
――空山さんの代表作「セクシーロボット」シリーズは、1978年にスタートして今年で40周年を迎えることになりました。いまだ新鮮かつ多くの人々を魅了しているシリーズですが、その第1作目を描いたきっかけは何だったのでしょうか?
空山 広告(サントリー)の仕事です。’79年から’80年にかけて描き、最初はセクシーすぎるとボツにされかけましたが、最終的に採用されました。
――それらの作品は’83年に画集『セクシーロボット』として出版され、世界的に話題になりました。
ところで、セクシーロボット命名の背景を聞かせてください。
空山 出版社の編集長が命名しました。女性の編集者で、すごく頭の切れる人でしたね。
ただ“セクシー”な“ロボット”とストレートに言い切ってますから、余韻がまったくなくて、ちょっと物足りない。分かりやすいけれども、いまだに居心地が悪いところもあります。
――それ以前に描いていた生身の「ピンナップガール」からメタリックな「セクシーロボット」への流れについては、どのように感じていたのでしょうか?
空山 小説で言うと日本語から他言語に訳されたくらいで、本質は何ら変わっていません。
――’70年代はアメリカでハイパーリアリズムが流行しましたが、空山さんはそれらとは異なる独自の表現方法を編み出しました。
当時のアート界はどのようなものでしたか?
空山 他のアーティストのことは知らないよ。自然と自分流になっただけ。
求められた絵を描くのに毎日、必死でしたから、当時のアート界と言われても、何も分からないんです。
そもそも自分ではアートという認識すらないですから。
――効果的なエアブラシの使い方についても教えてください。ブルーの使い方が独特ですが、どのような変遷を経て編み出されたのでしょうか?
空山 モチーフが目立つための助演役。引き立て効果です。そういうのはセンスとしか言いようがない!(笑)
――’93年にはボンデージなどのフェティッシュな要素が加わった作品集『ガイノイド』が出版されました。メタリックな表現を介して描かれるエロティシズムの魅力については?
空山 私の自然体です。メタルがセクシーと感じる極少数派。変態です。
この「ガイノイド」というタイトルも、当時、とがった企画で知られた出版社トレヴィルの編集者がつけたものです。イギリス人の小説から採ったそうだけど、英語圏の人たちにはガイノイドの方がよく伝わるみたいですね。音的にも濁音で、結構インパクトあるから。
――空山さんは基本的に自分の作品にはタイトルをつけないそうですが、その理由は?
空山 文字をつけると負けたと思うんです。いいわけに近いから。だから出版社の人とかが勝手につけます。
どうしても文字にしたい時は、ロボットに掘り込んだり、タトゥーに入れたり。
――空山さんの作品を通じてフェテッシュ文化に触れた人は多いと思います。
空山 デザイナー大類 信さんのFiction incが、そういう地ならしをしたんです。’80年代から’90年代にかけて東京にはthe deepとかAZZLOといったフェティッシュ専門の店があって。
今そういう話をしても、若い人たちに通じないんですけどね。最近はKurageという店が有名で、ヨーロッパ方面に影響を与えているそうです。
欧米は宗教とかいろんな制約があって、がんじがらめ。案外、日本の方がめちゃくちゃなことができるから。
――人が人を創るという意味では、ロボットもそうですね。神と同じ行為をやってはいけないというキリスト教の教義が根底にあるため、欧米の一部ではロボットに対して抵抗感がある人が多いと聞きました。
空山 だけど、最近ボストン・ダイナミクスというところが二足歩行とか四足歩行のロボットを作っているじゃないですか。ああいうのを見ると本当にタブーがあるのか? って思います。ジャンプもできるし、倒れても倒れても起き上がってくるから、まさにターミネーター。
――(笑)。空山さんは動物をメタリックに表現する「アニマルロボット」シリーズに続いて、’99年、ソニーが開発したエンターテイメントロボット「AIBO(初代 ERS-110)」のコンセプトデザインを手掛けました。初代AIBOは通産省グッドデザイン賞グランプリ、文化庁メディア芸術祭グランプリを受賞。2001年にはスミソニアン博物館&MOMAのパーマネントコレクションに収蔵されました。
この初代AIBOを1/2サイズでフィギュア化したことが、MEDICOM TOYとの出合いですね。
空山 MEDICOM TOYはクオリティが高いからと、ソニーのスタッフが勧めてくれたんです。確か小さいものも発売されましたよね。
――そちらはB@WBRICKというシリーズのひとつとして発売されました。今年はソニーから12年ぶりに新型AIBOも発売されましたし、再びMEDICOM TOYから初代AIBOのフィギュアが発売されることを願っております。
空山 難しいでしょうけど、やるんだったら今度はプラスチックではなく、ずっしりと重いダイキャストで作ってもらいたいです。
Page02. 日常に溶け込む「セクシーロボット」
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イラストレーター空山 基さんに聞く(2)
日常に溶け込む「セクシーロボット」
――「セクシーロボット」はCDジャケットにもなっています。最近では声優・上坂すみれさんの『Inner Urge』(’15年)、ラッパー・Tygaの『Kyoto』(’18年)が話題になりました。中でもエアロスミス『Just Push Play』(’01年)は世界的に大ヒットしたアルバムです。ただ残念なことに手違いで、空山さんのオリジナル作品の裏焼きが使われてしまったそうですね。
空山 CDのアートディレクターが裏焼きでプレゼンした結果。その後は変更不可が、アメリカのシステムですから。
――他にも「セクシーロボット」はA BATHING APE®(’02年)、STÜSSY(’14年)といったアパレルラインともコラボしています。そうしたコラボについては、どのように考えていますか?
空山 炎上して話題になり、金になればなんでもよろしい。世の中を騒がせることで、ドーパミンが出ますから。
――近年ではXLARGE®(’16年)とのコラボレーションで、キャミソールを着たセクシーロボットや、XLARGE®のブランドアイコンである「OGゴリラ」をメタリックに描きました。
空山 また何か動きがあるかもしれないですね……。
――空山さんご自身も、マリリン・モンローをモチーフとしたセクシーロボットの連作を発表されるなど再び向き合う時間が増えていますが、改めていまのセクシーロボット人気をどのように感じていますか?
空山 私のギャラリー、ナンヅカの戦略と陰謀の帰結。馬鹿はおだてるとすぐ木に登る、ということ。
――空山さんの作品は海外でも人気で、昨年はタイで“Sawasdee Sexy Robot”という展覧会が開催され、等身大のセクシーロボットや2000%の巨大なSORAYAMA SEXY ROBOT BE@RBRICK & R@BBRICKが飾られました。
空山 バンコクの実業家がアートやカルチャーが好きで、展覧会をぜひやらせてほしいということだったので、そんなに言うんだったらいいよって。彼は大のBE@RBRICKコレクターでもあるんです。
タイはストリートとかサブカルチャーにリンクしたギャラリーはあまりないから、そのパイオニアになりたいんだと思います。
――タイにそういうアートが根付く第一歩になるかもしれないですね。
空山 大富豪で、今年の春にはEchoOne Nanzukaというギャラリーもオープンしました。7月に東京のNANZUKAにてワタシの展示会も予定されています。
――BE@RBRICKとのコラボ背景についてもお聞かせください。オファーを受けて、BE@RBRICKのデザイン、コンセプトをどのように感じましたか?
空山 オファーされるだけでもこの歳になると嬉しいものです。ほとんどの団塊世代作家が消えた今、幸福者です。ひとえに私のセンスと実力ですけどね(笑)。
――ちなみに空山さんが最近影響を受けた作品はありますか?
空山 『君の名は。』は結構良くできてました。もともと隕石とか宇宙考古学が好きなんです。ピーター・コロシモとかエーリッヒ・フォン・デニケンの本にハマって、UFOが見える場所にみんなでビール持って行ったり。
それで一回、火の玉を見たことがあるんです。たぶん流星のかけらが落ちてきたんだと思うけど、目の前で見るとものすごく巨大でした。
――隕石に興味があるとは意外でした。
空山 あと、火山の動画とか見るのは好き。近くで見るのは嫌。危ないから。
だからドローンで撮った動画が好きなの。疑似体験させてくれるから。氷山だって割れてドーンと落ちるのを真下から撮れば、目から鱗じゃないかなと思うんです。
――圧倒的なものがお好きなんですね。
空山 びっくりしたいんです。自分が。
つまり自分の絵を通して、他人もびっくりさせてるという発想。びっくりさせないとアートじゃないの。だから感動すると早く家に帰って絵を描こうと思うんです。年に一回あれば良いほうだけど。
――最後に、これから描きたいと思っているモチーフがあればお聞かせください。
空山 本当に描きたいと思っているモチーフは言えません。墓場まで持って行きます。逮捕されたり、インターポールのブラックリストに載るのは嫌ですから。
今、発表できる作品はナンヅカが検閲かけてからリストアップしてますから……。