日常を見つめて、まだ気づかれていない “驚き”“発見”を徹底的に求めていく|MEDICOM TOY
MEDICOM TOY|メディコム・トイ
アンリアレイジ代表 森永邦彦さんに聞く(1)
「神は細部に宿る」を創作信念として、既成概念を軽く凌駕するほどに細かなパッチワークを縫い込んだ服や、1万個のボタンを持つジャケットを作り出し、以来、世界を舞台に脚光を浴びるANREALAGE(アンリアレイジ)。その代表であり、デザイナーである森永邦彦氏のモノづくりの姿勢、そして新作BE@RBRICKの制作背景について話をうかがった。
Photograph by OHTAKI KakuText by SHINNO Kunihiko
たったひと晩だけの服も作ります
――本日はお忙しい中、ありがとうございます。先ほど佐賀県から戻ってこられたばかりとうかがいました。
森永 はい。Gaggan(ガガン)というレストラン、ご存知ですか? 毎年発表されている「Asia's 50 Best Restaurants」で4年連続1位になっているバンコクのお店で、分子料理とインド料理のテイストを融合させたまったく新しい料理を提供しているんです。
そこが佐賀で一晩だけレストランを開くというので行ってきました。僕らはその制服を手がけました。
――たったひと晩だけのお店の制服を、ですか?
森永 ひと晩だけのために、です。サービングスタイルもナイフが刺さったままの器で出てきたり、すごくユニークで実験的な一夜でした。僕らが手掛けたシェフコートは、七色に変わるプリズム現象を用いた特殊素材で桜の花びらが舞ったようなデザインに仕上げていて、光源と視点の位置の変化により桜の花の色がピンクから緑へと様々な色合いに変化するというものです。
――ANREALAGE(アンリアレイジ)は、A REAL-日常、UN REAL-非日常、AGE-時代を意味するブランド名の通り、様々な分野にわたって独創的なことをしていますね。
森永 分野を問わずどの分野でもファッションは入り込めると思っています。仮に形がなくてもそこにファッション性を出すこともできます。
パリでコレクションを発表することや、店舗で服を販売するだけではなく、ファッションを拡張したり、越境しながらやることも、自分たちができる活動のひとつだと思っています。
――今回のBE@RBRICKもそのひとつですね。
森永 そうです。もう10年以上前になりますけど、MEDICOM TOYの赤司社長はアンリアレイジがまだ世にきちんと出ていない頃、個人的に買いに来てくださっていました。当時はレディースのみでしたが、その洋服をメンズサイズに直して着てくださったり。パッチワークの洋服も1000ピースとか3000ピースをつなぎ合わせるので、一着がすごく高価になりますが、それも赤司社長が買っていかれたことを覚えています。
――MEDICOM TOYのことは以前からご存知でしたか?
森永 もちろん存じ上げていました。BE@RBRICKは僕が育ってきた1990年代後半から、すでにファッションの原風景の中にあったアイテムです。ファッションが越境できない部分も飛び越えて、様々な音楽家、芸術家、漫画家が参加したり。とてつもないプラットフォームだと思います。
――BE@RBRICKのお話の前に、森永さんの頭の中がどういう思考になっているのか、どのようなインプットから、ああいう面白いアウトプットになるのかうかがいたいです。
森永 (笑)。インプットは、積極的にはしていません。どちらかというと、自分が生活している身の回りの範囲で、まだ気づいてないこと、見つけられていなかったことを見つけようとしていて。
よく知っている情報の中で知らない部分を発見して、ファッションの形でアウトプットするのが好きなんです。結構いろんなことをやりましたが、これだけやってきても、まだ気づいてないことを見つけた瞬間はすごく嬉しいものです。ある日突然、見ている世界が変わるような発見が、たまにあるんです。
――日常生活の中では見過ごされてしまいがちなもの、ですよね?
森永 ファッション以外で当たり前に起こっていることを、ファッションの範囲内で起こしたいと思っています。例えば「色が変わる」「光を反射する」。日常では、それこそ空の色だって変わりますし、不思議なことではないんですけど、自分が着ている洋服の色が光によって変化するとか"服だから面白い"というのはあるんです。
反射素材も、交通安全の標識など日常的にあるものですが、その現象を糸にしたり染色したりプリントしたりするときに面白さが出るというか。ファッションはガジェットとは違って非常にアナログな媒体で、なおかつ人の手で作られる媒体であるからこそ、異物が入ってきたときに事件が起こるんです。
――服とBE@RBRICKでは、どういう違いがありますか?
森永 BE@RBRICKの面白さはフォーマットです。フォルムという制限がある中で、いかに表現するか。すごく制限が強いように思える媒体だからこそ、そこで生まれる自由な表現が面白いんだと思います。
――シルエットを崩さないことが唯一のルールです。
森永 対して、服は人の形が基準になるので、僕らはその形自体を翻したり、極端に人の体から離れたりしていて。アンリアレイジは毎回テーマを設けてものづくりをしてるんですけど、そのテーマがシーズンのルールみたいなもので。ルールの中で逸脱しないように、なおかつ日常と非日常を表しながら洋服に仕立てるのが面白く感じているところです。
Page02. ブランドの原点に対する思い
アンリアレイジ代表 森永邦彦さんに聞く(2)
ブランドの原点に対する思い
――今回のBE@RBRICKはどういうテーマで生まれたものでしょうか。
森永 僕らがやっているドライフラワーのシリーズは、本物の花をドライフラワーにして樹脂で固めて、自然のリアルな一部を日常に閉じ込めるというコンセプトです。それをそのままBE@RBRICKでやりたいという話を赤司社長としていました。当初のプランではBE@RBRICKのABS樹脂の中に花を入れて固めようとしたんですが、残念ながら、構造上、無理がありまして。
――リアルな花を使おうと思った理由は?
森永 ファッションにおいて花というモチーフは沢山あるんです。その代表例が花柄ですね。
それならばプリントされている花を本当の花に替えて花柄を作りたい──リアルとアンリアルで言えば、本物の花というリアルなものをアンリアルの花柄にしていくことができたら面白いと思って。その発想の発展形です。
つまり、ただのプリントでは嫌でした。そうこうするうちに、水転写(ウォータープリント)という新しいプリント手法が開発されて。
――絵柄の入ったフィルムを水面に浮かべて、対象物を上から沈めるとき、その水圧を利用して曲面にも細密な絵柄が転写できる手法ですね。
森永 それを使えば、ひとつひとつの花柄の配置、柄、色合いもちょっとずつ変わったものができるので。だったらトライしましょうと取り掛かった次第です。
――ちなみに今回の花たちは、どういうテーマで選ばれたものですか?
森永 これは神宮前に作ったアンリアレイジの初めての店舗(※2011年オープン。昨年7月に南青山に移転済み)の玄関を模したものです。そこでは窓ガラスを全部花で埋め尽くしていたんです。その窓ガラスの花をそのまま撮影しました。かすみ草、スターフラワーなど8種類入っています。
――ブランドの原点に対する思いが込められているんですね。
ところで、アンリアレイジはアシックスや&オニツカタイガーのほか、スイスウォッチメーカーのRADOともコラボレーションされています。積極的に他ジャンルとコラボレーションする理由はなぜでしょう?
森永 数年前まではまったく逆で、コラボレーションをしなかったんです。
ファッションの世界はある種敷居が高く、外部からの侵入を排除する傾向が強いんですね。でも、それだけだと今の時代はすごく偏りが出てしまう。僕らは新しい技術開発というミッションを持ちつつ、他ジャンルと積極的に組んで、越境して広めていくこともひとつのあり方だと思うようになって。
僕らができないもの――例えば、時計や、BE@RBRICK。自分たちだけでは作れないものだけど、自分たちが組むことで時計デザイナーにはできない、ファッションデザイナー的な視点の時計ができるんじゃないかって。そして、それは自分自身も面白いことなんです。
――そういう風に考え方が変わったきっかけは?
森永 コンセプトの強度を試したいという気持ちが芽生えてからです。僕たちはシーズンごとに洋服に対してコンセプトを設けます。今はコンセプトを設けないブランドも多いですし、明確にコンセプチュアルなものを作るブランドはほぼない気がします。そういう時流ですが、それでも"コンセプト=概念"をどう揺るがすかに関しては徹底的にやれる自信があって。
――既にANREALAGE 2018-19 A/W "PRISM"の次のテーマで動かれてらっしゃると思いますが、アンリアレイジとしてこの先の興味は尽きませんか?
森永 無尽蔵ではないものの、洋服としてまだやれてないこと、やっていないことは自分の中で明確にあります。それは、ここまで技術が進めば表現できるというものであり、それらと自分たちの表現の速度が合えば、どんどんやりたい。
――森永さんはファッションと日常/非日常の関係についてはどのようにお考えですか?
森永 逆説的なんですけれども、日常は本当になかなか変わらないものだと思っています。それでも自分の日常を変えてくれた経験ってありますよね。本の一節を読んで変わったり、音楽を聴いて変わったり。そのきっかけを洋服も作れると思っているんです。洋服って着るだけでその瞬間に人にスイッチを入れられる。インターフェイスとしてはアナログですが、スイッチとしてはとても秀逸だと思っています。
僕自身がそういうタイプ。誰かが作った洋服の一着で「洋服ってすごいなぁ」と思いました。そして「自分も洋服を作ろうかな」というところから、こんなに人生が変わってしまったり。
僕らの洋服を買ってくれる人も「今日、アンリアレイジを着て1日頑張れた」みたいなこともあるんじゃないかと思うんですよ。街でインパクトの強い洋服の人が目に入ってくると、なんだか気持ちが上がります。そういう洋服の可能性はあると信じて頑張りたいです。
――おっしゃる通り、服装で日常の風景が変わることは多いです。
森永 僕が服を作り始めた1990年代後半は、面白い洋服がたくさんありました。しかしファストファッションが出てきて、価格も崩壊してしまって。同じ洋服がたくさん増えている現象は受け止めないといけません。その中で、あと何着自分たちが"非日常感を持った洋服"を世に出せるかっていうことを考えながら、一着一着作っています。
――ありがとうございました。現在展開中のパルコのコーポレートメッセージ「SPECIAL IN YOU.」で、森永さんは才能について「人よりなるべく遠回りが出来ること」とお話しされていました。共演されたサカナクションの山口一郎さん、メディアアーティストの真鍋大度さん共々、この先どんな未来を我々に見せてくれるのか楽しみにしております。
森永 山口さんも真鍋さんも分野は違うんですけど、ほぼ同世代。あのお二方はまたすごいので、同じジャンルじゃなくて本当に良かったなと思います(笑)。
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