ラグジュアリーモンスターマシン―試乗、SL63AMG|Mercedes-Benz
Mercedes-Benz SL63AMG|メルセデス・ベンツ SL63AMG
ラグジュアリーモンスターマシン!
試乗、SL63AMG
南仏はサン・トロペにておこなわれた、メルセデス・ベンツ「SL63AMG」の試乗会。青い空、蒼い海にかこまれた緑の大地で約200kmのテストドライブにのぞんだモータージャーナリスト、河村康彦氏からのインプレッションが到着!
Text by KAWAMURA Yasuhiko
Photographs by Mercedes-Benz
今風な最新AMGエンジン
メルセデス・ベンツSLクラス──そのSLなる名称がドイツ語のSport Leicht、すなわち”軽量スポーツ”に由来をしている事を知る人は少なくないだろう。
そもそも1950年代に生まれた「300SL」に端を発するこのシリーズは、2012年初頭に開催されたデトロイトモーターショーで披露された現行モデルで、数えて6代目。しかし冒頭紹介の車名の由来とは裏腹に、5代目モデルではほぼ2トン級と、その車両重量は決して“軽量”とは言えないレベルにまで成長していた。誕生以来、同ブランドのフラッグシップ オープンモデルとしてのキャラクターを担いつづけたこのモデルには、代を重ねるごとにより大きなボディと贅を尽くした装備が与えられてきた。それがこうした結果をもたらしていたというわけだ。
そんななか、「メルセデスの量産モデルとしては初となるオールアルミ構造のボディ骨格を採用し、100kgを超える大幅な軽量化を実現」というのが、まずは今回のモデルでの大きなセールスポイント。新作ボディの詳細については当サイトでもすでに報告されているので繰り返さないが、こうした減量の努力は当然ながら、より優れた運動性能と燃費性能の両立に直結すると考えられるわけだ。
今回、南仏で開催された国際試乗会に用意されたのは、シリーズ中の強力バージョンである「SL63AMG」。これとは別に、最新のSLシリーズには、シリーズの頂点を極める、630psという最高出力と1,000Nmという最大トルクを発する6リッターのツインターボ付き12気筒エンジンを搭載した「SL65AMG」というモデルも存在するので、「SL63AMG」はあくまでも“上から2番目”という位置づけ。けれども今の時代、「SL65AMG」は数字が持つ記号性に強いこだわりを持つ人のための、もはや”特殊”な1台と言っても良い印象だ。
かたや、ここに紹介するSL63AMGが搭載するのは、従来型が積んでいた自然吸気の6.2リッターユニットから、“いま風”な環境性能の意識によって、5.5リッターへと”ダウンサイズ”が図られた、昨今のAMGモデルが好んで搭載をするターボ付きの最新エンジン。そうは言っても、2基のターボチャージャーが与えられたこちらも、最高出力と最大トルクは、それぞれ537psと800Nmと、そのスペックはモンスター級。くわえて、今回テストドライブをおこなったのは専用チューニングによってさらに564psと900Nmまでアウトプットを高めた”パフォーマンス・パッケージ”付きだったのだから、その速さのほどは「推して知るべし」のものと受け取って貰って良い。
Mercedes-Benz SL63AMG|メルセデス・ベンツ SL63AMG
ラグジュアリーモンスターマシン!
試乗、SL63AMG(2)
物理的にいって、ほぼ極限
実際、まるで機械式のスーパーチャージャー付きではないかと勘ちがいをしそうになるほどに、低回転域からでもアクセルペダルの操作に即応をしたブーストの立ち上がり感が実感をできるそんな「SL63AMG」の加速能力は、そうとは知らずに迂闊にアクセルペダルを深く踏み込むと「ちょっと気分が悪くなりそうなほど」のものと言っても良い。発表された0-100km/h加速のタイムは、わずかに4.2秒。ホイールスピンが発生するためスタートの瞬間の”蹴り出し力”に限界のある2輪駆動モデルとしては、これはもう「物理的に極限に近いもの」と言っても過言ではないはずだ。
事実、相当に速いクルマに乗り慣れているつもりの自身にとっても、実際にフル加速時には前輪側が浮き気味となり、それゆえに”ステアリングが軽さを増す”(!)という感覚を覚えるこのモデルでの印象は、「これはすごいな……」とおもわずつぶやいてしまうほどのものだった。
そんな驚愕の加速力が、Dレンジをセレクトして単にアクセルペダルを踏みつづけていれば誰にでも味わえてしまうというのだから、その実力はやはり「恐るべし」という表現が当たっているものなのだ。
Mercedes-Benz SL63AMG|メルセデス・ベンツ SL63AMG
ラグジュアリーモンスターマシン!
試乗、SL63AMG(3)
E63AMGより下?
いっぽうで、SL63AMGというモデルのスポーツ性は、「セダンである『E63AMG』よりも下と考えている」という開発担当者直々のコメントにはちょっと驚かされた。すなわち、2シーターではあっても「SL」が狙うのは、あくまでもゴージャスなラグジュアリーカーというキャラクター。主たるユーザーの年齢層も、時にサーキットコースに乗り入れることすら考えたE63AMGよりも、明確に高いと想定されているにちがいない。SL63AMGは、価格的にも”飛び切りな、大人の快速オープン・スポーツ”という事なのだろう。
そう考えると、当初はちょっと違和感とも受け取れたこのモデルの走りの特徴的なテイストも、すんなり納得ができるようになる。
たとえば、連続するコーナーを片手で楽々クリアできてしまうほどに軽い操作感のステアリングフィールや、E63AMGのそれよりも厚いオブラートに包まれ、迫力より静粛性が重視をされた印象の強い排気サウンド。さらには、「せっかくのオープンモデルなら、もう少し空気の動きを感じさせてくれても良いのに」とおもえるほど完璧に後方からの巻き込み風をシャットアウトしてしまう、電動格納式のウインドストッパーの効果などがそれにあたる。
ちなみに、フットワークの味付けは、たとえドライブセレクターで『スポーツモード』を選択してみても、なお常に申し分のない快適性が確保をされている。もちろんそうした印象の背景には、オープンデザインながらわずかな軋み音や無駄な微振動すら発しない、強固さ満点のボディの剛性感もおおいに関係している事は言うまでもないだろう。
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ラグジュアリーモンスターマシン!
試乗、SL63AMG(4)
本来の姿は──
そうは言っても、繰り返しのハードな減速にも音を上げないブレーキ・システムや、走りのシーンにかかわらず常に高い4輪の接地感など、運動性能の絶対的な限界はとても高いレベルにある事はまちがいない。1.9mという全幅ゆえ、南仏の多くのワインディング・ロードが「狭く感じられた」のは事実だが、それでも決してコーナリングそのものを苦手とするというわけではないのだ。前出のセレクターでさらにハードな「スポーツプラス」モードを選べば、アクセルを緩めるたびにそれまで大人しかった排気サウンドに破裂音がまじって、その”本性”をあらわすという演出が施されている事も確認できた。
が、コンソール上の小さなリッド内に収められたスイッチを操作して、開かれていたリトラクタブル式のルーフを閉じた時、そこに訪れる静粛と、あらわれるあまりにも完璧なまでの”完全クーペ”としての空間に、「やっぱり『こちら』が本来の姿なのかな」と感じさせられるのも、またこのモデルならでは。有り余るエンジン出力は、あくまでもイザという場面で引き出すべく蓄えられたリザーブパワー……結局、そんな乗り方こそが、もっとも“粋”に映えそうなこのモデルでもあるのだ。
Mercedes-Benz SL63AMG|メルセデス・ベンツ SL63AMG
ボディサイズ|全長4,633×全幅1,877×全高1,300mm
ホイールベース|2,585mm
トレッド幅 前/後|1,621mm/1,604mm
車両重量|1,845kg
エンジン|5,461ccV型8気筒ツインターボ
最高出力|395kW(537ps)/5,500rpm (415kW(564ps)/5,500rpm)
最大トルク|800Nm/2,000-4,500rpm (900Nm/2,250-3,750rpm)
0-100km/h加速|4.3秒 (4.2秒)
最高速度|250km/h (リミッター作動のため)
タイヤ 前/後|255/35 R19 / 285/30 R19
トランスミッション|AMG スピードシフト MCT 7段スポーツ
燃費|9.9ℓ/100km
CO2排出量|231g/km
価格|1,980万円から
*()内はパフォーマンスパッケージ設定時