新世代のスモールカー、up!に試乗
Volkswagen up!|フォルクスワーゲン アップ!
フォルクスワーゲンの力が凝縮
新世代のスモールカー up!に試乗
「都市内移動で持ち味を発揮するクルマ」と謳われるフォルクスワーゲンのスモールカー、up!(アップ)にニースで試乗。わずか3.5mのボディに、1リッター3気筒エンジンを搭載。燃費経済性を通してサステナビリティを追求したモデルだ。
Text by OGAWA Fumio
Photo by Volkswagen
燃費は22~23km/ℓ
up!(アップ)という気分が明るくなるような車名を与えられたフォルクスワーゲン ファミリーのニューカマー。2011年夏に発表され、12月からドイツをはじめ、いくつかの国で市場に投入された。1万ユーロを切るプライスも特徴で、低価格と低燃費により、ハイブリッドには懐疑的な欧州のマーケットでの成功を目指している。
燃費は100km走るのにわずか4.2~4.5リッターのガソリンしか使わないという驚異的なもの。1リッターで走れる距離に換算すると、22~23kmとなる。エンジンスタート/ストップシステムやブレーキ回生システムなどを備えた、経済性にもすぐれるブルーモーションテクノロジー仕様も用意されている。さらに近い将来、CO2排出量がより少ない天然ガスエンジン仕様もラインナップにくわえられるという。
Volkswagen up!|フォルクスワーゲン アップ!
フォルクスワーゲンの力が凝縮
新世代のスモールカー up!に試乗(2)
想像どおりコンパクトなボディ
ニースのホテルで対面したup!は、やはり想像どおりコンパクトだった。印象的なのは、車体の全長は3.5mしかないのにホイールベースが2.4m超で、キャビンが大きく見えること。長いホイールベースの恩恵で、室内はゆったり感があるだろうし、走行快適性も高くなっているはずだ。
ドアは大きいが開閉は軽い。「ホワイトup!」という仕様は、ダッシュボードもボディと同色のホワイト。これがなかなかいいもの感を醸し出している。「レッドup!」もあり、こちらはダッシュボードに赤のアクセントカラーが使われる。素材を通して上質性をアピールするフォルクスワーゲンでは、up!でも光沢仕上げ、マット仕上げをうまく使いわけて組み合わせるとともに、ハンドルのスポーク、シフトノブ、シートバックなどを広告スペースとして、「up!」のロゴがちりばめられていて、それもまた若々しい活気になっている。
ヘッドレストと一体型のハイバックシートはざっくした表地がスポーティな印象で、感触もよい。バックレストにロゴが入っていて、専用デザインとわかるのがオーナーにはよろこばれるだろう。ダッシュボードには、「maps & more」と呼ばれるタッチスクリーンモジュールがはめこまれていて、ナビゲーションシステムやメディアプレイヤーなどを使うことができる。
Volkswagen up!|フォルクスワーゲン アップ!
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新世代のスモールカー up!に試乗(3)
意外なほど力強い加速
up!のために新設計された1リッターの3気筒エンジンには、2種類のチューンがある。燃費重視の44kW仕様と、パワフルなモデルを志向するユーザー向けの55kW。かつ、5段セミオートマチックと、5段マニュアルというギアボックスが用意されている。試乗したのは、55kW/6200rpmの最高出力と、95Nm/2000~6000rpmの最大トルクを発生するパワープラントに、マニュアルトランスミッションの組み合わせだった。
車体の約4割に超高張力鋼板を使い、強度を高めつつ、できるだけ軽量化に努めたのだろう。このエンジンで充分軽快で、ニースからモナコへと向かう山沿いの道のドライブを愉しめた。シフトアップインジケーターが燃費のために早めのギアチェンジをうながすサインを出すが、それに従って2000rpm以下でシフトアップしても、意外なほど力強い加速を見せてくれる。
しっかりしたロードホールディングと、しなやかなサスペンション
ギアのフィールもよく、マニュアルが好きなひとには、当然、この仕様を薦めしたい。が、おそらく日本に入るのは、セミオートマチック仕様になるだろう。クルマに乗ることは一種の楽しみだという概念は、ついぞ、多くの日本のひとたちには理解されなかったようだ。
up!は室内静粛性も高く、よく出来たクルマだ。フォルクスワーゲンは、開発目的は「都市内移動」用という。つまり日常の「足」ということか。しかし、しっかりしたロードホールディングと、しなやかなサスペンションを体験していると、それだけで価値をはかるのはもったいないと思えてくるのだった。
Volkswagen up!|フォルクスワーゲン アップ!
フォルクスワーゲンの力が凝縮
新世代のスモールカー up!に試乗(4)
日本への導入は4ドア版が有力
フォルクスワーゲン日本では、up!の日本導入について積極的に考えると表明している。ただし日本には、追加発表された4ドア版が有力視されているらしい。日本は4ドアが好きなのだ。かつスタイリングの完成度は別として、ドアの長さが短い4ドアのほうが、狭い市街地の駐車場などで使いやすいことは事実である。
スタイリングは、ひとの顔を思わせるフロントマスクが特徴的だ。「まるでほほえみかけている」とフォルクスワーゲン自身がするフロントバンパーのデザインとともに、グリル開口部を目立たなくしているのも印象に残る。後者は「小さなエンジンあるいは今後導入予定の電気モーターが搭載されるup!には大型のエアインレットは必要としません」とされる。
意外に広い荷室
さらにリアにはグラスハッチ式のテールゲートが設けられている。短い全長ながら、エンジンルームをコンパクトにまとめ、シートアレンジを考えた結果だろう、荷室も意外に広い。キャリーオンのスーツケースなら2つ収納できる。
室内の居心地もよく、ダッシュボードを見渡しても、シンプルながらセンスのよいデザインとともに、パーツ類の質感の高さが印象に残る。この価格でこのクオリティを保ちながら、かつ世界ナンバーワンの自動車メーカーを目指そうというのだから、フォルクスワーゲンの持つ力が、まさにここに凝縮しているということができる。日本ではポロとの競合関係が生まれそうだ。おそらくGTIなどホットバージョンが出れば、それもまた、大きく歓迎されるだろう。