ルイ13世|奇跡の土地が生み、時間が育んだ唯一無二のブランデー
LOUIS XIII|ルイ 13世
奇跡の土地が生み、時間が育んだ唯一無二のブランデー
1874年、レミーマルタン社、いや世界を代表するブランデーが世にあらわれた。すでにコニャック造りで名声を博していた同社のカーヴで半世紀以上熟成されていた原酒を用い、ユリの花の装飾がほどこされたデキャンタに入れられた、ルイ13世だ。17世紀はじめにブランデー製造を奨励し、その統治下にレミー・マルタン家が誕生したフランス国王の名にちなんで、名づけられた逸品である。
文=松尾 大
焼いたワイン
こんにちでは、その意味合いこそ広義なものとなってしまったが、ブランデーとは本来、ブドウを発酵させ、その後蒸留したもののみをあらわす言葉であった。
17世紀後半ごろ、コニャック地方でブドウをワインにし、さらに蒸留したものは「焼いたワイン」、“Vin brule=ヴァン・ブリュレ”と呼ばれた。これをオランダの商人がオランダ語に直訳し“Brandewijn=ブランデウェイン”として、おもにイギリスに輸出。そして、イギリスの地で“Brandy=ブランデー”と呼ばれるようになった。つまりブランデーとは、ワインをよりおいしく飲むために生まれた酒ということがわかるだろう。それゆえ、ワイン同様、テロワールがブランデーの味、品位を決定づける重要なファクターとなる。
最高のブランデーを生む土地は、パリから南西に約400km、シャラント川沿いに開けたコニャック地方で生まれる。粘土石灰質の土壌が石灰質の底土層を覆い、石灰含有度は、表土レベルですでに60パーセントを超えるという大地。モンモリロナイト質粘土により土壌は肥沃で水はけもよく、多孔質の底土が毛細管現象により水を上げ、土地の乾燥を防いでいる。そのため、空気が乾燥しても表土はしっとりとしているのが特徴だ。
そんなコニャック地方で生産されたブランデー、“オー・ド・ヴィ・ド・ヴァン・ド・コニャック”を名乗るにはこの地域の6つの栽培エリアで収穫されたブドウを原料とし、2回の単式蒸留をおこなった原酒をフランス国内のオーク樽で2年以上熟成させなければならない。グランド・シャンパーニュ(Grande Champagne)、プティット・シャンパーニュ(Petite Champagne)、ボルドリ(Borderies)、ファン・ボワ(Fins Bois)、ボン・ボワ(Bons Bois)、ボワ・ゾルディネール(Bois Ordinaires)の6地区がそれだ。
なかでも、最高格の地区がグランド・シャンパーニュである。グランド・シャンパーニュで収穫されるブドウは、デリケートな香りと豊かなボディが魅力だが、熟成に多くの年月を必要とする。栽培されるブドウは、おもにサンテミリオン種(コニャック地方ではユニ・ブラン種と称される)で、酸が強く、アルコール度が低いワインが生まれるが、ブランデーとなると非常に芳醇なものとなる。
なぜ、ルイ13世なのか?
ルイ13世は、コニャックのひとつである。味わった経験はなくとも、その名前を耳にしたことのある読者は少なくないだろう。そもそも、高級なブランデーとはなにか? それは奇跡とも呼べる、ほんの小さな区画から得られたブドウを選別し、ワインへと醸造。さらに蒸溜されたものが、気の遠くなるような年月の熟成を経て、最高の樽から注意深く注ぎ込まれた琥珀色の液体のことである。誤解を恐れずに言えば、最高のブドウの個性、すばらしい出来栄えのワインの個性を、蒸溜することで、より凝縮させた酒である。
ルイ13世は、グランド・シャンパーニュで大切に育てられたブドウを原料とする原酒からしか生まれない。現在、コニャック生産が許されている地域の総面積は109万5119ヘクタールだが、そのうちのブドウ作付面積は7万8179ヘクタールにすぎず、うち約95パーセントがコニャックの生産に当てられている。そのなかで、グランド・シャンパーニュ地区のブドウ作付面積は1万3159ヘクタール。グランド・シャンパーニュ産のブドウ原酒だけで作られた「グランド・シャンパーニュ規格」のコニャックは、全コニャック製品のうちの1パーセント以下の生産量にすぎない。なかでもほんの一部、最高のテロワールで育てられたブドウだけがルイ13世となることができる。
二世紀もの時間を経て生み出されるアート
ルイ13世を生むレミー・マルタンの畑は、ほかとはちがうということを示す逸話が残っている。フランスでは1738年、全国的に大不作となった。穀物の供給が全国的に不足することをみた、時の国王ルイ15世はブドウ畑を穀物の畑へと転作させたにもかかわらず、レミー・マルタンのもつ畑だけは逆に拡大することを許した。
それは、レミー・マルタンの持つ畑から生まれるブドウがすばらしく、かつ、その酒の出来栄えのよさを認識していたからにほかならない。
樹齢100年を超えるフランス・リムーザン地方産のオークで作られた樽のなかで、50年から100年以上寝かされた原酒。それら1200を超える原酒をアッサンブラージュ(ブレンド)してルイ13世は誕生する。なんとも気の長い話である。目の前のデキャンタには一世紀前の原酒がふくまれているのだ。オーク樽の樹齢もあわせると、ルイ13世には二世紀もの時間が必要ということになる。それは、4代に渡るセラーマスターの時間と情熱を注ぎ込んだ見事なアートなのである。
グラスに注ぐと、驚くほど力強いアタックがあり、その後、繊細な白い花を思わせる香りがあらわれる。さらにスパイシーなアロマが顔を出す。複雑で豊満、それでいて繊細。果てしないと思えるほど長い余韻をもつ味わい。アルコール度数が40度という高さでありながら、まるでシルクのように喉を流れていく。ほんのひと口だけ口にふくめば、わかるだろう。なぜ、これほどまでにルイ13世は、数々の名声を得てきたのかを。
そんなルイ13世の妥協を許さない酒造りに共感した男たち、13人がこれからアンバサダーとして活躍することになった。六本木・グランドハイアット東京のバー「マデュロ」。かれらはこの地を拠点に、これからスタイルのあるルイ13世の飲み方を示し、ルイ13世のすばらしさを語る。つづくChapterを楽しみにお待ちいただきたい。
MADURO
Tel. 03-4333-8783
営業時間|18時~2時(金・土 ~3時)
場所|GRAND HYATT TOKYO 4F