Cars in the Films Part.1──コメディ篇
CAR / FEATURES
2015年4月15日

Cars in the Films Part.1──コメディ篇

Cars in the Films Part.1──コメディ篇

世のなかにはさまざまな映画があると同時に、さまざまな映画評論が存在するが、クルマに焦点を当ててみると、映画の意外な楽しみ方が見つかる。名作(迷作?)のなかから、DVDで観られる作品を中心に、クルマが活躍する映画をピックアップした『Cars in the Films』。語り手は、ジャーナリスト 小川フミオ氏と、OPENERS CARカテゴリー担当 山口幸一。
時として役者より雄弁に、重要な役割を果たしている自動車。そのなかでも、とりわけマッチしていると小川氏が語る「コメディ篇」を第一回としてお送りする。

『ナイト・オン・ザ・プラネット』山口幸一推薦
国ごとの文化的背景を感じさせるクルマ選び

山口 クルマが印象的だった作品で僕がまっさきに思い出すのは、ジム・ジャームッシュ監督作品『ナイト オン ザ プラネット』(1991年)です。特徴は、オムニバス形式で、ロサンゼルス、ニューヨーク、パリ、ローマ、ヘルシンキを舞台に、それぞれの都市で、タクシードライバーとその乗客のいっときだけの関係を描いています。

小川 おもしろいアイデアの映画でしたね。まっさきに思い出す、というのは、そうとう気に入ったということ?

山口 ひとつは設定の妙ですね。ある日のおなじ瞬間に世界各国で起こった出来事という構成になっています。純粋なコメディと言えるかどうか微妙ですが、それでもクスクスと笑って、そのうえジーンとくる場面もある。タクシーなので、都市とクルマと人間の関係がうまく描かれているのも、うまいなあと思う点です。

映画のなかのクルマたち──コメディ篇|02

小川 ウィンドシールドごしに車内でのドライバーと乗客を見せるので、ほとんどつねに俳優のアップ。表情の演技ですね。

山口 出てくるクルマは、ロサンゼルスではシボレー カプリース(ワゴン)のタクシーキャブ、ニューヨークではカプリース(セダン)のタクシーキャブ、パリはプジョー 504、ローマはフィアット 128、ヘルシンキがボルボ 144。その国のクルマ文化を感じさせる選びですね。

映画のなかのクルマたち──コメディ篇|03

シボレー カプリース(セダン)

小川 日産がニューヨークのタクシーキャブを手がける現在とは少しちがいますがね。各都市に固有の文化とクルマがあって、その都市ならではの人間模様がある、というのがこの映画のキモです。旅行者として裏町までのぞける気分になれるのもいいです。

山口 小川さんは5つあるエピソードでどれがお好みですか? 僕はニューヨーク篇です。黒人と、アメリカに全然慣れていない旧東ドイツ出身の元サーカスの道化師だったドライバーとの交流が、笑いとペーソスをうまく織り交ぜて上手に仕上げてあると思います。

小川 あれはいいですね。パリもいいですよね。ベアトリス・ダルが盲目の娼婦なのかな、だんだん、ドライバーとの関係が妙に煮詰まっていく展開は、狭い車内空間という設定を上手に活かしています。

山口 東京編も当初は予定にあったとか。

小川 それは観たかったですね。だれが出たでしょう。ジャームッシュはその前の年(1990年)に『ミステリートレイン』を撮っているから、出演した永瀬正敏がまた選ばれたかな。

映画のなかのクルマたち──コメディ篇|04

ナイト・オン・ザ・プラネット

キャスト|ウィノナ・ライダー
ジーナ・ローランズ
ロベルト・ベニーニ
公開年|1991年

DVD発売元|パラマウント ジャパン
価格|1500円
発売日|2009年09月25日(発売中)
(C) LOCUS SOLUS, INC., 1991 ALL RIGHTS RESERVED. TM, ® & Copyright © 2009 by Paramount Pictures. All Rights Reserved.

Cars in the Films Part.1──コメディ篇(2)

『濱マイクシリーズ 我が人生最悪の時』小川フミオ氏推薦
永瀬正敏のキャラクターとマッチした米国のプロムナードカー

小川 『ナイト・オン・ザ・プラネット』の最後で永瀬正敏の話が出ましたが、彼が主演している映画版『濱マイク シリーズ』も観てほしい映画です。お笑いがあるわけではないですが、ユーモアのセンスに溢れています。そこでここに入れたいなと思いました。

山口 テレビで『私立探偵 濱マイク』(2002年)を観ておもしろかったという若い世代も多いですよね。

小川 だったらこの映画シリーズもおすすめです。いま観ても飽きませんよ。1993年にこの第1作が制作されて、3部作が作られました。映画の永瀬、めちゃくちゃ若くて、チンピラ探偵という設定が生きています。その永瀬が乗るのがナッシュ メトロポリタン。1950年代に生産された米国車です。

山口 けっこうレアなクルマですよね。米国ではプロムナードカーというジャンルでしょうか。機能性というより、オープンで遊びにいく雰囲気を楽しむためのクルマ。外観は寸詰まりの印象ですが、意外に濱マイクというキャラクターにあっていますね。

映画のなかのクルマたち──コメディ篇|06

写真左/塚本晋也、写真右/永瀬正敏

小川 濱マイクが事務所を構えている映画館があるのは横浜のごみごみした町。山口さん、横浜のご出身だから、映画の舞台設定どう思いますか。

山口 雰囲気だしていますよ。横浜というと山手とかみなとみらいのイメージをもつひとが多いかもしれませんが、映画にも出てくる黄金町とか野毛とか、黒澤明の『天国と地獄』にも出てくるような、ディープな場所をうまく選んでいます。そんな町やそこで生活する陰のあるひとたちをあつかい、見せかたとしてはポップに処理している手腕が評価できます。

小川 メトロポリタンがはやい移動速度で横浜の光と影の部分をつないでいくのが、この映画のみどころですね。さらにもうひとつ、クルマが活かされているのは、南原清隆が運転するタクシー。濱マイクの友人で、いいひとなんだか悪いひとなんだかわからない、愛すべき上手なキャラ設定。人気があったみたいで、テレビシリーズにも登場しました。

映画のなかのクルマたち──コメディ篇|07

我が人生最悪の時 私立探偵 濱マイク シリーズ

キャスト|永瀬正敏
南原清隆
麿赤児
塚本晋也
公開年|1993年

DVD発売元|フォーライフ ミュージックエンタテイメント
価格|2940円
発売日|2002年08月04日(発売中)

Cars in the Films Part.1──コメディ篇(3)

『黄金の七人』山口幸一推薦
泥棒がロールスに乗る意外性

山口 1967年制作のイタリア映画です。技術と知恵で大きな盗みを働く窃盗団が主人公。道路工事に見せかけて地下を掘り、スイスの銀行から金塊を盗み出します。それをめぐって仲間うちで虚々実々の駆け引きがおこなわれてストーリーが展開します。

小川 くすっと笑ってしまう映画で、いまでもけっこうおもしろいですよね。だましだまされという、欲の皮のつっぱった人間関係が中心になっているからでしょうか。

映画のなかのクルマたち──コメディ篇|09

山口 ここでもクルマが大事な役割を果たしています。金塊を積むのもクルマだし、7人プラス美女1人からなる窃盗団の頭脳「教授」とよばれる男がつねに乗っているのが運転手つきのロールス・ロイス。

小川 1950年代のファントムIVでしょうか。国家元首のためにごくわずかだけ作られたモデルで、教授が乗るのはフーバーというコーチビルダーによる架装でしょう。映画に出てくるのは、以前僕が資料で見たことのある、英国王室向けの車輛にそっくり。あんまりおなじ車体がないモデルなので、そこからの払い下げを映画に使ったのかなあ、なんて想像をたくましくすると楽しいですね。映画では、泥棒がロールス・ロイスという組みあわせに意外性があっていいんです。

映画のなかのクルマたち──コメディ篇|10

ロールス・ロイス ファントムIV

映画のなかのクルマたち──コメディ篇|11

『麗しのサブリナ』のワンシーン。

山口 運転席と後部座席のあいだにガラスのパーティションがあって、運転手に話しかけるときはそこを杖の先でコツコツと。優雅ですよね。オードリー・ヘプバーンとハンフリー・ボガートが共演した『麗しのサブリナ』を思い出しました。あそこでもファントムIなど、さまざまな高級車が登場します。映画は1954年だけれど、ロールスはちゃんと古きよき大英帝国時代に作られた戦前のモデル。このへんの小道具の使い方がうまい。ヘプバーンのお父さんはボガートの家つきの運転手という設定でした。「人生は前席と後席があって、あいだには仕切りがある」というヘプバーンのお父さんの人生観についての台詞が印象的でした。

小川 痛快な泥棒が主人公という点では「ルパン三世」にもつうじます。ルパンの場合は「貧乏人のせがれだからフィアット チンクエチェントに乗っていないといけないのだ」という宮崎駿監督の価値観が反映されていましたが。少なくとも第一作には。

映画のなかのクルマたち──コメディ篇|12

ロールス・ロイス シルバードーン

山口 泥棒貴族の映画ではスティーブ・マックイーン主演の『華麗なる賭け』(1968年)が好きです。主人公はやはりロールス・ロイス1954年型のシルバードーンに乗っているんです。

「スタンダードスチール」と呼ばれるロールス・ロイス自社製のあまりぱっとしないボディですが、それでも、銀行からの盗みを趣味としている謎の大富豪という設定と、ロールス・ロイスの非現実性がうまくマッチしていました。若きフェイ・ダナウェイも美しいし。

小川 集団での泥棒という共通点では、『ミニミニ大作戦』(1969年)がありますね。ミニを使ってイギリス人たちがイタリア トリノから金塊を盗み出す。トリノってフィアットの城下町だから、そこへ英国車が乗り込んでさんざかきまわすって設定も、クルマ好きにとっては見所のひとつかも。

山口 『華麗なる賭け』は、原題の『トーマスクラウン アフェア』に変えて1999年にリメイクが、『ミニミニ大作戦』はおなじタイトルで2003年にリメイクが作られています。どちらもオリジナルを超えていません。

映画のなかのクルマたち──コメディ篇|13

黄金の七人 HDニューマスター版

出演|フィリップ・ルロワ
ロッサナ・ポデスタ
ガストーネ、モスキン
公開年|1965年

DVD発売元|エスピーオー
価格|2940円
発売日|2009年11月06日(発売中)

Cars in the Films Part.1──コメディ篇(4)

『カーズ』小川フミオ氏推薦
古今東西のさまざまな名車に与えられた人格とは?

小川 つぎはアメリカだから作れたと思う作品がピクサーの『カーズ』(2006年)。なぜアメリカだからかというと、精巧なアニメ-ションである点がひとつ。もうひとつは、クルマのキャラ設定です。世界最初の量産車、T型フォードにはじまって、米国市場のヒストリーを見ているみたい。欧州車も登場しますが、おそらくアメリカで人気のあったモデル。

山口 アニメーションだからと、いままで観ていなかったのですが、意外におとなが観てもおもしろいですね。クルマがリアル。リアルというのは、このクルマに人格があったら、たしかにこんなかんじかも、と思わせてくれるのがいいですね。たとえばポルシェ 911が女性として描かれている。男性的だと思っていましたが、適度にグラマラスなラインが女性と言われるとなるほど、と思えてきます。

映画のなかのクルマたち──コメディ篇|15

ポルシェ 911をモチーフにデザインされたサリー・カレラ。

映画のなかのクルマたち──コメディ篇|16

写真のT型フォードはリジーというキャラクターのモチーフとして登場した。

小川 1910年代のT型フォードから1998年の911まで、さまざまなクルマが出ている。乗るものはすべて文化であるという、アメリカの文化を反映した作品です。車名のあてっこをしながら、家族や友人とわいわい観るのが楽しいですね。

山口 カーズはDVDだからこその楽しみがあるわけですね。

小川 ディズニーはクルマの使いかたが上手です。『101匹わんちゃん』(1961年)に出てくる人気の悪玉キャラ、クルエラが乗る2シータ-も注目です。英国のパンサー デビルという説もありますが、実際にはないクルマでしょう。deVilleというハードトップのスタイルと、悪魔(デビル)とをかけたネーミングです。これが崖から落ちてバラバラになる場面がありますが、その分解の仕方が、クルマの構造に詳しいひとでないと、とうてい描けない。このシーンをふくめ、クルマ好きにも楽しめる作品です。

山口 ははあ(笑)。

小川 それから『レミーのおいしいレストラン』(2007年)ではパリが舞台。主人公と対立している、ちょっといけすかないシェフが乗るクルマがファセル ベガ。まんまではないのですが。11年しか存続しなかったフランス製のスペシャルティクーペです。エンジンは自社製でないので、自動車史上ではややあだ花的存在ですが、木目に見えるダッシュボードはじつは合成樹脂板の上に木目を手描きしているとか、妙に凝っているところなどが熱心なファンを惹きつけています。一筋縄ではいかないヤツということで、そのちょい陰険なシェフをファセルベガに乗せたのではと思っています。

山口 『カーズ2』(2011年)でも、実在のクルマでなくなってますね。何を下敷きにしているかわかるけれど、そのものではない。権利関係でしょうか。

小川 観るひとによって自分の記憶と登場してくるクルマが強く結びつきすぎて、制作者の設定が伝わりにくくなるのを回避しようとしたのかもしれません。

カーズ

公開年|2006年
BLUE-RAY発売元|ウォルトディズニースタジオホームエンターテイメント
価格|3990円
発売日|2010年11月03日(発売中)

           
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