連載|おうちシネマ 第2回「昭和の大作、角川映画にもう一度出会う」(前編)

『復活の日』© KADOKAWA 1980

LOUNGE / MOVIE
2020年6月1日

連載|おうちシネマ 第2回「昭和の大作、角川映画にもう一度出会う」(前編)

おうちシネマ|Cinema At Home

第2回「昭和の大作、角川映画にもう一度出会う」(前編)

映画界では、コロナ禍により新作の撮影もストップしている。現在はWEB上で新作を公開する動きもある。そんな中で、いつも私たちを楽しませてくれている映画人たちを応援する方法のひとつが、旧作を観ること。第1回でご紹介したように、動画配信サービスが制作するオリジナル作品を観るのもいいが、子供の頃に観たあの作品、もう一度見たい思い出の作品、つい見逃していた昭和の名作を観るのもおすすめだ。新作が次から次へと公開されると、旧作鑑賞はついつい後回しにしてしまいがち。今こそ、懐かしい旧作に再会するチャンス。昭和生まれの私にとって、嬉しい再会となったのは、子供の頃に強烈なインパクトを残してくれた角川映画だった。

Text by MAKIGUCHI June|Edit by ANDO Sara

豪華さ、スケール感を楽しむ“THEジャパニーズ・エンターテインメント”

すでに観たことのある作品でも、歳を重ねてから再度鑑賞すると、全く違った感想を持つことになる。以前には気づかなかった細部にまで理解が及ぶせいだろう。そこで、昔の作品で何を観ようかと考えながら、動画配信サービスのリストを眺めていたら、目に留まったのが『復活の日』。現在同様、未知のウイルスが地球に蔓延した世界を描いた物語だ。
“復活の日”。それは、まさに世界が待ち望んでいるもの。ということで、今回の“STAY HOME”を機に、動画配信サービスでまずはこの作品を観ることに。公開当時、興行的にはあまり振るわなかったと聞くが、新型コロナウイルス(COVID-19)をめぐる世界の変化、今後の“withCOVID-19社会”を考える人々の間で、本作が再び注目されている。今がこの映画にとってはまさに“復活”の時なのだろう。

小松左京の原作によるこの映像作品が、これほどのリアリティと恐怖をもって受け止められることは、これまでになかったのではないだろうか。

劇中、最悪の悲劇は兵器用に開発された新種のウイルスが誤って広がることから始まる。1981年、“ウイルスの形をしたモンスター”は、瞬く間に世界に広がり、イタリアをはじめとするヨーロッパ大陸、アメリカ大陸、アジア、そして日本列島でも牙をむく。唯一、モンスターに侵されていないのが南極大陸だった。世界で人類がほぼ死滅したのは1982年の秋。残されたのは、南極大陸で各国の基地に勤めていた863人だけだった。

そこからサバイバル劇が始まるのだが、もはや意味のなくなった国境という概念を取り払い、人々が混乱と恐怖、不安の中で手を取り合っていく姿はとても痛々しい。数少ない女性に課された役割も壮絶だ。さらに、地震という天災や冷戦で配備されていた核ミサイルの報復システムが、皮肉なタイミングで脅威になるなど、最悪の事態が次々に訪れるのだ。
『復活の日』© KADOKAWA 1980
ふと考えたのは、映画で描かれている世界よりは、現在の方がまだましだと言えるだろうかということ。医療崩壊、感染の広がりの速さ、米中の対立、地震の頻発など、実際にニュースで流れる現実と符合することも多い。物語の中では、人類滅亡という前代未聞の危機の発端を生んだのも、また最終的に悲劇にとどめを刺すのも、人間の創り出したもの。反対に人間を救う望みとなるのは、人が散々破壊してきた自然、つまり南極の過酷な環境というところも何とも皮肉だ。

現実に南極では、今世界中で蔓延するCOVID-19の症例が、1件も見つかっていない。南極大陸は2020年5月15日に報道されたBBCの記事でも「地球上で唯一、新型ウイルスのない大陸」と称されている。すでに数ヵ月にわたって世界から隔絶されている南極には現在、29ヵ国が基地を置いていて、COVID-19以前は、各国の基地間で行き来が盛んで互いに協力的かつ友好的だったという。これほど国同士が調和している姿は、現実の世界(=南極以外の世界)では考えられないとインドの基地に滞在している医師が話している。映画の中では人類滅亡の危機に瀕し生き残りをかけて、時に混乱しながらも極めて理性的に各国の隊員たちが手を取る姿が映し出される。これがウイルスに打ち勝つ大きな鍵であることは、言うまでもない。エンターテインメントというにはあまりにもリアリティが増してしまった本作だが、40日をかけた南極での撮影、アラスカ、マチュピチュでのロケなど特撮ではない実写撮影ゆえの迫力など、25億円にも達した製作費と制作陣のこだわりが実現させたスケールの大きさも見どころだ。
とても有名なシーンがあるのに、実はちゃんと見たことがないという人が周囲に意外にも多かったのが、『犬神家の一族』だ。これは記念すべき角川映画の第一作目。白いマスクをすっぽりかぶった佐清(スケキヨ)。湖からにょきっと伸びている2本の足。それらがあまりにもキャッチー過ぎて、観たつもりになっていたのだろうか。私自身は何度も観ているが、映画ライターになってから観るのは初めてで、いろいろ突っ込みどころを発見しながらも、質の高いエンターテインメントを楽しんだ。

信州の湖畔にたたずむ犬神家邸で次々に巻き起こるおぞましい殺人事件の謎をめぐる物語。戦後混乱期ならではの人のすり替わりや、莫大な遺産をめぐる相続争い、異母姉妹間の確執など、闇が闇のまま葬られることの多かった昭和ならではのミステリー・ドラマだ。名家の暗部を明るみにするのが、探偵・金田一耕助。彼はいわば、闇の世界に私たちを誘う案内人だ。

ぼさぼさ頭にはかま姿、下駄を履き、そしてとぼけた様子には、緊張感と不気味さがあふれる世界観に、大きな安堵感を与えてくれ、物語に絶妙な陰と陽のバランスをもたらしてくれる。ある意味ではコロンボ刑事に似た存在といえるかもしれない。深刻な事件の解明に奔走するとぼけた金田一像は、きちんとすれば実は美形の好青年・石坂浩二が演じるギャップが、面白みを倍増させた。

横溝正史によるこの物語は極めて人気が高く、何度か映像化されているが、胡散臭い時代性、グロテスクさにおいて、角川映画版(1976年)の右に出るものはない。監督・市川崑、主演・石坂浩二のゴールデン・コンビも素晴らしい。個性的なカメラワークと緊張感を誘うカットバック、静止画の多用、ドラムサウンドが印象的なBGMなど、斬新な演出からは市川監督のチャレンジ精神が堪能できる。
『犬神家の一族』© KADOKAWA 1976
ちなみに、このコンビでは、横溝正史原作の『悪魔の手鞠唄』『獄門島』『女王蜂』『病院坂の首縊りの家』と計5本の金田一耕助ものが撮影されているが、角川映画なのは最初の1本『犬神家の一族』のみ。後の4作は、角川が企画として参加し(原作が角川文庫)、東宝が制作している。シリーズを通して、市川監督の実験的な演出には映像作家としての喜びが感じられるし、石坂浩二の金田一はキャラが立っていて引き込まれる。

できれば1作目だけでなく、すべて制覇することをお勧めする。そうしてのみ体験できる面白さといえば、別の役で同じ俳優が何度も出演していること。加藤武、坂口良子、草笛光子、大滝秀治、小林昭二、三木のり平ら昭和の大スター達が、繰り返し同タイプの人物を演じていて、彼らの芸達者ぶり、さらにはそこから生まれる世界感の安定具合が半端ない。まるで、金田一を軸にパラレルワールドが存在しているかのようだ。それにしても、見知ったメンツが登場するというお馴染み感が、作品に親近感を覚えさせるとは。シリーズ作品ならではの強みだ。
俳優といえば、子供の頃は彼らの演技に注目することはあまりなかった。演技に宿る説得力など、今とは違って当時の自分にあまり意味はなかったのだ。『犬神家の一族』には、大物の銀幕スターが登場していて、今更ながらその豪華さにも驚いた。これほどの人々が競演しているのことからも、角川映画がいかに特別だったかがよくわかる。

話は戻るが、『復活の日』では草刈正雄が素晴らしかった。今も素敵に年齢を重ね、大活躍しているが、当時の彼はとにかくかっこいい。しかもそれだけでなく、内気な研究者役を実に繊細に演じているし、新人とは思えない堂々たる存在感も示している。舞台が南極大陸であるだけに、南極基地に勤務する各国の隊員たちとのやりとりが物語の中心となる。国際色豊かなキャストのなかで、セリフの80%が英語だ。物怖じせず、人間の弱さ、後悔の念、そして意志の強さを表現しきった彼の才能にはすっかり心を奪われてしまった。大人になって再会する映画には、俳優たちの魅力を再確認できるという大きな収穫もあるのだ。

ちなみに、草刈正雄は『病院坂の首縊りの家』(しつこいようだが、こちらは東宝映画)で見せるコミカルな演技が、とても爽やか。金田一との良きパートナーぶりも見どころだ。

原作、製作陣、そして監督など、角川映画の成功に貢献した人々は数知れない。だが、やはりハマり役を演じきった俳優たちの功績は大きい。角川といえば“銀幕のスター”にこだわり続け、最後までスターシステムを守り抜いたジャンルでもある。それについては、後編でお話ししたい。
『復活の日 角川映画 THE BEST』
価格|Blu-ray 2000円(税抜)
発売元・販売元|株式会社KADOKAWA
『犬神家の一族 角川映画 THE BEST』
価格|Blu-ray 2000円(税抜)
発売元・販売元|株式会社KADOKAWA
                      
Photo Gallery