2015年東京国際映画祭グランプリ受賞作品『ニーゼと光のアトリエ』|MOVIE

MOVIE|2015年東京国際映画祭グランプリ受賞作品『ニーゼと光のアトリエ』

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2015年東京国際映画祭グランプリ受賞作品

愛と芸術で人を癒した女医の物語『ニーゼと光のアトリエ』

昨年の東京国際映画祭で審査委員長、ブライアン・シンガーに「完璧な映画だ。見事なテンポとユーモアとともに、最高のエンターテイメントのレベルに到達している」と絶賛され、東京グランプリと最優秀女優賞の2冠を獲得した新たなブラジル映画の傑作『ニーゼと光のアトリエ』が、12月17(土)よりロードショー。

Text by ASAKURA Nao

芸術や音楽によって精神病患者を救おうと努める、一人の女性医師の物語

『ニーゼと光のアトリエ』は、1940年代のブラジル・リオデジャネイロ郊外の精神病院を舞台に、実在する女性精神科医の偉業をリアルに描いた物語だ。

監督・ホベルト・ベリネール氏とプロデューサーのホドリーゴ・レチェル氏は、これまで数々のドキュメンタリー作品を作ってきた長年のコンビで、製作に13年も要したという『ニーゼと光のアトリエ』にも、随所にドキュメンタリータッチな描写が伺える。

アイスピックが治療道具として使われ、電気ショック療法が精神病患者への治療に行われていた時代。男性ばかりの同僚医師たちによって、当然のようになされていたその光景に衝撃を受けた女性医師ニーゼは、暴力的な治療方法に意義を唱える。しかしそのためニーゼは看護師が運営していた、予算の少ない作業療法部門に回されることになる。そこでニーゼは、看護師たちに「患者を“クライアント”と呼びなさい。まずは彼らの話を聞き、よく観察すること」と命じ、奇怪な行動を取ったり、なかなか目を合わせようとしない患者にも辛抱強く接する。その姿に、次第に看護師たちも意識改革し、患者のことを理解しようと努め始める。

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文学や音楽、アートを愛するニーゼ。ある日ひとりの芸術好きの同僚の提案で、患者が自由に絵を描いたり、創作活動ができるアトリエをオープンすることにする。最初は目の前の真っ白いキャンバスに筆で色を付けることさえも阻んでいた患者が、ニーゼや看護師たちに促され、次第に各々が思い思いに絵を描き始める。美術評論家たちは曼荼羅模様などに見える彼らの作品を「無意識を恐れず表現している」と高く評価し、ニーゼの治療法を賞賛した。

私たちは、日常生活を送る中で、精神疾患の中でも最も重篤とされている統合失調症を患っている人とは滅多に出会わない。そういう意味で、この映画を観ることは、人間と精神・心理の関わりについて改めて考えるきっかけになった。精神を患う人、患った人。そのきっかけとなった出来事や事件は、誰にでも起こりうるものかもしれない。感受性の個人差によってダメージの差はあるけれども、どのタイミングでそれが起こるかによっても、結果は変わってくる。

ニーゼは、精神病患者がどんなに凶暴で、乱暴な行為をしようとも彼らを理解し、心を通わせようと真っすぐに向き合う。そういった彼女の母のような逞しさと揺るぎない愛情がこの映画のエッセンスとなり、荒廃とした病院と、虚ろな患者の表情の描写にわずかに光を当ててくれる。

「彼らが社会的に意義のある活動をすることで、少しでも豊かな人生を送ってほしかった」(ニーゼ)

ニーゼの果敢な努力と愛情が、患者の言動や表情を変え、結果が現れ出したと思われたとき、同僚医師による心ない横やりで、治療はほぼ振り出しに戻ってしまう。ラストまで全く油断を許さぬシーン展開に、息をつく暇もない。残るのはわずかな希望と、大きな使命感。まずは、この映画を観て少しでも違う世界を意識できればいいと思う。

『ニーゼと光のアトリエ』
2016年12月17日(土)ユーロスペースほかにて全国順次公開
監督・脚本:ホベルト・ベリネール
プロデューサー:ホドリーゴ・レチエル
出演:グロリア・ピレス、シモーネ・マゼール、ジュリオ・アドリアォン他
2015年/ブラジル映画/109分/ポルトガル語/英題「Nise – The Heart of Madness」
http://maru-movie.com/nise