加速する総合的ラグジュアリーブランドへの進化

フランク ミュラーで驚かされたのは、その活動の範囲が、もはや腕時計に留まらないラグジュアリーブランドを志向していることだ。「フランク ミュラー フューチャー フォーム」と題してホームウェアやインテリアに、さらに「フランク ミュラー ウエディング」のようなブライダルのコーディネートにと、その事業は拡大の方向にむかっている。

特に「フランク ミュラー フューチャー フォーム」は和のテイストを志向した食卓をテーマに、日本の有田焼や清水焼絵付けによる芸術的な和食器をリリースしていた。

随所にビザン数字をあしらった皿に茶碗、盆に箸という具合に、フランク ミュラーらしさを織り込みながら、非常に完成度の高いテーブルウェアが、和のテイストで完成されている。総合的なラグジュアリーブランドとして、より本格的に取り組んでいく姿勢がうかがわれ、今後にも注目したい。

そんな中で、時計の方も進境著しい。2015年のフランク ミュラーで最大の売れ筋は、2014年に発表された「ヴァンガード」だった。そのダイナミックなフォルムは、新しい都会的なイメージを時計に吹き込み、トノウケースの新解釈だと大歓迎された。従来レディースの売れ行きがよかったというショップで、メンズの方にシェアが傾いたという声が聞こえるほどの人気ぶりである。

その「ヴァンガード」のラインナップが今年は大きく充実した。メンズでは、新しいスケルトンタイプのトゥールビヨンのほか、ユニークを極めたゴルフモチーフのモデルが登場した。また、レディースも非常に充実しており、特に「ヴァンガード」と「ロングアイランド」を融合させるというデザイン上の試みには興味を惹きつけられた。これらについて詳しく伝えるとともに、メンズのベーシックモデルとして不動の定番となっている「カサブランカ」に新しくムーンフェイズモデルが登場したので、取り上げたいと思う。

Page02. 力強さを強調するコンプリケーション

力強さを強調するコンプリケーション

「ヴァンガード」の新作の中でも、特に目を惹いたのは、「ヴァンガード スケルトン トゥールビヨン」である。複雑な機械式機構であることに加えて、内部の機構が楽しめるシースルー仕様の腕時計を形容する場合、「繊細」「芸術」などで表現される場合が多い。しかし「ヴァンガード スケルトン トゥールビヨン」はそのキーワードはあてはまらない。

エッチングが施されたムーブメントの地板や受け板の様子は、ともすれば繊細と見えがちだが、力強いのである。微細にフレームにおよぶまで肉抜きが施されている。それらのシェイプは柔らかな曲線ではなく、スピード感を感じる直線が多用されている。装飾においては、ゴールド素材の質感はそのままに、美しいヘアラインによってその印象は渋く、建築物的な構造を感じてしまう。12時位置の香箱、輪列、6時位置のトゥールビヨンキャリッジと連なる機構は、力強く躍動する“メカ”そのものである。

そしてブラックの差し色とダイナミックなケースの造形が、この時計の力強さを一段と強調する。存在感がマッシブで、周囲を制圧してしまいそうだ。

ヴァンガード™ スケルトン トゥールビヨン
ケース│18Kピンクゴールド
サイズ｜縦53.7×横44mm
ムーブメント｜手巻き
機能｜トゥールビヨン
ストラップ｜クロコダイル＋ラバー
防水｜日常生活
発売時期｜未定
予価｜未定

Page03. ストロークを記録できるゴルフウォッチ

ストロークを記録できるゴルフウォッチ

この「ヴァンガード バックスイング」は、ゴルフ専用モデルである。それは、時計を遠目に見ただけでもわかる。ケースも文字盤もさらにストラップまでも、表面にゴルフボールのようなディンプル加工を施されており、ゴルフの世界観が徹底的に表現されている。そもそもダイナミックな「ヴァンガード」が表面の仕上げによって、よりパワフルなフォルムへと増幅されている。

しかも機能性もしっかり考えられている。まず、各ホールのストロークを記録できる。1打するたびに、時計の10時位置のボタンを押せばいい。すると、文字盤センターの小型の針が、その周囲の数字を指して、1つ1つ進んでいく。1ホールのプレイを終えたら、その数字をスコアカードに転記し、8時位置のボタンを押せばいい。すると、小さな針はゼロ位置に戻る。実にやり方は簡単で、スマートにストローク数を記録できるのだ。

さらに、この時計は衝撃対策も工夫している。シースルーバックをのぞくと、ラバー製のショックアブソーバーがケース内にセットされている。ムーブメントの中央にはめ込まれるように置かれているのだ。このため、内部の機械に伝わる衝撃は緩和されるように考えられているのだ。

ギアっぽい時計ではなく、ユーモアの効いた機械式時計を腕にまとってコースに出たい。そんなゴルフ愛好家にして時計愛好家の強い味方が、この時計なのである。

ヴァンガード™ バックスイング
ケース｜ステンレススチール／チタン
サイズ｜縦53.7×横44mm
ムーブメント｜自動巻き
機能｜ストローク数記録（10時位置のボタンでカウント、8時位置のボタンでリセット）
ストラップ｜カーフ＋ラバー
防水｜日常生活
発売時期｜未定
価格｜未定

Page04. 女性だけに用意された２つの個性の融合

女性だけに用意された２つの個性の融合

「レディースだけなのか？」そんな男性からの声が聞こえてきそうなのが、この「ヴァンガード ロングアイランド」である。

このモデルの特徴は、モデル名の通り、新モデルの「ヴァンガード」と、旧来からの定番である「ロングアイランド」の融合である。

ケースの基本シルエットは「ロングアイランド」のレクタンギュラーである。そのディテールに「ヴァンガード」のテイストが加わって、ロングアイランド™ヴァンガード™のデザインが成立している。12時位置と6時位置の天地がやや広くなっているベゼル、クロコダイルの裏面にラバーを合わせたストラップなどは「ヴァンガード」から継承されたディテールだ。

インデックスの書体は、ビザン数字に近いが、微妙に異なるポップな雰囲気となっており、縁を高く立てるスタイルは「ヴァンガード」のそれである。

「ロングアイランド」のクラシックらしさは残しながら、「ヴァンガード」の持つモダンな要素が引き立つ。そしてベゼルにセットされたダイヤモンドの輝きが、フェミニンな優雅さを強調する。この新しいデザインは洗練されており、現代を自由に生きる女性にピッタリの美を提供している。

ロングアイランド™ヴァンガード™
ケース｜18Kホワイトゴールド
サイズ｜縦36.4×横23mm
ムーブメント｜自動巻き／クォーツ
ストラップ｜クロコダイル＋ラバー
防水｜日常生活
発売時期｜未定
予価｜未定

Page05. 超定番にムーンフェイズが登場

超定番にムーンフェイズが登場

「カサブランカ」に初めてのムーンフェイズモデル「カサブランカ ルナ」の登場である。

そう聞くと、「あれ？　ムーンフェイズモデルって今までなかったんだ？」と思うファンも多いだろう。「カサブランカ」の誕生は、1994年のことであり、誕生からかれこれ20年を越す超ロングセラーである。モロッコのカサブランカ市をイメージして作られた、このモデルは、砂漠の砂塵の中でも使えるようにとスチールケースやトラベルバッグさながらの丈夫なカーフベルトを採用。文字盤はUV処理を敢えて施さず、使い込んだアンティーク時計のような経年変化を楽しむことができた。

そんなコンセプトが人気となり、価格的にもこなれていることから、フランク ミュラーのエントリーモデルとして不動の地位を占めている。それだけに、20年の間にさまざまなバリエーションが生まれ、「ムーンフェイズは初」と聞くと、意外な思いにとらわれてしまう。

砂漠のロマン、旅のロマンを想起させるモデルに、ムーンフェイズを配したデザインは、大変にしっくりと馴染んでいる。思えば、昔の旅は天文の動きと不可分であり、砂漠の情景にもピッタリだ。

カサブランカ ルナ
ケース｜ステンレススチール
サイズ｜縦45×横32mm
ムーブメント｜自動巻き
機能│ムーンフェイズ
ストラップ｜カーフ
防水｜日常生活
発売時期｜発売中
価格｜120万円（税別）