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2026年2月24日
サステナブルラグジュアリーホテルって何?|1 Hotel Tokyoが示した新たな充足空間のカタチ
TRAVEL|1 Hotel Tokyo
“ラグジュアリー”という言葉の意味が、静かに、しかし確実に変わりつつある。かつてそれは、金箔を纏った天井、手が届かないほどの価格設定、あるいは圧倒的なサプライズによって演出されるものだった。だが今、本当の豊かさを知る人々が求めているのは、外側からの“圧力”ではなく、内側から湧き出るような満ち足りた感覚だ。そこには、誠実な手仕事によって生まれたものが存在感を示していることだろう。さらには、自分の滞在が地球に対してある種の誠意を持っていることも重要だ。2026年3月上旬、東京・赤坂に開業する「1 Hotel Tokyo」は、そうした新しいラグジュアリーの定義を、空間として体現した場所である。
Text by TSUCHIDA Takashi
“1 Hotels”という名前に込められた思想
1 Hotelsは、ホスピタリティ業界にひとつの問いを投げかけることから始まった。創設者であるバリー・スタンリヒトが掲げたのは、「世界を旅する人々こそ、その世界を大切にすべきだ」というシンプルな、しかし深い思想だ。ブランド名の「1」は、ただひとつの地球——「One World」を指している。
ブランドの歩みは2015年、マイアミのサウスビーチとニューヨークのセントラルパーク沿いに最初の2軒を開業させたことに始まる。その後、ブルックリン、ウェストハリウッド、トロント、サンフランシスコ、ナッシュビルと展開し、2023年にはハワイ・カウアイ島のハナレイベイに旗艦ホテルを、そしてヨーロッパ初進出となるロンドン・メイフェアに開業。2025年にはシアトル、オーストラリアのメルボルン、デンマークのコペンハーゲンにも拠点を広げ、今や世界的なラグジュアリーホテルブランドとして確固たる地位を築いている。一部施設はMICHELIN Keyの認定を受けるなど、その質の高さは業界からも広く認められている。
1 Hotel Tokyoは、森トラストが手がける次世代型複合開発「東京ワールドゲート赤坂」内、赤坂トラストタワーの38階から43階に位置する。眼下には皇居外苑の緑が広がり、東京タワーや都心のスカイラインが視界を彩る。約5,600㎡の大規模緑地を中心に据えた開発の中核として、このホテルはその存在自体が街への問いかけでもある——都市の中で、人はどれほど自然に近づけるか、と。
館内を貫くデザイン哲学は「バイオフィリックデザイン」と呼ばれる。人と自然の調和を再構築し、自然の美しさとぬくもりを空間の中に取り込む考え方だ。1階のエントランスを入ると屋外グリーンウォールが出迎え、38階のロビーに至ると、垂直型のボタニカルインスタレーションが視界を包む。苔や再生木材のパネル、栃木県産の大谷石——あのフランク・ロイド・ライトが日本の建築に用いたことで知られる素材——を組み合わせた彫刻的なエントランスが、到着の瞬間から非日常への扉を開く。
砂目調の壁紙、手仕事による漆喰仕上げ、壁際に連なる砂利のライン——館内のあらゆる細部が、日本の渓流や山野の静けさを想起させる。禅の思想に着想を得たラウンジには石と砂利のガーデンが設えられ、洗練の中に侘び寂びの美意識が静かに宿る。CEOのラウル・レアルは言う。「東京という街は、美しさと持続可能性を兼ね備えた空間を創り上げるための、極めて刺激的なキャンバスでした」。その言葉は、このホテルの隅々に刻まれている。
全211室の客室は、それぞれが小さな美術館のようだ。プリザーブドモスや再生パレットを用いたアート作品、地元職人によるインテリア、厳選されたグリーン——どれも量産品ではなく、人間の手と意志によって生まれたものばかりである。そして3つのペントハウスを含む24室のスイートからは、東京のスカイラインや皇居外苑の緑を望むことができる。過剰な演出ではなく、良質な素材そのものが持つ力を信じた静寂のリトリートがここにある。
ダイニングにも、同じ思想が流れる。シグネチャーレストランは地中海にインスピレーションを得ながら、南仏リヴィエラのエスプリを東京の感性で解釈した空間だ。昼は軽やかに、夜は国際色豊かに表情を変え、アペリティフバーではスプリッツやカクテルが揃う。ロビーラウンジ&バーでは、世界と日本のボタニカル50種を集めたジンライブラリーを中心に、ゲスト自身がボタニカルやベルモットを選んでマティーニを仕上げる「シグネチャー・マティーニ・リチュアル」が体験できる。旅人にも地元の人にも開かれた「Neighbors Café」では、植物を中心としたヘルシーな料理と、職人が淹れるコーヒーが日常を底上げする。
廃棄物の最小化(ミニマルウェイスト)を実践し、季節と土地の食材を丁寧に使い切るという姿勢は、単なるトレンドではなく、ブランドの根幹にある誠実さの表れだ。イベントスペースでも独自の「Certified Sustainable Gatherings」プログラムのもと、廃棄物を出さない運営と地元食材のケータリングを通じて、サステナブルな集いを実現する。
スパでは、日本と西洋の伝統を融合したホリスティックトリートメントが提供される。5室のプライベートルームとカップルスイート、ハマムルームを備えた空間は、もてなしの舞台というより、静かに自分を取り戻すための場所だ。「The Field House」と名付けられたフィットネスエリアは24時間利用可能で、テクノジムの機器が揃う。自然光が満ちるインドアプールの先には植栽デッキが広がり、都市の中心にいながら、緑と光に包まれた時間が流れる。
充足感こそが、新しいラグジュアリー
廃棄物の90%再利用を目指す運営方針は、環境への誠意であると同時に、滞在者へのメッセージでもある。ここに泊まることは、美しい空間に身を置くというだけでなく、自分が何か、より大きなものの一部であるという感覚をもたらす。それが、1 Hotel Tokyoが体現しようとしているラグジュアリーの正体だ。
絢爛なサプライズがなくても、圧倒的な価格設定がなくても、人は深く満たされることができる。自然素材の質感、職人の手仕事、大地と繋がるような静けさ——それらが積み重なるとき、滞在はある種の体験的証言となる。
1 Hotel Tokyoは、ラグジュアリーの問いに対して、東京という都市の中心から、ひとつの明確な答えを提示している。
1 Hotel Tokyo
所在地|東京都港区赤坂二丁目17番22号(赤坂トラストタワー38〜43階)
開業|2026年3月上旬
客室数|全211室
問い合わせ先
1 Hotel Tokyo
