藤原ヒロシが贈る最新アルバム『slumbers 2』発売インタビュー | MUSIC
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2020年11月6日

藤原ヒロシが贈る最新アルバム『slumbers 2』発売インタビュー | MUSIC

MUSIC | 藤原ヒロシ『slumbers 2』

メロディラインと言いたい言葉がハマったときはすごく面白い

サカナクション主宰のNF Recordsから発売された前作の『slumbers』で、従来の都会的でメロウでダブィな要素はそのままに、ポップで浮遊感のあるグッドミュージックを生み出した藤原ヒロシ。あれから3年、そこにニューディスコやハウスのアプローチを加えた『slumbers 2』が完成した。そんなニューアルバムについてはもちろん、彼が音楽を作るようになったキッカケや音楽制作への思いを、明るい自然光が差す都内ホテルのカフェラウンジで訊いた。

Text & Edit by TOMIYAMA Eizaburo|Photo by YAMASHITA Naoki

できあがったらタイトル的に「2」だった

――前作の『slumbers』から3年ぶりのアルバムですが、タイトルは『slumbers 2』と続編になりました。これは当初から決めていたのでしょうか?
藤原 『slumbers』を完成させたあとも、そのままやりかけていた曲を作っていたりして、最終的にできあがったらタイトル的に「2」だったという感じです。
――楽曲制作に関しては、気分が音楽モードに入ったときに進めていく感じですか?
藤原 自然な感じでやってますけど、自分ひとりでやっているわけではなくて。渡辺シュンスケくんというプロデューサーにお願いしている部分も多いので、彼のスケジュールも加味しながらですね。
――渡辺シュンスケさんは前作からのタッグですが、お互いの良さが引き出されていますね。ポップな要素をまぶしながら、洗練された楽曲に着地させていくさまは圧巻でした。
藤原 思い描くものをちゃんとカタチにしてくれて、なおかつ彼なりのハンコを押してくれる。彼は最近の音楽もずっと聴いているし、ジャズやフュージョンやクラシックなども全部わかってくれていて。シュンスケくんらしい手ぐせのような微妙なコード感もあって、そういうのもキレイに反映されていますね。
――音楽においてもコラボレーション的に作り上げていく感じなんですね。
藤原 そういう曲が多いですね。一緒にスタジオに入って作り上げていくことが多かったです。

メロウなディスコ調とシティポップはもともと似てる

――slumberの意味にある「まどろむ」といった方向性は同じですが、楽曲のテイストは変化しています。
藤原 今回のアルバムの初期に作っていた<TERRITORY>がディスコっぽいリード曲になったので、ベルリンの壁について歌った<BERLIN>のような、なんとなく冷たい感じのハウスものを入れたり。前作よりも少しディスコっぽくなりました。
――<TERRITORY>はベースラインがかっこいいですが、演奏はハマ・オカモトさんなんですね。
藤原 ハマくんはバンドで数年前よく一緒にやってもらっていて。結構長いつきあい。他のレコーディングにも参加してもらってるし、ハマくんやっぱりすごい。どんどん成長していくのがわかるんですよね。
――サビに向かって、シティポップのような展開になるのも面白かったです。
藤原 サビのメロディができて、ベースラインは使いたいベースラインがあって。それをもとにシュンスケくんが構築してくれました。でも、シティポップとメロウなディスコ調はもともと似てるしね。
――たしかにそうですね。音楽制作において、トレンド感というのは意識されますか?
藤原 まるっきりそうはしないまでも、大事にしていると思います。でも偏ってはいると思う。タイとかで流行っている最近のシティポップも好きですけど、だからといって生演奏で自分がああいうものをやりたいとは思ってなくて。以前から、自然とああいうコード進行やメロウなものは好きなんですよ。

Hiroshi Fujiwara - TERRITORY (OFFICIAL MUSIC VIDEO)

――山下達郎さんとか、いわゆるなシティポップを聴いていた時期はあるんですか?
藤原 ユーミンは聴いてたけど、達郎さんはそんなに聞いてなくて。あと追いで何曲か知っているくらい。今もそんなに聴かない。シティポップって定義も曖昧で、アメリカなり海外の音楽に影響されて当時できたものだから。ただ、日本の独特なBメロというか、ブリッジと呼ばれるサビに行く前の独特なメロディは僕も好きなんで。今までもそういう作り方は自然としていたかなって。

音楽制作の面白さを教えてくれたのは(屋敷)豪太くん

――曲はピアノとギター、どちらで作ることが多いですか?
藤原 メロディラインは鼻歌ですね。昔は鍵盤でメロディを弾いてましたけど。
――楽器はいつごろからやられていたんですか?
藤原 ギターは中学くらいからなんとなく弾けて。鍵盤は小学生のときに無理やりエレクトーンを習わされていたので、なんとなくのコードはできたんです。でも、それ以降は習ったことはないですけど、弾けるようになりました。いまだに譜面は読めないですけどね、思ったものや聴いたものを弾くだけで。
――そうなると、音楽制作における師匠的な人は誰になるのでしょう。
藤原 音楽制作に関しては(屋敷)豪太くんですね。小泉今日子さんのアルバム『No.17』(1990年)をプロデュースしたときに、豪太くんが住んでいるロンドンに2ヶ月間部屋を借りてこもって。それまでは「自分で曲を作る」なんて考えたこともなかったですけど、やり方を教えてくれたというか学んだというか。そのなかで面白さを知って。
――歌詞に関しては誰かいらっしゃいますか?
藤原 作詞をちゃんとやるようになったのは、YO-KINGとやるようになってからですね(AOEQ)。歌詞はYO-KINGに書き方を教えてもらった感じがある。それ以降は、なんとなく「このフレーズが面白い」という歌詞があればすぐ書き留めて。パズルみたいに作っています。メロディラインと言いたい言葉がハマったときはすごく面白いですし、嬉しいし楽しい。その先がすらすらっといけることもあるので。
――<PASTORAL ANARCHY>は政治的でメッセージ性が強い歌詞ですよね。
藤原 牧歌的(パストラル)なアナーキーという意味ですけど。これは僕のメッセージではなくて、そういう街があるんです。モンテ・ベリータというスイスのアスコーナにあって。1890年にドイツで産業革命が大きくなったとき、「近代化を否定して人間的な暮らしをしたい」とアナキストや哲学者、心理学者、ベジタリアン、アーティストなどがその街でコミューンを作ったんです。
今は博物館と、当時のバウハウス建築があって泊まれるんですけど。そういうユートピア的なところって不思議で、どこか憧れるところがあって・・・。アナーキーなんだけどユートピアのなかはすごく平和だし、本当なら戦っているんだけど、実際に争うことはない。まさに歌詞のような感じがなんとなく今の雰囲気にマッチしていて良いかなと。いつかその街のことは歌詞にしようと思っていたんです。

Hiroshi Fujiwara - PASTORAL ANARCHY (OFFICIAL VIDEO)

アルバムとしても面白いというのをわかってほしい

――『slumbers 2』は一曲ずつ聴くとバラエティに富んでいますが、アルバム全体で聴くとまた印象が変化しました。曲順がすごくいいですね。
藤原 アルバムって統一感を求められることが多いと思うんです。僕もメロウな曲ばかりとか、ハウスな曲ばかりとか、揃えたい気持ちもあるんですけど。結果的にいろんなタイプの曲になって・・・、最終的には流れを重視した曲順に落ち着いちゃいましたね。あえてバラエティにしたという感じはないんです。でも、これは今までもずっとそうなんで、たぶん僕はそういうスタイルが好きで、今後もそうなっていくんだろうなと。それと、当初はミニアルバムの予定だったのが、どんどん広がって結果的にアルバムになったので。
――曲がどんどんできたのは、ライブをよくやられている影響もありますか?
藤原 それはあまり関係ないかも。でも、企画モノよりは「ちゃんと音楽をやっていると認められたい」とは思っていました。なので、フルアルバムになったのは良かったかなと思います。
――アルバム一枚でひとつの作品という感覚ですよね。
藤原 それができれば一番最高なんで。
――でも、いまは曲単位の時代になっています。
藤原 そうですね、だからそんなことを言っていられないというか。CDアルバムを出す必要がなくなってる。でも、それはそれで新しい流れだし、若い子はみんなそうしているわけだから面白いかなと思いますね。その代わりではないですけど、全曲のムービーができたので、そのアプローチは若い人のやり方かなって。
――1分程度のエディットものが多いですが、全曲MVを作ったのはそういう意味合いもあったんですね。
藤原 今は1曲作ったらMV作ってYouTubeに流すという売り方だから。そのニュアンスも伝えられて良かったなと思います。でも、個人的には1曲ずつ聴いてもらうのもいいけど、アルバムとしても面白いというのをわかってほしいというのはありますね。
――MVは、ODDJOBがすべての制作をしていて。どれもいい感じに仕上がっていますね。
藤原 ほとんど彼らのアイデアなんですよ。僕は映像に関して何も言ってなくて、意見を言ったとしても「こっちのほうがいい」程度。でも全部面白くて僕は嬉しかった。ほんとSHINGOくん(ODDJOB代表)には感謝ですよ。

Hiroshi Fujiwara - BERLIN (OFFICIAL VIDEO)

山口一郎くん(サカナクション)と話をすると襟を正される

――普段、音楽はどうやって聴いていますか?
藤原 家ではあまり音楽を聴かないですけど、アップルのHomePodですね。今でも新譜はCDで結構買うタイプです。好きな曲が1~2曲あったら一応全部聴いてみようとします。CDで買うのはラジオ番組で使えたり、雑誌の連載で紹介できたり、あとは「音楽にお金を払う」という「アーティストへのリスペクト」というか。せめて僕だけでも気に入ったものにお金を払っておこうと。だからサブスクではなく、iTunes Storeでダウンロードもするし。
――ドネーション的な意味合いもあるんですね。今はサカナクションのレーベル「NF Records」所属ですが、サカナクション以外はヒロシさんだけというのが面白いですよね。
藤原 大型ルーキー。ずっとルーキー(笑)。山口くんとは4~5年前に友だちの紹介でごはんを食べに行って。それ以来、たまにごはん行くようになって。
――影響や刺激を受けている点はありますか?
藤原 すごくありますね、とくに詞に関して。山口くんの詞はすごくよくできていて深くて、スタイルが違うとはいえ真似できない。あと、音楽に対しての取り組みが真面目すぎるくらい真面目なんで、話をすると襟を正されます。制作を一緒にやることはないですけど、曲ができたら山口くんに聴いてもらいたいし。山口くんもデモを送ってくれたりして、お互い意見を言い合うみたいのはあります。アドバイスもくれます。
――今回<新宝島>のカバーが収録されています。
藤原 番組(FUJI-YAMA MID-NIGHT-FISHING)を一緒にやっていて、そこでサカナクションの曲を僕がアレンジしてセッションしたりしてるんです。もっとメロウにしたボサノヴァっぽいアレンジの<新宝島>をやってたんですけど、CDに入れるのにサカナクションのボサノヴァ・カバーって恥ずかしい。
――あははは
藤原 カフェミュージックみたいで恥ずかしいと思いながらやっていて、最終的にシュンスケくんにごっそりバックトラックを変えてもらいました。そこからふたりでダブっぽくハードにしていって、結果的にすごくいい感じになって。

Hiroshi Fujiwara - 新宝島 (OFFICIAL VIDEO)

音楽が一番自分の素が見られちゃう、だから面白い

――リリースされた今、『slumbers 2』を幅広くいろんな人に聴いてほしいと思いますか?
藤原 そこまで強い欲求はないんですけどね。リリースの日まではパッケージをどうしようとか、いつメディアに出そうとかすごく面白い。でも、リリースしちゃうとみんなのものになっていくので、みんなに聴いてほしいというのはそんなにないかな。
――それよりも自分が聴きたい曲を作るというスタンスですか?
藤原 そこは大きいですね。自分が聴いている曲みたいになればいいというか。何ヶ月か何年か経って、俯瞰的に聴いて「あのときにこれ作ってたんだ良かったな」という感じになればいいなと個人的には思っています。だから、「みんなに聴いて欲しい」というより、どちらかというと「今までの僕を知っている人に聴いてもらいたい」という思いがあるかも。「いまこんな感じなんだな」とか、「こんなことをやっているんだな」とか。もしかしたら「成長したね」って思ってくれるかもしれないし。
――それはさまざまな仕事のなかでも、もっともパーソナルなものだからですか?
藤原 そうかもしれない。音楽が一番自分の素が見られちゃうかもしれないですね。だからこそ面白い。
――だからこそずっと続けられているわけですね。
藤原 できる限りやりたいと思っています。でも、いまは音楽のマネタライズがすごく難しい時代になっていて。僕は他でうまくやれていて、音楽に対してはそこを考えずに楽しくやれているんでいいですよね。そこはありがたいと思っています。
藤原ヒロシ
『slumbers 2』

世界中で隆盛するオルタナティヴ・シティポップ/ヴェイパーウェイヴ/ネオソウルと呼応するグルーヴと優しくメロウなトラックが溶け合った世界標準の都市型音楽を全10曲収録。「7 モンクレール フラグメント ヒロシ・フジワラ」のローンチを記念して制作されたショートフィルムに使用され、世界の都市で展開された先行配信シングル<TIME MACHINE>、同ブランドで現在ワールドワイドで展開中の最新シングル<TERRITORY>が初収録されている。
また、完全限定デラックス・エディションには、アルバム全曲のアナザーバージョンや、DUBバージョンを収録したスペシャル・アルバムをセット。「NOMA t.d.」の2019年秋冬コレクション用にフォトグラファー川内倫子がディレクションした短編映画『HARMONY』の音楽として制作した「HARMONY」も特別収録。オリジナル・アートフォームにて、2,500セット完全限定のスペシャル・パッケージ。
Deluxe Edition ¥9,000
(2CD-THE ORIGINAL ART FORM / 2500セット限定)
Simple Edition ¥2,200
(1CD)
                      
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