鳩が“生きている”インスタレーション

今回の展覧会は、「保存と腐朽」や、「永遠性の希求と儚さ」など、相反する要素が共存する「両価性」がテーマ。見る者に「儚く壊れやすい世界の現状」と「時の経過」を提示する。人間や、人間によって作られたものを含め、永遠に存在するものなどこの世にはなく、あらゆるものは時の影響を受けて変化する、という概念を具体化してみせた。

この概念に焦点を当て、日本人アーティストの畠山直哉をはじめ、海外からはカスパー・コーヴィッツ、アンヌ＆パトリック・ポワリエ、袁廣鳴（ユェン・グァンミン）を合わせて4組のアーティストが、多種多様なモチーフや物質、媒体を用いて、インスタレーションを発表した。

写真家の畠山直哉は、フランス南部に位置するヴァントゥ山で撮影した12枚の写真を展示。理想的である一方、地中に潜む見えない力に抗うことはできない風景をテーマに選び、「崇高」の概念に迫る。本作からは、剥き出しで荒々しくも崇高な高地がもつ、さまざまな危険を秘めた美しさとともに、安らぎと静けさが伝わってくる。

©Louis Vuitton / Jérémie Souteyrat Courtesy of Espace Louis Vuitton Tokyo

そしてフランス人アーティスト 、アンヌ＆パトリック・ポワリエは記憶の分類システムとその流れ──記憶の保存、分類、忘却に着目した。会場の真ん中に位置する高さ7メートル、金属製の円錐型インスタレーション「The Soul of the World（世界の魂）」は、哲学者アンリ・ベルクソンが唱えた「記憶の円錐」からインスピレーションを得た。この巨大な円錐を“鳥籠”にたとえ、そのなかに数匹の鳩を配した。小さくて、傷つきやすい鳩たちは記憶そのものの不確かさや脆さを表し、鳩が飛び交う様子は、記憶の変遷を示すという。

さらに、会場の奥は絵画インスタレーションで鮮やかに彩られている。オーストリア人アーティストのカスパー・コーヴィッツによる新作「The Sheer Size of It（その大きさたるや）」。約380キロの食用ベアグミで作られた、直径7メートルのイラストレーションは「一時性」というテーマを表現。カスパー・コーヴィッツは天国の風景に惹かれ、さまざまなリサーチを終えたのち、彼が想像する天国の様子をイラストに収めた。また、日差しの熱によりグミは溶けていき、絵の形が日々変化していくという作品そのものの「一時性」を演出する。

©Louis Vuitton / Jérémie Souteyrat Courtesy of Espace Louis Vuitton Tokyo

最後に、台湾のアーティストの袁廣鳴は、動くデジタルイメージ作品「Disappearing Landscape – Reason to be a leaf」を制作。自宅にある雑草をカメラで撮影し、出来上がった写真をスキャンしたあと、デジタル加工で葉の葉脈を取り除く。葉は個性を取り除かれただけではなく、アイデンティティも同時に奪われている──袁廣鳴はイメージの大事な特徴を消すことで、その特徴なしにイメージとして存在するかどうかという疑問を提起する。また、このシリーズを通じて、アイデンティティ、時間、グローバル化、そして、台湾の抱えている問題を投げかける。

『Traces of Disappearance（消失の痕跡）』

会期│1月18日（土）～4月13日（日）

時間│12:00～20:00

会場│エスパス ルイ・ヴィトン東京

東京都渋谷区神宮前5-7-5　ルイ・ヴィトン 表参道ビル7F

Tel.03-5766-1094