“宝剣”と名がついた町の酒

宝剣酒造のある場所
宝剣酒造は広島県にある蔵元。宮島と原爆ドームは世界遺産に登録されていますが、世界遺産がふたつある県は広島県だけ。食べものでいうと、お好み焼き、牡蠣はとくに有名です。広島県人は“シメ”にラーメンではなく、お好み焼きを食べるひとも多いほど。もちろん我われ広島県蔵元も、シメには「お好み焼き 肉玉そば」をいただきます。

広島駅から東方に電車で50分
呉市は牡蠣の生産量が日本一、または戦艦大和が造られたことでも有名な人口約25万人の町。電車に揺られること50分、「仁方（にがた）駅」を降りると、そこは電車があまりにも通過しないためか、レールも錆びたような無人駅です。そんな山と海に囲まれた仁方町でも「日本一」があります。「ヤスリ」です。生産量、出荷量ともに全国第一位、全国シェア約90パーセント。仁方町ではその昔、ヤスリを作るために多くの刀鍛冶がいたことから、そこで醸されるお酒に“宝剣”と名がついたとされています。

仕込み
平成6年より宝剣酒造では、杜氏に頼らない社員造りによる酒造りをはじめました。ちなみに私、土井鉄（ドイテツ）は平成9年より製造責任者「杜氏」として酒造りをはじめました。

"湧き水"

仕込み水
「宝剣」では、蔵の敷地内に湧き水が出ています。裏山にある「国立公園 野呂山」に降った雨、雪が約120年かけ、自然の大地にじっくりと濾過され一日16トンも湧き出ているというわけです。呉地区で水が湧き出ることは極稀（ごくまれ）といわれ、水質はやや軟水でミネラル豊富な酒造に適した名水といわれています。ちなみに我が家では浴槽に湧き水を使っていますが、水道水と比べるとピリピリしないですね。とても柔らかいです。

くやしい出来事
広島県の方言で、“〇〇するけん”。言葉の最後に「けん」がつきます。13年前、地元ではある言葉が流行っていました。「宝剣、まずいけん」、です。その噂を聞いた日はかなりショックを受けました。「ウマイ酒を醸しているんだ」と思っていた自分に情けなく、その晩はあびるように飲みました。飲んでも飲んでも酔えず、悔しくて悔しくて涙が止まりませんでした。

宝剣の復活
「宝剣、まずいけん」と言われて約3年後、なんとかウマイ日本酒を飲んでもらおう──当時宝剣酒造では、ラベルに宝剣ではなく別ブランドで販売していました。宝剣ではあまりにも評判が悪く売れないためです。しかし、約140年つづく宝剣酒造、いつか「宝剣、うまいけん」と言ってもらえるよう、現在のラベルで復活しました。当時一升瓶で700本からのとても小さなスタートでした。

蔵人たちのふたつの合言葉
現在、私を含め3人で日本酒を醸していますが、我々3人のあいだで合言葉があります。
ひとつめは、「100パーセントの日本酒を醸す!!」
杜氏歴14年の私ではまだまだ100パーセントの出来と思える日本酒を醸すことはムリでしょう。100パーセント「完ぺき」な日本酒を醸すのではなく、100の知識があれば、どのような状態であれ100の力を出し切ろう！　という意味であります。

ふたつめは、「気合いじゃ!!」
アニマル浜口さんみたいですが（笑）、我われは約半年間休みなく日本酒造りに励みます。疲れ、睡眠不足になったときに人間は少し不安にもなり休みたくなるものです。100ある知識のなかのひとつでも諦めてしまうと、あとで後悔してしまうのも自分です。諦めそうになったとき、自分のケツを自分で押してやるその気持ち（気合い）が日本酒造りには大事だと考えています。

"湧き水"

最後に
皆さまはキンモクセイの花はお好きでしょうか。
私は大嫌いなのです。昔は大好きだったのですけどね。彼岸花が咲き、キンモクセイの花が香るころに蔵入りするために（蔵入りしたら自由がなくなる）大嫌いなのです。そんなことをいっていると日本酒造りが嫌いだと思われそうですが違いますよ（笑）。ぜひ皆さま今後キンモクセイの花が香ってきたら思い出してください。私たち酒蔵が仕込みに入ったのだな！　と。

そしていま私の話を読んでいただいているころ、私、ドイテツは「100の力」と「気合い」で日本酒造りに励んでいます。「宝剣、うまいけん」のために……。

私、桜の花はとても好きです。桜の花咲く4月、またどこかで皆さまにお会いできますことを楽しみにしています。

宝剣酒造
http://www2u.biglobe.ne.jp/~houken/index.html

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応募期間｜2010年11月1日（月）～11月30日（火／午後12時）まで

応募は終了しました。
たくさんのご応募ありがとうございました。