デザインの本質的な必要性を提示し続け 25周年を迎えたジャムホームメイドの今 | JAM HOME MADE
FASHION / MEN
2023年10月13日

デザインの本質的な必要性を提示し続け 25周年を迎えたジャムホームメイドの今 | JAM HOME MADE

JAM HOME MADE | ジャムホームメイド

デビューコレクションから最新コレクションまで貫かれたデザイン哲学

90年代後半から00年代前半にかけて勃興したシルバーアクセサリーブームの中で産声を上げ、他に類を見ないアプローチを重ね、進化を続けてきた「ジャムホームメイド」。1998年のブランド設立から四半世紀という区切りを迎えた今、同ブランドのデザイナーであり創設者のひとりでもある増井氏を迎え、改めてその足跡と現在地について話を伺った。

Edit & Text by KAWASE Takuro, Photographs by ONO Daiki

衝撃のデビューと初期コレクションの成功

瓶詰めしたアクセサリーを冷蔵ショーケースに入れたインスタレーションで、1999年にデビューしたジャムホームメイド。そこには、流行によって古くなり、消費されてしまうモノへの対比というメッセージが込められていた。まるでコンセプチュアルアートのような斬新な発表形式をとった処女作は、バイカーテイストの無骨なデザインが主流だったシルバーアクセサリー業界に衝撃を与えた。

増井 ブランド名の由来は音楽におけるジャムセッションなのですが、デビューコレクションで食べ物のジャムの瓶を使ったのは、もちろんブランド名にかけています。新宿伊勢丹の解放区で発表したのですが、今思い返すと同じタイミングで「アタッチメント(1999年創業)」さんも出品していましたね。

シルバーアクセサリーのブームは、独立系メンズブランドが次々と生まれた時期とも重なる。いまだに伝説的なブランドとして語り継がれている「ナンバーナイン(1996年創業)」のコレクションアクセサリーを担当していたのもジャム(以降、親しみを込めてジャムと略)だった。この事実は当時オフィシャルな情報としては認知されていなかったが、ファッション業界内では広く知られており、ジャムの名が広く知られるようになるきっかけともなった。

増井 あの時期にスタートしたばかりのファッションブランドは、アクセサリーまで自社で手がけることができなかったところが多かったので、たくさんのブランドからオファーをいただきました。有名なブランドを思い返してみると、先のナンバーナインさんを含め、「ア・ベイシング・エイプ」さん、「ミハラヤスヒロ」さん、「ズッカ」さんなど錚々たるブランドとお仕事をご一緒してきたことは、ブランドにとって大きな財産になっていますね」
安全じゃない危険ピンブレスレット各¥88,000

パンクロックから引用した安全ピンモチーフ

そうしてメンズファッション誌の常連ブランドになっていたジャムが、決定的なポジションを得たコレクションが、2001年に発表した“XXX”(トリプルエックス)だった。アメリカのハードコアパンク・ムーブメントにインスパイアされたスタッズとレザーを多用したアイテムは、ファッション好きはもちろん音楽好きからも熱狂的な支持を得た。

増井 XXXコレクションは数回続けて発表したのですが、その際に生まれたのが安全ピンモチーフで、今でも継続して展開しています。最新コレクションでも新しい安全ピンを作り、さらにジョニー・ロットンが腰に着けていたビクターチェーンをモチーフにした新作も生まれました。(セックス・ピストルズのアートワークを手掛けていた)ジェイミー・リードの訃報があったこともあり、追悼の意を込めました。やはり、音楽はデザインする上で大きなインスピレーションを与えてくれることは間違いありません。

他人に任せず自分でやるという、パンク特有のDIYスピリットを象徴する安全ピンは、その後もジャムを代表するモチーフのひとつとして、さまざまなアプローチで展開。初の直営店ではアルヴァ・ノト名義で知られるサウンドアーティストのカールステン・ニコライを起用し、近年もジョイ・ディヴィジョンのアートワークをシルバーの立体作品として発表するなど、ミュージックカルチャーへのオマージュは、増井氏のデザインにおいて欠かすことのできない要素のひとつとなっている。

増井 25周年を迎えて、改めてカールステン・ニコライさんとコラボを制作しました。来日公演があると必ず足を運ぶようにしていて、お付き合いが始まった頃からどんどんビッグな存在になっていく彼の姿を見ていると感慨深いものがありますね。それから、日本人のミュージシャンともいくつかコラボをやっていまして、最近ではサカナクションの山口一郎さんと、オカモトズのオカモトショウさんとのコラボが印象深いアイテムですね。
アルヴァ ノト ウォレット¥49,500、ストール ¥33,000

震災以前と以後で顧客の価値観が変わった

デビュー以来、破竹の快進撃を続けてきたジャムだが、改めて25年を振り返ってみると、東日本大震災のあった2011年前後がブランドにとって大きな節目になったと増井氏は語る。

増井 ジュエリーやアクセサリーに対する、お客さんの意識や価値観が変わったと感じたからです。この頃を境に、スマホ画面をスタッフに見せて「コレありますか?」とおっしゃるお客さんが多くなっていたのです。デジタル化への大きな変化に伴い、ECを強化する必要性を感じていました。そこで、震災前に7店舗あった直営店をあえて千駄ヶ谷の1店舗だけに絞り、ECに注力しました。

当時はまだ接客販売が重要視されていたジュエリーブランドで、EC化をいち早く推し進めたのは先見の明があったと言えよう。アナログからデジタルへという購買方法の変化とともに、顧客の価値観が変わったとは具体的にどういう意味なのだろうか。

増井 “名もなき指輪”というワークショップを始めたのも2011年でした。お客さんご自身に、楕円形の真鍮製の指輪を木製のハンマーで叩いて真円にしていただき、指輪を作っていただくという内容です。カップルのときは真鍮やシルバーやステンレスですが、ふたりにとって大切な記念日や結婚するときにはプラチナやゴールドの指輪に作り替え、2人の名前が入った世界にひとつだけの指輪が完成します。この提案が大きな反響を呼び、特に若いお客さんが増えました。ブランドで選ぶのではなく、パートナーと一緒に指輪を作るという体験に価値を認めてもらえたと思っています。モノ消費からコト消費へという言葉が聞かれるようになったのもこの頃でした。

“名もなき指輪”が実際に商品化されたのは2014年になるが、16年にはグッドデザイン賞を受賞し、発売当初から現在まで続くブライダル商品の定番となった。このように顧客の価値観や情緒に訴えかける商品がある一方で、業界内でも評価の高いファッションブランドとのコラボを継続。ジャム人気を支える大きな柱となっている。
残念ながらこちらのコラボハットは完売。

ユーモアから生まれるジャムらしいデザイン

以前リリースしたCA4LA(カシラ)とのコラボでは、ウィッグ付きのニットキャップとハットを展開。被るだけでレッド・ホット・チリペッパーズのアンソニーと、映画『時計仕掛けのオレンジ』の主人公アレックスになれるというデザインで、カシラとカツラを掛けている点も見逃せない。ユーモア全開のCA4LAとのコラボは今季も継続。

増井 25周年となる今季もCA4LAさんとメタトロンフラワー入りのボーラーハットを作りました。神聖幾何学模様とも呼ばれるメタトロンフラワーは、宇宙の秩序や生命の起源を表すとされ、中心に植物を植えると成長が早まったり、水が腐らなかったり、不思議なパワーをもっているそうです。ハット頭頂部の裏側にメタトロンフラワーを配置させることで、頭髪が薄くなってきた男性にもおすすめしたいですね。ちなみに僕は財布にメタトロンフラワーを入れるようになってから、不思議とお金が減らなくなったんです。あくまで神秘主義的なもので、実際の効果は保証できませんが(笑)。

冗談なのか本気なのか、はたまたその両方なのか。周到にコンセプトが用意されたジャムのいくつかの商品は、駄洒落や言葉遊びから生まれたものも少なくない。最新コレクションにおいても、ダイヤモンドと時刻表のダイヤをかけたり、Do you know me?と湯呑みをかけたり、思わず吹き出してしまうユーモア全開のアイテムは今季も健在だ。

増井 今シーズンのテーマとなっている“FLIPSIDE”は、レコードのB面やスケートデッキの裏側を指し、裏や逆という意味を持っています。ダイヤモンドが“入っていない”リングや、お寿司屋さんにある魚偏“ではなく”部首の心が入った漢字をあしらったリングを作りました。それから安全ピンモチーフは、安全“じゃない”ピンをデザインしました。こうしたアイデアはずっと前からストックしてあって、テーマに合わせて引き出しています。実際にサンプルを作ってみると、スタッフからやめてくれと反対されることもありますが、しばらく時間が経つとやっぱり面白いよねということで商品化されたものも多々あります(笑)。

業界初のバツイチ用ブライダルリング!?

一見するとシンプルなリングだが、裏側に×マークを入れた新作の“メディスンリング”。しばらく着けてからこのリングを外すと、指に×マークが残るようにデザインされている。これはバツイチ・ブライダルという別名でも呼ばれている。

「インディアンジュエリーに見られる十字模様のメディスンホイールから着想を得て、“良薬口に苦し”という意味を込めました。また、視点や枠組みを変えて物事を見直してみようという意味があります。×マークは、角度を変えて見れば+になる。そんな風に、過去の経験が+になることをリングに込めました。ちなみに、再再婚したときに×を増やすこともできるんです(笑)。
メディスンリング¥176,000(S size)、M¥225,500(M size)
このブライダルリングには、バツイチであることを忘れず、過去へ向き合うことへの前向きなメッセージが込められている。さらに、リングが収められた専用の木箱は、ウェディングソングの定番であるワグナーとメンデルスゾーンの2大結婚行進曲が奏でられるオルゴールパッケージになっている点もジャムならでは。大きな教会やホテルで結婚式を挙げなくとも、2人だけの結婚式が自宅でいつでも楽しめるようにという、ジャムらしい思いやりが潜んでいるのだ。

ネガティブに捉えられがちなバツイチをポジティブに変換し、×を+に見るという「ユーモア」。2人だけの結婚式がオルゴールでいつでも楽しめるという、使う人の感情に訴えかける「コンセプト」。そこにはやはり「音楽」が介在している。そう、このバツイチ・ブライダルにも、“デザインの本質的な必要性”というブランド哲学が貫かれている。四半世紀を迎えたジャムが教えてくれるのは、表層的なデザインやブランドステイタスとは別に、自分なりの価値観を大切にすることなのだ。
問い合わせ先

JAM HOME MADE東京店
TEL 03-3478-7113
https://www.jamhomemadeonlineshop.com/

                      
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