信國太志|第8回 パンクの女王の倫理的な活動
第8回 パンクの女王の倫理的な活動
ヴィヴィアン=ウェストウッドが環境問題にコミットした新ライン「CHOICE」を発表しました。パンクの女王が倫理的な活動をはじめたことは、このエッセイのタイトルであるbuddha punkにふさわしいトピックです。
文=信國太志写真=原恵美子(ポートレイト)
ヴィヴィアンの敵としての環境破壊
去年彼女の次男坊ジョセフ=コレ(僕のロンドン時代のフラットメイト)とご飯を食べたときに彼がやたらと環境問題への関心を語っていたので、“ヴィヴィアンと環境問題”という一見想像しがたい結びつきもすんなりと理解できました。
ジョセフの父であるマルコム=マクラーレン(この父子は世界で一番仲が悪い親子なのですが)は、ファッションとは戦いなので敵が必要だと語っていましたが、ヴィヴィアンたち(息子より若い夫であるアンドレアをふくむ)はそのような敵として環境破壊をみつけたようです。かといって僕はヴィヴィアンがエシカル(倫理的)なスタンスをとってもまた昔のような毒を取り戻してくれることを願いますが。
僕は仏教を通じて精神の灰汁(あく)を濾過し、その透き通った上澄みを垣間見たことで折り返し地点を回りました。上澄みと沈殿物をもう一度ぐちゃぐちゃに混ぜ合わせて無作為な世界の有り様をまるごと受け入れるプロセスに入っています。環境問題や倫理問題に偏っていた以前の連載から、今回のあたらしい連載に仕切りなおしたのもそのような心境の反映です。
わかりやすくいうと、上澄み=環境、倫理問題で、澱(おり)=ファッションです。
そのような一見するところの対立項には、“消費と環境”といういま誰もがどうバランスをとるか迷っている問題への解決や捕らえかたの糸口があると感じています。しかし本当はそのように白黒分けるのは人間の浅はかな概念でしかないので、そのような観念を超えてありのままを受け入れるだけのことなのですが。
「She is a hard working xxxxxxxist」
セントマーチン校でマルコムが講義したときに、彼とヴィヴィアンがパリコレに“ホーボーファッション”で殴りこみをかけたときのことを語りました。前述のようにファッションに敵が必要であるとして、そのときの彼らの敵はメディア=ファッションだったそうです。ショーを終えジャーナリストに中指たてた気でいたマルコムは翌週愕然としたそうです。フレンチ『vogue』の表紙がそんな自分たちのホーボーコレクションだったのですから。
生徒のひとりが質問しました。「じゃあマルジェラはアンチファッションなスタンスですがどう思いますか?」と。
禁煙の校内の教室でジタンを燻らせながらマルコムは答えます。「彼は自分が一体なにをやってるのか理解してない」
「じゃあ川久保さんは?」
「She is a hard working xxxxxxxist」とマルコム。
おもしろいやりとりですが、そんなマルコムは哲学的な迷宮に陥ってなにもつくりだせなくなっているように感じるのは僕だけでしょうか?
ファッションでダブルバインドに陥った彼は当時レッドツェッペリンにまつわる映画の製作を模索してたようですが実現しませんでした。できていたらどんなだったろうと想像すると楽しいけど。
アンチファッションとファッションといった対立する概念をしなやかに飛び超える知恵が彼には欠けていたのかもしれません。それは環境とファッションにもいえることでしょう。
僕たちのしなやかなスタンスと知恵
botanikaのプロダクトで使用するコットンは100%オーガニックですが、意外にも化学染料を使用しています。なぜなら天然染料を使用すると媒染(ばいせん)という染色における媒介に金属成分が高いものを使わざるをえなくなるからです。反応染料といわれるそのような染料はアゾ染料などとちがい、アレルギーなど人体への影響も環境への影響もまったくありません。そのような手法でグレイなどのメンズライクな色を表現することで、オーガニックな優しいイメージに終始しないワードローブをつくっています。
そのようなことが僕たちのしなやかなスタンスと知恵の一例です。
化学染料=害悪などという単純な図式が浸透してしまうと、それこそエコXXXXXXズムによって生成りだけの世の中になってしまいます。僕はヴェジタリアンですが、全人類がそうなってほしいなどと思いませんし、野菜も足りなくなるでしょう。
いきなり話は飛びますが、ウォシュレットできれいにしすぎると病気になるそうです。善玉菌が洗い流されてしまうから。
自然農法を確立した福岡正信さんによる種子団子は、なるだけ多くの種を同時に蒔くための農法です。それは多種多様な種により強い森ができるからだそうです。
環境破壊の根絶は願いますが、価値観の画一化は文化の消滅に繋がるように思います。
http://woman.excite.co.jp/topics/fashion/rid_13603