友人の結婚式に招かれ、初夏のロンドンを訪れた。

セントジェームズ通りにある定宿に荷を解き、結婚式用のシャツをプレスに出そうとしたら、東京に忘れてきてしまったことに気がついた。世界一のドライマティーニで知られる宿のバーでそんな自分を嘆いた。
「シャツならすぐ近くに老舗のいい店がある」とバーテンダーは言った。ロイヤルワラントが誇らしげなシャツは僕には似合わない。結局、忘れたシャツと同じものを探すために、ボンドストリートにあるマーガレット・ハウエルに行った。
店はハーブのいい香りが漂い、やわらかな自然光と照明が調和した空間が心地よかった。店というよりもアトリエのようだ。女性の店員に事のいきさつを話すと、「そのシャツは定番ですから、きっと同じシャツがありますよ」とにこやかに対応してくれた。
そして店員はコットンの白いシャツを五枚ほど持ってきて、「この中からどれか好きなものを選んでください」と微笑んだ。
「同じ色、同じサイズですが、一枚いちまい職人の手仕事によって作られているから、全体の仕上がりが微妙に違うんです。この中に忘れてきたシャツと似た印象のものがきっとあるはずです。
もしこの中に無かったらもっと持って来ますね」。こんな気づかいに僕は感激してしまった。最後に店員は「いい結婚式を」と言ってくれた。

シャツを手に入れた僕は、嬉しさを誰かに伝えたくてスタイリストの友人に電話をしてお茶に誘った。友人は、つい先日カップケーキ専門の店をオープンさせたから、ぜひ一度店を見に来ないかと僕を誘った。
イーストロンドンにある友人の店は「VIOLET CAKES」というこじんまりとしたケーキ屋だった。ナチュラルで清潔なセンスが際立ったすてきな店だった。

今日の出来事を話すと、友人はにこにこしながら聞き、「その店員はきっと私の友だちよ。そんな接客するのは彼女しかいないわ。すてきな話を聞かせてくれてありがとう。
でも、シャツを忘れて良かったわね。あなた、このことをエッセイに書けるじゃない」。友人は自分のことのように喜んだ。

宿に帰った僕は、早速プレスに出そうと買ったシャツを広げた。シャツは八年間着続けたシャツと確かに同じだった。素肌に着てみた。手首やひじ、肩の先、胸のあたり、首元の心地よい肌触りは間違いなかった。このシャツが大好きだとあらためておもった。

次の日、結婚式の会場に着くと、あの時の店員がドレスアップした姿で立っていたから僕は目をこすった。僕に気づいた彼女も驚いて「今日の結婚式だったのね」と笑った。こんなにうれしい偶然が重なるなんてとおもった。

旅の中、ロンドンは晴れの日が続いた。白いシャツを着て、僕は友人たちと楽しく過ごした。

松浦弥太郎｜MATSUURA Yataro
暮しの手帖編集長、文筆家、COW BOOKS代表。
著書に『今日もていねいに』（PHPエディターズ）、
『暮らしのヒント集2』（暮しの手帖社）ほか多数。

SHIRT
マーガレット・ハウエルがデビュー当時よりこだわって使用しているヨーロッパの生地メーカーの高級コットンを使用したスペシャルな白シャツが3型登場。
シャツ各2万5200円（マーガレット・ハウエル）

EYEWEAR
メンズコレクション初のアイウェアが今春2型デビュー。マーガレット・ハウエルの監修のもと、日本人の顔型にこだわったメイドインジャパンで、ユニセックスとメンズのラインナップとなっている。フィット感の良さはぜひ店頭で。
サングラス各2万4150円（マーガレット・ハウエル）

STOLE
スポットのプリントがほどこされた英国製ハンドプリントのストール。大人っぽいグレーで、セットアップの首もとや、カジュアルダウンの着こなしに最適。
ストール1万5750円（マーガレット・ハウエル）

HANDKERCHIEF＆SCARF
左／シャツ地とおなじ素材を使用したハンカチは、毎シーズン登場する人気の定番アイテム。洗うほど味が出てくるファインな素材で、ポケットチーフとしても使える。
ハンカチ各3150円（マーガレット・ハウエル）

右／ポケットチーフにしたり、コンパクトに巻いて飾ったり、ユーティリティに使いこなせるチェックのプリントスカーフ。バンダナ的な柄で、カラーアクセントに。
スカーフ各5250円（MHL.）

アングローバル
Tel. 03-5467-7874
www.margarethowell.jp