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2019年10月25日
今のカルチャーを感じさせる新感覚ファッションECサイト|STYLEVOICE.COM
MEDICOM TOY|メディコム・トイ
様々なキュレーターの声が集まる雑誌に取って代わる媒体を目指して
感度の高いユーザーの好奇心を刺激し、“今欲しい最先端” を届けるメディア型ECデパートメントストア、「スタイル ヴォイス ドットコム(STYLEVOICE.COM)」が11月上旬にオープンする。ファッションを主軸にライフスタイルまで幅広く展開する、株式会社ジュン、株式会社マッシュホールディングス、株式会社デイトナ・インターナショナルの3社による合弁会社、スタイル ヴォイスが運営する注目のファッションECサイトである。代表取締役社長には『ジンジャー(GINGER)』『レイ(Ray)』、『ミーナ(mina)』など、様々な女性ファッション誌で、編集長を務めてきた片山裕美氏が就任。同サイトで編集長も兼任する片山社長と、参画企業のひとつである株式会社メディコム・トイの赤司竜彦代表取締役社長に登場いただき、スタイル ヴォイス ドットコムの内容、これからのECサイトのあり方、魅力的なサイトの条件などを語っていただいた。
Photographs by ISHII Fumihito | Text by SHINNO Kunihiko | Edit By KAWASE Takuro
世界観の作り方は雑誌も一緒、発見や気づきがあるサイトに
赤司 いよいよ「スタイル ヴォイス ドットコム」のスタート目前ですね。
片山 オープンに向けてまさに最終調整中なんですけど、これが想像以上に大変で……(笑)。ただ、ECサイトに限らず、ウェブサイトは立ち上げ翌日からリニューアルが始まる生き物なので、とりあえず完璧なスタートを目標にするのはやめました。どんどん変えていかなきゃいけないし、おのずと変わっていくだろうなと思っています。
赤司 そこは女性ファッション誌の編集長を長年務めてこられた片山さんですから。
片山 紙の編集歴は30年くらいですけど、サイト制作になると全然別モノなので、詳しい方にアドバイスしていただかなきゃと思っていました。そうして、赤司さんのところに初めてうかがったのが今年の6月です。スタイル ヴォイスの話は事前にジュンさんから赤司さんに伝わっていて、まだデザインモックも何もできてない段階で非常に興味を持っていただいていたんです。とてもありがたいなと思うと同時に、「なんだ、こんな感じなの?」って言われたらどうしようっていう恐怖もあって。
赤司 全然そんなことないです(笑)。
片山 お会いする前から赤司さんの噂──お仕事のことはもちろん、いろんなことに詳しくて、海外のECサイトも本当によく見てらっしゃるし、ネットワークもすごいとうかがっていたので、とても緊張しました。
赤司 以前から海外ECサイトのファーフェッチ(Farfetch)をよく利用していました。だから、こういうかっこいいブランドだけ集めたファッションECサイトが日本にもあればいいのになぁと思っていたのです。そんな時にスタイル ヴォイスの噂を耳にして、いまからゼロベースで立ち上げて、製作陣の顔ぶれもなんとなく聞いていたので、これはかっこいいサイトになるかもしれない、ぜひ最初から組ませて欲しいと片山さんをご紹介いただいたんです。
片山 とても光栄です。スタイル ヴォイス ドットコムで大事にしたいのは、伝え方です。世界観の作り方は雑誌も一緒なので、ブランドはもちろん、明日どんな服を着るのか、どういうライフスタイルを送りたいなど、サイトを訪れたら必ずいろんな発見や気づきがあるようにしたいんですよね。コンテンツにしても、それが自分にとって本当に必要かどうかを気づかせるような記事をたくさん配信していければと思っています。
赤司 そこは片山さんの一番得意な分野ですよね。
片山 ブランドの持つストーリーとか、新しい世界を知ったりアイテムを手に入れることで、どういう自分と出会えるのかということを語ってきたのがファッション雑誌だったと思うんです。ただ、読者の情報の取り方のバリエーションがどんどん広がるにつれて、少しずつそういう雑誌の声が小さくなってきて……。ちょうど、ベタ付け付録がつくのが一般的になった頃を境に。一方で、ブランドや洋服そのものには、依然としてそういう想いがこもっているじゃないですか? それをいま伝えるにはどういうメディアが一番いいかというと、やっぱり24時間自分の持っているデバイスで、無料で見られるものだなって。なので、雑誌が担ってきた役割を受け継げるような媒体を作るというと大げさですけど、そういう覚悟で望んでいます。
赤司 付録がつかない雑誌もいまだにあるんですよね。例えば、女性目線だと『装苑』と『カーサ ブルータス』。あの本は付録がなくても買いたくなります。男性目線だと『Pen』かなぁ。スタイル ヴォイス ドットコムは、そうした付加価値のある情報を提供してくれる媒体になってくれたらというのが一番の願いであり、微力ながらお力添えしたいなと思っているところです。
片山 ショップの外観とかレイアウトを見ただけで、“ここの服を着てみたい”と思うことがありますからね。それでいま心を砕いているのが、写真の見え方と触ったときの感触──次のページに移る時間とか、タップした時に何かイベント的な変化が起こるとか、そういったインターフェイスが重要性だと思います。やっぱり、触ると一瞬でわかるじゃないですか。これは新しい!とか、ありがちな感じだなぁとか。その部分で“何かちょっと違うかも!”という印象にしたいと思っていて。中に入ってもらって、記事で物語っていく以外に、最初に見て触って感じる新しさをどこまで伝えることができるかが重要なのではないかと。
赤司 新しい雑誌を手にしてページをめくるときのワクワク感ですね。
これからのECに求められるコミュニケーショのあり方
片山 赤司さんから最初にご指導いただいたことなんですけれども、ストレスなく商品が選べて、買うことが楽しくなるようなサービスとか、その人に向けて刺さるようなお客様へのメールの書き方とか。商品を比較検討しやすいような機能を持たせるとか。私は、それらをメモして、机の前に貼り付けてあります。これらは今後、全部クリアしなければならないと。そこで一番買い物しやすいサイトとして、ファーフェッチを挙げていただいたんですよね。
赤司 圧倒的に買い物しやすいですね。
片山 実際に自分も買ってみたら、確かにおっしゃる通りでした。11月7日のスタート時にそこまで完成させるのは難しい部分があるのですが、来春のメンズブランドを拡充するグランドオープン時期にかけて少しでもそこに近づけたものにしたいと思っています。
赤司 とにかく、ファーフェッチで買い物すると気持ちがいいんです。肌感で買い物ができるという意味ではおそらく世界一でしょう。なので、アドバイスというよりも、片山さんがこんな感じで作ってくれると嬉しいなって。
片山 私も完全に感化されちゃっています(笑)。ラグジュアリーな商品が多いので、頻繁に買うわけではないですけど。ファーフェッチって買う楽しみだけじゃなく、商品が届くまでの過程も楽しいんですよね。「いま商品をご用意しています」「いまヒースロー空港を出ました」「税関を通っています」みたいな通知がリアルタイムで来るので、今ここまで来ているんだなって、商品が届くまでの待ち時間ですら楽しいんですよね。サイズが合わなくて返品するときも、箱に詰めてDHLさんに渡せば終わり。びっくりするくらいラクで。
赤司 それも全部アプリに通知が届くから、海外相手でも安心という。
片山 私、2000年前後にECが流行りだした頃、まだ日本に入っていなかったLAのREVOLVE (リボルブ)にハマった時期があるんです。もちろん国内のファッションECサイトも利用していたんですけど、リボルブは海外からでもスムーズに届くし、知らないブランドもたくさんあるから、それを見つけるのが楽しくて。その頃に比べても、いまは使い勝手が段違いに良いですよね。目の前にいて本当に接客されているようなイメージ。この20年間の進化は本当にすごいんだなぁと思って。
赤司 おっしゃる通りですね。私がもうひとつ片山さんにご紹介したECサイトが、リアルリアル(The RealReal)です。これは海外の富裕層が出品しているラクジュアリーブランドのセカンドハンズ(中古品)専門サイトです。“なぜこんなに(エルメスの)バーキンがいっぱい?”って驚くくらい膨大に出ています。「物欲を刺激する写真の撮り方」という片山さんの名言がありますが、このサイトを見ると本当に欲しくなりますね。海外の方が出品されているので、レディースサイズで私も着られるサイズもある。欲しかったけど、日本には11号までしか入ってなかったハイダー アッカーマンの15号のレディースのジャケットを見つけて、すぐさま“買う、買う!”って(笑)。
片山 それは買っちゃいますよね(笑)。
赤司 商品撮影時のライティングも全部計算されているし、セカンドマーケットの商品なので「このバッグを男性が持つとこれくらいのサイズ感になる」ということもきちんと書いてある。あと、私が一番面白いなと思ったのが、月に30ドル払えば他の人より24時間早く出品商品を見せてあげるというシステムを作ったことです。これも新しい価値観のひとつで、今の時代、情報をお金に変えるには一番これが有効なんだなぁと思ったのです。ECサイトの可能性はまだまだあるなという気がしますね。
片山 赤司さんが優れたサイトだなと感じるポイントってどういうところですか?
赤司 どんなデバイスでもコンテンツでもそうですけど、説明書をひとつも読まずに操作できることですかね。マニュアルがいらない。チュートリアルでなんとなくわかる。そういうサイトがひとつの理想かなと思います。
片山 理想ですね。直感でなんとなくわかる。
赤司 そして記事を読むと刺さったり、あっ、これ欲しいと思ったり。
片山 それを実現するのってシステム作りじゃないですか。さっきお話しした「触った瞬間、動きでわかる」みたいな感覚って、共有できるプログラマーの方じゃないとかなか伝わらないので、そういう部分でシステムを作るのは難しいことだなと思って。
赤司 きっとどの業界でも同じだと思うのですが、例えばファッションの世界なら、デザイナーとパタンナー、フィギュアの世界なら原型師と企画の人間という二人三脚なんですよね。この人だったらこのパターン引けるだろう、この人だったらセンスがあるからこの造形頼めるなとか。それと同じで、プログラマーとファッションECサイトがまだそこまで有機性が高まっていない気がするので、皆さん試行錯誤していらっしゃるところだと思います。ファーフェッチだって最初からシステムが確立されていたわけじゃなく、何度もリニューアルを重ねて今の形になっていますから。スタイル ヴォイスも最初は試行錯誤もあると思いますが、旗振り役の片山さんの設計図がブレなければ、最後は必ず目的地に辿り着けるはずなので。
今の感覚を共有するハブとして様々なキュレーターが発信
片山 スタイル ヴォイスという名前の通り、いろいろな人の声が集まる場所にしたいので、いろんなことを提案したり、レコメンドしたり、試したりする記事の執筆者として、さまざまな方にキュレーターとして参加していただいています。11月上旬のスタート時は取り扱う商品の7割がレディースファッションなので女性が多く、モデルの佐田真由美さん、竹下玲奈さん、神山まりあさん、スタイリストの大草直子さん、白幡啓さん、安西こずえさん。それから、ファッションジャーナリストのシトウレイさん。男性ではスタイリストの望月唯さんに参画していただいています。
赤司 皆さん、どんなことをなさるのでしょう?
片山 佐田さんは意外にもこれまでゴルフをやったことがないからゴルフを始めたいとおっしゃっていて。ちょうどジュンさんがゴルフブランド(ジュン アンド ロペ)を展開しているので、まずはお店でウェアを揃えるところから始めて、ゆくゆくはコースに出ることになると思います。シトウさんはパリに撮影に行くとき、ホテルできちんと眠るために西川のマットレスを購入して、どれだけ疲れが取れるかを記事にしたいそうです。アスリートのごとくクルクル巻いたマットレスをカートに乗せて、成田を発つところから自撮りして。
赤司 結構想像していたものと違いますね。
片山 皆さんやりたいことが溢れ出て、手が込んでいるんです(笑)。大草さんは、日本独自の暦に合わせた新しいライフスタイルを提案するエッセイを連載にしたいと言っていただいています。今後は赤司さんにもキュレーターとしてご参加いただけるということで楽しみにしています。
赤司 そこで私は何をしようかなと考えているところです。片山さんからどんな方がどういうことをされるのかというお話を今うかがって、たぶん私は全然違う役割なんだなぁと。なんとなく自分に求められているのは、数字のとれる企画なんだろうと。今思い付いたアイデアとしては、若いクリエーターと対談しつつ、スタイル ヴォイスだけで買えるリミテッドアイテムを作っていく企画とか。
片山 面白いですね!
赤司 というのも、最近ものすごくミクロなところから出てくるアーティストがSNSを使ってどんどん外に向けて発信し、モノが売れていく現状を目のあたりにしている訳です。そういう若手をうまくフィーチャーしながら、スタイル ヴォイスさんで商品開発をしていけたら面白いし、彼らとしてもボンジュール・レコードさんと何かやりたい、アダム エ ロペさんとこんなことできたら面白いということがあるはず。自分がそのハブになれたらという気がしています。
片山 それはぜひお願いしたいところです。
赤司 それから、自分が面白いと思うものを、外に発信して広げていくアウトプットになりたいのです。というのも、恥ずかしながら(ジュンが運営するセレクトショップの)アダム エ ロペが、白金という土地で30年もやっていたことを知らなかったんです。しかも、取り扱っているブランドもとってもセンスがいい。oasisのTシャツを作っていることにも驚いたんです。あのバンドのライセンスを取るのが、ものすごく大変なことを知っているので。こんな面白いことやっているのに、世界線が違うだけで知らない人がたくさんいるのだったら、そこをきちんとつないでいきたくて。
片山 刺激的だし、今感が出ますね。スタイル ヴォイス ドットコムでは、ファッションだけでなく、アート、映画、文学といったカルチャー系の情報もどんどん入れていきたいと思っているんです。現在進行形のカルチャーがコンテンツの中にちゃんと含まれていることで、新しい感じがユーザーに伝わると思うし、今の気分ってそういうものでしか出てこない気がするからです。なので、赤司さんに参加していただけてものすごくありがたいですし、仕事とか企画もどんどんご紹介していきたいんです。個人的にはアートに興味があるので、来年9月に京都で大回顧展が開催されるアンディ・ウォーホルの「ダブル・モナリザ」と「最後の晩餐」のBE@RBRICKを注文しました。
赤司 ありがとうございます。うちもウォーホルのアイテムに関しては2003年から継続して作っています。
片山 赤司さんに担当していただくメンズファッション、ライフスタイル、カルチャーを扱うコンテンツに関しては『装苑』、『カーサ ブルータス』のような独自のテイストがきちんと入っている感じにしていきたいですし、スタイル ヴォイス ドットコム全体としても、ここでしか体験できない楽しさや気づきがあるサイトにしたいと思っています。
赤司 どこでも買えるものだったらみんなAmazonで買っちゃいますよね。そこと勝負しても意味がない。スタイル ヴォイスには片山さんの哲学があるところが、私が一番興味を持ったきっかけですから。
片山 目指すところは固まっているんですけど、それを実現するのが本当に大変で。ただ、皆さん期待してくださっているので、立ち上げの時点からものすごい数の商品が集まっているんです。
赤司 何点ぐらい集まりました?
片山 ジュンさん、マッシュさん、デイトナさんの3社のECで取り扱っているものは、ほぼすべて入るので2~3万点くらい。その中にはスタイル ヴォイスでしか手に入らないものも結構あるので、それを伝えていきたいと思うと記事コンテンツ量も増えてくるし、情報もたくさん集まってきているので、それをどういう風に見せていくかというところで、いきなりジャンボ機を操縦しているような感じですね。
赤司 最初はセスナみたいな小型機かと思っていたら(笑)。
片山 もうコントロールが大変!(笑) ただ、事業規模が大きいからこそできることもありますし、次回ぜひ参加したいと手を上げてくださったブランドさんもたくさんいらっしゃるので、扱い点数もさらに増えていくでしょう。
赤司 これは世界的な風潮なのかと思うのですが、最近は成長するモノにしかみんな興味を持たない気がしているんです。人に対しても、モノに対しても。なのでスタイル ヴォイスは成長するコンテンツとして日々進化していってくれたらすごく楽しいだろうなと思います。
片山 期待に添えるよう頑張りますので。今日はこんな素敵な機会をいただけてありがとうございました。
赤司 こちらこそ! 情報感度の高いOPENERS読者なら、きっとスタイル ヴォイス ドットコムの動きに注目しているはずです。私も11月上旬のサイトオープン、そして来春のメンズファッションの本格展開を楽しみにしています。
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