サウンドファン、難聴者を救う日本の技術「ミライスピーカー」が拓く未来|Sound Fun
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2015年1月29日

サウンドファン、難聴者を救う日本の技術「ミライスピーカー」が拓く未来|Sound Fun

Sound Fun|サウンドファン

代表・佐藤和則氏にインタビュー

難聴者を救う日本の技術「ミライスピーカー」が拓く未来(1)

聴覚障がい者が健常者とおなじように、音を聴くことができる。日本のベンチャー企業「Sound Fun(サウンドファン)」が、それを実現する「ミライスピーカー」を開発した。今回、代表を務める佐藤和則氏にインタビューする機会を得た。

Photographs by TAKADA MidzuhoInterview & Text by IWANAGA Morito(OPENERS)

東京・浅草橋の秘密基地から世界へ

「サウンドファン」は、2013年に設立した音響機器のベンチャー企業。取材時の従業員はわずか2名。オフィスは、浅草橋の古いビルの一室でまるで秘密基地のような空間。いまここから、あらたな日本の技術が世界へ発信されようとしている。それは、「ミライスピーカー」というプロダクト。難聴者が健常者と同様のボリュームで音声を聴きとれる、革新的な音響機器である。サウンドファンの代表・佐藤和則氏に話を聞いた。

 

―――オフィスをこの場所にした理由は?

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ただただ、賃料が安いからです(笑)。秋葉原にも近いですしね。それでも、駅から近いので、お客様は足を運んでくれます。

―――サウンドファンの業務の内容は?

ひとつは、「コンフォートオーディオ」というコンセプトに基づいた、コンシューマー向け音響機器のネットでの販売です。

もうひとつが、この「ミライスピーカー」ですね。これを量産して、多くの難聴の人を救おうと。このふたつのビジネスです。

―――起業のきっかけは?

2013年に、秋葉原のビジネススクールが主宰する合宿に参加しました。そこで知り合った方に、こんな技術があるんだけど、という話を聞き、これはおもしろいと思い、その年の10月に会社を作りました。「ミライスピーカー」のプロトタイプができたのが、その1カ月後くらいですね。

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まず試しに、私の父に聴かせてみたんです。老人性難聴の中度だったのですが、補聴器なしでもちゃんと聴こえる、と言うんです。けれど、まだ製品に自信がなかったので、データ集めを重ねました。そうすると、事故や病気で後天的に難聴になった方でも、しっかりと聴こえるということがわかりました。

決定的だったのが、ある音楽関係者の意見です。彼は15年ほど前に、右耳の鼓膜を損傷してしまい、高音以外は、ほとんど聴こえない状態になってしまったのです。

通常のスピーカーから出る音は2割ほどしか聴こえないのに、ミライスピーカーの音は5割聴こえると言うんです。通常のスピーカーから聞こえる音は割れた状態で聴こえるのにたいし、ミライスピーカーから聞こえる音は、通常どおりに聴こえたそうです。それで、まちがいないなと確信を得ました。

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代表・佐藤和則氏にインタビュー

難聴者を救う日本の技術「ミライスピーカー」が拓く未来(2)

 

ミライスピーカーの仕組み

―――どのような原理なのでしょうか?

「疎密波」という縦波の音波で空気を揺らす通常のスピーカーとは異なる、「せん断波」という横波を利用しています。

これは、蓄音器の原理と同様です。蓄音器は、SPレコードに針を乗せ、その上にサウンドボックスが重しの役割とともについていて、その後ろにはパイプがつながり、最後にはラッパになって、そこから音が出ます。電気を使っていませんよね? つまり、アナログに回帰しているのです。

―――蓄音器では、難聴の方は通常通り聴こえるものなのですか?

私もそこが気になり、大学のリハビリテーション学部で教授をされている方に話を聞きにいきました。その方は蓄音器のコレクターで、いろいろな種類のものを所持しているのですが、それをリハビリに使っており、難聴の方でも音を聴き取ることができるそうです。

その話を聞いて、老人ホームでモニターに協力いただき、データを増やしていきました。その結果、ほぼ100パーセントの方から、聴こえるという意見をいただきました。

―――もう実用化されているのですか?

これからですね。特許も昨年の3月28日に申請して、先日、正式に受領しました。次は国際特許(PCT)も出願して、意匠出願もこれからです。

音響スピーカーとしては、まだ改良点があるので、まずは声のコミュニケーションに特化したボイススピーカーにしようと考えています。たとえば、駅のホームのアナウンスや横断歩道。人が集まるようなところには応用が可能です。ご老人がいる家庭内などでは、テレビの音量が大きくなりがちですが、ミライスピーカーがあれば、ボリュームを健常者と同等の適切な音量にできます。それから病院や介護施設、公共施設、防災無線にも使用できるはずです。

―――アナウンス系のものは、ミライスピーカーに統一するべきかもしれませんね。

それも考えられると思います。製品の特徴として、音が減衰しにくい点が挙げられます。通常の疎密波という振動を利用したスピーカーですと、距離の二乗や三乗に比例して放物線状に減衰していきます。

ミライスピーカーは、距離に比例して落ち、減衰が直線状なので、遠くまで届くのです。

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―――消費者向けの商品として市場に出るのはいつごろになりそうですか?

基本的にはB to Bから入ります。B to Cに行くには、それなりの質感とデザイン、そして値段もある程度こなれたものにしなければなりません。それに、もし売り切ってしまうと、この技術がリバースエンジニアリングされてしまい、私たちの意図するところとはちがう方向にいく可能性もあります。その問題をクリアすることを前提とすると、B to Cが実現するのは来年ごろですね。もしくは、B to B to Cのレンタルの仕組みで、個人に届けることは近いうちに実現するかもしれません。あとは、直接この事務所に来ていただき、受注してもらうことは可能です。

―――そういった問い合わせは、もうきているのですか?

はい。しかし、現時点ではひとりひとりから注文をいただき製作することになるので、リーズナブルに提供できる状態ではないんです。ただ、目的商品なので、べつに私たちはスピーカーを販売しているわけではなく、音を提供しているわけです。“聴こえる”ということの対価として、見合うものであるとはおもいます。

―――健常者へのメリットはありますか?

たとえばテレビのスピーカーですね。いまの液晶テレビは、画面が大きく筐体は薄くなっているぶん、スピーカーが犠牲になっていますよね。真横や真下に向いたスピーカーが付いていますが、音質が良いとは言えません。とくに立体的な音像を再生することは、難しいでしょう。

このミライスピーカーを繋いで聞くと、音が分離して聴こえます。スポーツの実況でも、人間の声が前に出てくるのです。つまり、音声メディアでのコミュニケーションへとつながるんですね。それは、健常者でも如実に感じられます。

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代表・佐藤和則氏にインタビュー

難聴者を救う日本の技術「ミライスピーカー」が拓く未来(3)

 

コモディティではない、オンリーワンを

―――もうひとつのビジネス、「コンフォートオーディオ」をスタートしたきっかけは?

私たちには、音で世界の人を幸せにするというモットーがあります。そのひとつとして、音楽をもっと身近に感じてもらい、生活を豊かなものにしたい、というのが出発点です。

―――もともと佐藤さんも、音楽をされていたのですか?

4歳のころからピアノに触れ、ドラムスを高校一年のころにはじめました。大学時代は5年間ライブハウスで仕事をしていましたね。就職してコンピュータ業界の会社に入ったら、しばらくは音楽なしの生活だったのですが、この10年でバンドに復帰しました。

―――サウンドファンの事業も、音楽が好きだから、というのが第一にあるのでしょうか?

そうですね。趣味の延長というわけではないですが、人間の情感や感性、そういうところに主眼をおいてやっていきたいですね。「オージオロジー(聴覚学)」は、日本は医学的にも遅れていて、耳鼻咽喉科なども世界的に見ると先進的とは言えません。私は医者でも研究者でもないですが、こういうツールで、もう少し勉強していきたいです。

―――こちらのコンフォートオーディオは、ネットで販売されているんですよね。

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はい。「POCO 3(ポコ 3)」という商品が主体なのですが、1、2と展開しており、好評をいただいております。今後は真空管アンプの販売も視野に入れており、トランジスタとのハイブリッドで、ハイレゾ音源に対応したものにしようと考えています。

ちなみに商品名は「Portable Component」の略です。

私は前職を辞めるときに、コモディティは一切やらないと誓ったんです。どこもおなじものを売ることになるので、値段や企業のブランド力で競争しなければいけないじゃないですか。

サウンドファンは、発想です。このような商品で、Bluetoothに対応しているものは、日本ではまだないんですよ。同様の商品の価格帯をまともに考慮して販売するなら、6万円ほどになるのですが、それを3万円代で売ったら、コストパフォーマンスも優れたものになりますよね。価格決定権も、こちらにあるのでそれが可能なのです。そのように、日本にないニッチな分野の商品をタイムリーに投入していこうと考えています。

―――リーズナブルというところもポイントなんですね。

はい。開発中のモデルは、ヘッドフォンアンプにもなりますし、USB-DACもハイレゾ音源対応にしていて、それぞれの要素だけで本来ならけっこうな値段のするものを組み合わせていますが、手に取りやすい価格で提供します。価格弾力性や、スイートスポットのようなものは理解しているつもりなので、魅力的な商品だと思いますよ。

―――たしかに、コンポーネントには、生粋のオーディオ好きではないと手をつけにくいかもしれません。

大手メーカーだとユーザーが求める要素以外のものが付属していて、値段が膨らんでしまうケースがあります。私たちのコンフォートオーディオはハイエンドとは言えませんが、オーディオ好きの人たちが満足できるクオリティです。入力はAUXのライン系統、あとはBluetoothです。出力は25ワットほど。3極管の真空管なので、1本で左右のチャンネルに対応します。

現代のオーディオの起点は、スマートフォンやタブレットになってきました。たとえば、携帯端末をこのアンプに通して、世界の音楽をインターネットラジオから流す。仕事場や家庭、ちょっとしたパーティなど、身近な環境で高音質を堪能できます。サイズもコンパクトなのでフィットしますよね。届いて1週間もすれば、ふだんの生活が音楽に囲まれた豊かなものに変化するのがわかるはずです。このあたらしい価値観を、“コンフォートオーディオ”と呼んで、私たちは販売しています。

デジタルというものがかなり普及している状況ですが、そのなかに、ものづくりの本質を込めたいです。私はラジオ少年ではなかったので、基盤をいじったりというのは得意ではありませんが、いっしょにやっている宮原さんは音響メーカーで商品企画をしていましたので、“昔ながらの技術者”ですね。サウンドファンでは、宮原さんは音響と通信関係を担当します。ちなみに世界で最初にFMトランスミッターを開発した、敏腕の技術者です。

アイデアを商品にしていきたいですね。コモディティではない、オンリーワンのものを。「ミライスピーカー」も「コンフォートオーディオ」も、純粋な“メイドインジャパン”で、世界にアピールしていきたいです。

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サウンドファン
Tel. 03-5825-4749
受付時間|9:30~18:00(土日祝日除く)
http://soundfun.jp/

           
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