Vol.03 「New Yorker」って？

「I am not an American, I am a New Yorker」とよく言う。僕はニューヨーク市で生まれ育った。自慢で言っているわけじゃなくて、ただ、僕のアイデンティティとなる土地だから。NYC（ニューヨークシティ）という場所は、アメリカにあるという事実から逃れられないことはもちろん分かっているけれど、この状況に僕は板挟みになってしまう。

僕はアメリカという自分の国を尊敬していないわけではないけれど、尊敬できないことがちょっと多過ぎるので、NYCでなかったら、僕はきっとアメリカに住んでいられない。だからNYCはアメリカではないという気持ちを昔から抱いていた。これは極端かもしれないけれど、ちゃんと説明しようとすると、ベトナム戦争から現在のイラク侵略までの経緯や、僕の両親、そしてNYCの公共教育の反戦スタンスまで書かなければならず、とても長くなるので省略する。

アメリカは広い。僕が住んだことがあるのはNYCと東京だけなので、アメリカの専門家ではない。NYCみたいな街はアメリカにしか存在し得ないってことは理解してるのだけれど...…。僕はやっぱり板挟みになってるかな？ オバマが大統領になってはじめてアメリカ人になってもいいかなって気はしたけれど...…。

アイデンティティってとても複雑...…。とくにアメリカみたいな国では。人種、民族、宗教、階級、教育という区別だけではなく、それらのなかに、さらに階層や偏見がある。たとえばアフリカ系の人々のなかでは「shadism」という偏見がある。肌の色は濃くなるほど良くないとされている。アジア系の人々のなかでは、～世のことを「F.O.B.」という言葉で強調している。「F.O.B.＝"Fresh Off Boat" ＝移民したばっかり」。NYCのような強いアイデンティティこそが、こんな複雑な馬鹿らしい偏見を乗り超える力を持っているのだ！

アメリカ国籍と違ってNYCには、NYCで生まれてないニューヨーカーもたくさんいる。はっきり言って、僕みたいな人間はかえって少ない移民の街。NYCに来たことのないニューヨーカーもいる。もちろんNYCに来るまではそれを自覚していないけれど。

たとえば、1998年にドイツのデザイン大学を卒業したばかりのティナ・ロスは、ある日、僕のスタジオにインターンシップを頼みに現れた。彼女の作品の良し悪しはともかく、作品自体はとてもポジティブなエネルギーを放っていた。「君の将来のプランは？」と聞いたら、「自分の経験のためにNYCで6ヵ月間だけインターンをして、スイスに帰るつもり」と彼女が答えたので、僕はさらにこう答えた。「いや、君はまだ自分で気づかないだけでニューヨーカーだよ。君はここに住んで素敵なユダヤ人の旦那さんと結婚すると思うな」。彼女はちょっとビックリしてたけど、結局そのことに関してなにも答えなかった。けれど数年後、僕が言ったとおりに、彼女は素敵な旦那さんと子どもと一緒にブルックリンに住んでいる。何年間NYCにいるかどうかはポイントじゃない。ニューヨーカーって複雑だ。

Photo by ThilaHoffmann

じゃあ、ニューヨーカーって？

1　国際的とよく混同するけど、どちらかというと無国籍である感覚が基本。国ではなく、惑星に住んでいることを理解し、今この惑星でもっとも国際的で無国籍な都会はNYCしかない、と思う人（もちろんいいか悪いかは別として）。

2　刺激に対して中毒性がある人。

3　完璧主義者の傾向がある人。努力と情熱の違い、そしてその組み合わせ方を理解してる人。

4　そしてもっとも大事なこととして、 オープンマインドな人。英語を喋れなくてもニューヨーカーは聞いてくれるし、分からなくても何かコミュニケーションをする人。

NYCが最高！って言いたいわけではない。NYCって話にならないことが多すぎるから。物価は高すぎるし、税金も高すぎる。税金が高い割にはサービスは低い。道路の維持なんて発展途上国よりひどい。空港のアクセスは香港やパリと比べたら残酷だ。東京よりいいかもしれないけど…...。この10年でだいぶ良くなったけれどまだ街は汚い。地下鉄の計画不足、等々。もっと書こうとするとまた別なトピックになりそうだ…...。

やっぱり僕の文章は散文的過ぎるから、今度は対談にしてみよう。

対談相手は──
フランク・ナン。台湾生まれの建築家。
ハットリ ミホ。東京生まれのミュージシャン。
ティナ・ロス。スイス生まれのデザイナー。

質問は──
A　いつNYCを故郷と思った？
B　いつ自分をニューヨーカーだと気づいた？ また何かそのきっかけとなった出来事は？
C　あなた自信の言葉で、「ニューヨーカー」とは？

これは次回に。