試乗、コンチネンタル GT スピード|Bentley
Bentley Continental GT Speed|ベントレー コンチネンタル GT スピード
試乗、コンチネンタル GT スピード
ライバルとはことなるパフォーマンスとライバルを圧するラグジュアリー性を兼ね備え、孤高のブランドとして存在しつづけるベントレー。「コンチネンタル GT スピード」は、現代において、そのキャラクターを明確に表現した特別な一台だ。インプレッションとともに、渡辺敏史氏がベントレーの真価に迫る。
Text by WATANABE ToshifumiPhotographs by HANAMURA Hidenori
スポーツなのか、ラグジュアリーなのか
そのドライバビリティとデュラビリティ、そしてパワーは、ル・マンにおける5回の優勝で実証されている。ベントレーの出自がアルティメイト ピュアスポーツにあったことは好事家ならば誰もが認めるところだろう。
いっぽう、第二次戦後のベントレーはロールスロイスとの合併、そしてアーキテクチャーの共有により、ラグジュアリースポーツとしてのキャラクターが徐々に定着していく。そして現在の大半のカスタマーにとってベントレーのカテゴライズは、むしろラグジュアリーの側に強く傾いているのかもしれない。
果たしてベントレーの分類はスポーツなのか、ラグジュアリーなのか。そんな議論自体が不毛なほど、現在の自動車はかつて相反していたこの両方を高度に満たしてくれる。フェラーリであれランボルギーニであれ、乗り心地は普段使いに適応するレベルにあるし、内装を豪華に彩ることも可能だ。あるいはAMGやM、RSシリーズなどは、サルーンの体であっても下手なスポーツカーを蹴散らすほどのパフォーマンスをみせてくれる。
そうあっても、ベントレーのやり方は昔から変わらない。基準車において備えるべきは、ライバルとはことなるパフォーマンスとライバルを圧するラグジュアリー性であり、それをベースとしてよりスポーツ性の高いモデルをバリエーションとして揃えていく。もしくは、究極の贅沢を求める向きにはビスポークで応えると。そうやって、今日のユーザーに望まれるものとブランドとして通すべき筋を両立しつづけてきた。
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試乗、コンチネンタル GT スピード (2)
派手さのさじ加減
個人的には「スピード」というグレードは、その究極的な接点だと思っている。これを上回るパフォーマンスモデルとして先代には「スーパースポーツ」があり、FIA-GT3カテゴリーに参入する現行型には、そのレーシングモデルのストリート版ともいえる「GT3-R」があるのは承知の上だ。
が、それらは空力部品が付加されリアシートが外されるなど、スポーツ側の能力を際立てる設えがほどこされている。もちろん派手さは抑えて品位を崩さないように留意されているものの、軽量化の意も含めてラグジュアリー性が削がれているのも確かだ。
スピードの佇まいや成り立ちはあくまで標準グレードのそれに倣っている。そのパフォーマンスやプライスの差異を考えれば、あえてそうしているとしか思えない。数少ない識別点といえば息を呑むほど精緻に象られた21インチの鍛造ホイール、サスペンションのチューニングをたがえて10mm低められた車高、そしてインナーがブラックアウトされた灯火類にフェンダー部の控えめなエンブレム――といったところだ。
不特定多数に対する示威ではなく、このクルマのことをよほど気に留めている人々にのみ、それがスピードであるとわかればいい。それこそ、イギリス人が大好きなアンダーステートメント性をスピードは体現している。さらに念を入れんがために、ちがう意匠のホイールを履かせることもできれば、エンブレムをレスにするオプションも用意されているのだから、もう呆れるしかない。
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試乗、コンチネンタル GT スピード (3)
緑系だけでも11色
こうまでして外側では秘に徹するいっぽうで、内側での我の表現には際限がないほどに拘ることができる。興味のある方は一度、ベントレーのホームページとリンクする本国のコンフィギュレーターにアクセスしてみるといいだろう。
そこでは十八番の緑系だけでも11色が用意されるエクステリアのカラーパレットや、レザーやパイピング、ステッチとそのすべてが指定できるインテリアカラー、膨大なベニアトリムの数々などを選択し、自らの希望に沿った内外装の仕様をシミュレートすることができる。
が、正直な話、そこまでの選択肢を用意されると、よほどのセンスの持ち主でなければ目を見張るような設えに至ることもできないだろう。少なくとも、僕のように凡庸な審美眼ではどうにもとっ散らかって目を覆うような仕上がりにしかならない。それほどコーディネートが無限に広がっているということだ。
とはいえベントレーの本領は、このコンフィギュレーターのさらに向う側にある。ベニアトリムの象嵌加工だろうがシートに家紋の刺繍だろうが、あるいは若かりし頃に乗っていた想い出のクルマと限りなくおなじ色のクルマに乗りたいという希望だろうが、著しくベントレーのブランドイメージにそぐわないオーダーでない限り、彼らは極力それを叶えてくれる体制を整えている。
それを英国流に表せばビスポークということになるが、クルマの場合、要する知見や手数はその一言で片付けるにはあまりに大掛かりだ。クルマ趣味における究極を供しつづけるためのそういう背景を知るにつけ、ベントレーに乗るための対価は決して法外ではないと、まるで縁遠いところにいる僕にも思わせる。これがブランド力であり、英国力なのだろう。
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試乗、コンチネンタル GT スピード (4)
金持ち喧嘩せず
スピードが搭載するエンジンは狭角のV6ユニットを2つ繋げたカタチから、W型と呼ばれる12気筒だ。それを2基のターボで過給し、標準モデルよりも40ps高い635psを発揮する。しかし僕が思うに、このピークパワーはスピードの価値を決めるものではない。見るべきはむしろそこにいくまでの過渡にある。
微塵の振動も感じさせず粛々と回るエンジンの爆発感は顆粒のように滑らかで、スキッと濁りのないサウンドと共に四輪が伝えるそのトラクションは湧水のように清らかだ。そこからアクセルを踏み込んだぶんだけ、溢れ出んばかりの力は、あくまで優しく放たれる。一切の雑味を感じさせないこのフィーリングばかりは、12のピストンを持つクルマの特権だ。
ちなみにベントレーはコンチネンタルシリーズに8気筒も搭載しているが、その性格は面白いほどはっきりと分かれている。エンジンの軽さを利して活発に鼻向きを変えるに適するのはむしろそちらの側。12気筒の側は、然るべき場面で他に類のない荘厳な加速を愉しむという乗り方が最適といえるだろう。必死でコーナーを攻めずとも、立ち上がりで圧倒的火力にものを言わせれば、あっさり周囲を後方に追いやることができる。言葉は悪いが「金持ち喧嘩せず」というやつだ。
が、スピードはそれだけのクルマではない。足回りの巧みなチューニングで、コーナーを攻める気にさせる軽快感と、アンダーステアを感じさせない限界の深さはしっかり備えている。ブレーキのタッチもスポーティに躾けられているが、それは革靴での操作がシビアになるほどピーキーなものではない。
乗り心地にしても、ごく低速域でタイヤ由来の硬質な突き上げが微かに感じられる程度で、速度が乗ってしまえば標準モデルに対して全く遜色ない快適性を保っている。
一事が万事、スピードという名のもとに、あらゆる部位に紳士的なスポーティネスを適切に織り込んである。そのさじ加減こそが、長年究極のカスタマーに仕えてきたことで磨かれたセンスということになるのだろう。
Bentley Continental GT Speed|ベントレー コンチネンタル GT スピード
ボディサイズ|全長 4,820 × 全幅 1,945 × 全高 1,400 mm
ホイールベース|2,745 mm
重量|2,320 kg
エンジン|5,998cc W12気筒ツインターボ
最高出力| 467 kW(635 ps)/ 6,000 rpm
最大トルク|820 Nm(83.1 kgm) / 2,000 - 4,500 rpm
トランスミッション|8段オートマチック
駆動方式|4WD
サスペンション 前|4リンク
サスペンション 後|マルチリンク
タイヤ|275/35ZR21
ブレーキ 前後|ベンチレーテッドディスク
最高速度|331 km/h
0-100km/h加速|4.2 秒
最小回転直径|5.65 m
燃料タンク容量|90 ℓ
燃費(EUサイクル 混合)|14.5 ℓ/100km
CO2排出量|338 g/km
トランク容量(VDA値)|358 リットル
価格|2,700 万円
Bentley Call
0120-97-7797