東京モーターショー2011に未来はあったか? (前篇)
CAR / FEATURES
2015年4月28日

東京モーターショー2011に未来はあったか? (前篇)

第42回東京モーターショー2011|The 42nd TOKYO MOTOR SHOW
島下泰久、渡辺敏史、清水草一が斬る

東京モーターショー2011に未来はあったか? (前篇)(1)

24年ぶりに幕張から東京へもどってきた東京モーターショー。イタリア、アメリカ勢こそ出展がなかったものの、前回2社にとどまった海外メーカーも数多く復帰した。来場者数も一般公開初日となった12月3日から3日間で30万人をこえるなど、幕張最後となった前回の61万4400人を大幅に上まわることは確実だ。ワールドプレミアとなった車種は少なかったが、次世代車が勢揃いするなど、日本のモータリゼーションのこれからの道筋は表現されていた。そんな東京モーターショーを気鋭の自動車ジャーナリストたちはどう見たのか? 島下泰久氏、渡辺敏史氏のおなじみのふたりにくわえ、こんかいは「大乗フェラーリ教」教祖、清水草一氏が初参戦。自動車界の今とこれからを斬る。

文=松尾大写真=荒川正幸

ガラパゴスショー化を進めてほしい

──今回のモーターショーの印象をお聞かせください。

渡辺 前回に比べると雲泥の差と言っていいくらいマシになったんじゃないですか? 集客はどうなるかわからないけど、出展車両も増えたし、外国のメーカーがもどってきたし。前回があまりにもどん底状態だったんで、それにくらべればモーターショーとしての体をなしていますね。

──インポーターのある方が、本国のVIPが来日するので、ショー全体が元気じゃないように見えなければいいと危惧されていました。

渡辺敏史氏

渡辺 でも東京はすでに世界的にみてローカルショーという立ち位置ですし、基本的にはローカル色全開でいいんじゃないかと思います。欧米人にとっては、謎めいてるとか理解できないくらいの演出でも全然OKと。

清水草一氏

清水 それは同感ですね。ガラパゴスショー化を進めてほしいな。日本のエコカーはガラパゴスなので、国際基準に合わせる必要はないです。「低速道路環境」は日本、とくに東京だけのもので、欧米とは全然ちがいますから。ただ、これから発展していく国々は、比較的日本に近いという印象はあります。だから、いずれこのガラパゴスショーが世界の自動車産業の成長エンジンになるかもしれないと思います。だから、このスタンスのままで突き進んでほしい。輸入車で、フェラーリやランボルギーニがないから華はないと思います。

渡辺 フェラーリやランボがいないってえのは、ハリウッドスターの来ない映画祭みたいなものですがね。

清水 今回のショーは、日本のエコカーをじっくり眺めるというのがいいのではないかと思います。エコカー評論家としては、いま考えられるパワートレインをもつエコカーがすべて出ているというのはいいと思います。やっとディーゼルも出るし。地味に見えるけど、ある意味百花繚乱。

島下 私も、インターナショナルなショーなのか、ガラパゴスショーなのかどっちかにしたほうがいいと思う。おそらく、まだインターナショナルなショーにしていたいんだと思いますが、それにしては、プレゼンが相変わらず日本語表示しかないブースがあるなど、中途半端に感じられます。トヨタブースのドラえもんも、そうですよね。もちろん、このショーのためだけに使うキャラクターじゃないのはわかっていますが、これでは世界には伝わらない。

日本のお客さんのためだけならいいでしょうね。さきほど、清水さんが仰っていたことにつながるんですが、日本=ガラパゴスと思ってたけど、じつはドイツ車こそガラパゴスなのではと思っている部分もあります。アジア新興国たいして、日本の技術はドンドン売っていける眩しいものだと思うんです。だからこそ、彼らにたいしてもう少しやさしいものであってもいいのではないかと。中国語じゃなくてもいいけれど、少なくとも世界に通じる言語で説明がもっとあってもいい。

清水 ある外国人ジャーナリストがドラえもんのことを何あれ? と言っていましたが、僕はムキになって言い返しました。

島下 私は86(ハチロク)にも思ったんです。中国の人は「頭文字D」のことは知っているかもしれないけど、86という名前はそれだけではないですよね。昔の86のあったイメージとか説明がいらないのかな?と。欧州でも「GT-86」という名前になりそうですし。アメリカではサイオンからFR-Sとして出ますね。中国人にはわかっても、白人にはわからない。コンセプトの段階からなんの説明もない。だから、86という言葉のルーツもなにもわからない。

第42回東京モーターショー2011|The 42nd TOKYO MOTOR SHOW
島下泰久、渡辺敏史、清水草一が斬る

東京モーターショー2011に未来はあったか? (前篇)(2)

マツダは希望の星

──輸入車で印象に残ったクルマはありましたか?

渡辺 正直言うと、特に印象に残ったものはなかったです。基本的にすでに発売されているものがほとんどだったので。真の初出というニュース性ではVWからクロスクーペなどが少し出た程度ですね。

島下 BMWアクティブハイブリッド5にしても、AUDI A1スポーツバックにしても、ワールドプレミアですが派生車種です。

渡辺 総論にもどりますけど、今や東京モーターショーは商品を売る場所ではないと思います。文化性、情報発信性を、主にアジアに向けて出していかなければならないと思うんです。いかに、東京を見たくなるか、東京に来たくなるか。「東京で注目されるとアジア市場で注目される」というふうにもっていかないといけない。そういう意味では、重要なのは直接的な商品のワールドプレミアではなくビジョンです。メルセデスF125!などは、フランクフルトショーにも出ていましたが、ああいった、5年先、10年先といった近い将来のプレゼンテーションが多くあったほうが東京モーターショーにはいいと思います。

日本のメーカーはそういう展示が比較的多かったですよね。smartっぽい2人乗りのコミューターやEV、FCVもあった。輸入車メーカーにとって東京モーターショーが出品するだけの価値があるショーになるための理由としては、環境技術、先進交通技術のいいショーケースになることです。あそこに出せば最新の技術にたいする注目度が高いし、それを発信できるし、収集もできるというものにすればいい。今回はそれが少しですが、できていたと思いますね。

清水 以前の東京モーターショーの輸入車ブースには日本で買える輸入車が全部並んでいて、おなじ土俵でそれぞれのオーラがくらべられた。フェラーリは柵で囲ってあったりして、触れないという空気感がわかった。それが、2年前からなくなり、今年も半分程度がもどっただけ。そうすると、欲望刺激装置としてのショーが成立しないんです。そうなると輸入車を見に行こう、というものではなくなる。DS5や新型911の実車をピンポイントで見に来るしかないということになる。だから、輸入車の存在がにぎやかし程度に感じます。

島下 輸入車は厳しかったですね。ただ、メルセデスのブースがスマートフォンを持っていくと、場内の音楽にコードが埋め込まれていてクルマの情報が出るという企画をしていました。それぞれのクルマに近づくと情報が届くんです。そういう試みがあったのはいいかなと思います。ショーの楽しみ方という面であたらしいものを見せてくれた。かならずしも、あたらしいクルマがなくてもそういった実験の場になればいいと思います。ドイツのメーカーも、先進国の都市部でクルマ離れが起こっていることはわかっていて、日本をそのモデルケースと捉えています。そこでのモーターショーをどうするということになったときのひとつの実験かもしれません。ワールドプレミアはとくに見るものはなかったです。BMW iはアジアで初公開ですが、それが中国での公開じゃなかったというのも、そういう日本の反応が見たかったのでは。ハイブリッドにしても、まずは日本のユーザーに認められないと、という認識は各社あるようですね。

清水 日本は超ハイブリッド先進国だけど、ヨーロッパではニーズがほぼゼロですから。

島下 ただ、これから欧州でもメガシティ化が進んでいく中で、大都市ではディーゼルではなくハイブリッドが有利だというのは明白ですから。モスクワなんて7、8車線あっても大渋滞。ロンドンもひどいですしね。都市が東京化していきます。

渡辺 東京はメガシティという概念のなかでも世界に類を見ないくらい巨大なメガシティですから、東京でメガシティ・ヴィークル・コンセプトとユーティリティが成立すればだいたいどこでもいけるだろうと言われています。

島下 だから、「日本ガラパゴス」でものづくりをしていても、清水さんが仰ってていたとおり、あとからついてくると思います。そのかわり、ちゃんと発信はしないといけないんだけれど、日本はそれが苦手なんですね。日本発信の良いコンテンツだと自信をもつべき。

渡辺 ただ怖いのは、欧州のメーカーはハイブリッド以外のすべての選択肢をもっているということです。日本では、来年やっとディーゼルが出たりするくらい。あと、ピュアなガソリンエンジンの効率をどう高めるかということは欧州では取り組まれているけど、日本ではマツダくらいですね。

島下 ディーゼルについては既存のユーロ5から6になったとき、パワーがガクッと落ちます。そこに投入されるマツダのスカイアクティブDは、商品力でリードできる可能性をもっています。

清水 希望の星ですね。

渡辺 ディーゼルにしては画期的なくらいエンジンのフィーリングがいい。回転もすっと上ります。

島下 南欧のひとが好きそう。アルファロメオのディーゼルのようにバンバン回る。

清水 アテンザにディーゼルが積まれたら、エコカー評論家として真剣に買おうと思っています。あと、雄(TAKERI)はいい。

渡辺 男心をくすぐるデザインです。

第42回東京モーターショー2011|The 42nd TOKYO MOTOR SHOW
島下泰久、渡辺敏史、清水草一が斬る

東京モーターショー2011に未来はあったか? (前篇)(3)

日本の状況は進みすぎている

島下 話は変わりますが、先のもの見せる場が東京モーターショーのあるべき姿だとすると、さきほど渡辺さんの話しておられた、2人乗りの小型EVをほぼすべてのメーカーが出してきたということ。これは、日本の切実な交通事情、社会環境を示していますね。メガシティもですが、過疎地の高齢者の日常の移動手段としては、軽自動車でも無用に大きいし、かといってシニアカーでは雨風もしのげないしヒトも荷物も乗らないし、そもそも安全性に不安がある。その中間を提案していました。先のモビリティを見せるという意味では日本のメーカーはやったなと思います。そこで海外メーカーも触発されてくれないかなと。

清水 惜しむらくは、あまりにも日本の状況が先に行き過ぎていること。世界でもっとも自動車熱が冷めていて、高齢化が進み、異常なエコカー志向で、ほかの国とは状況がかなり離れてしまっているということ。

島下 私たちですら二人乗り小型EVをみて、これに誰が乗るんだと思うけど、実は切実で、これが東京にあっても地方にあっても便利なんです。

渡辺 パッケージングと機能では理解できます。ただ、まったく魅力を感じない。けれど、私たちのようなジャーナリストとはちがうところに価値観を持つひとたちがいるということなんでしょうね。

島下 ファンシーグッズのような外観とか理解できませんね。

DAIHATSU|ダイハツ

ダイハツ ピコ

清水 私はこのなかで一番年長なのであと10年で60歳なんです。そのころになったら、あれにのるのかなと。ダイハツのドアがバーだけという小型EVで日帰り温泉に行くというような。エアコンもいらないし、安くシンプルにすると、ただの夢というものではないけど、あたまひとつ抜けていますね。

島下 見た目はともかく、どのメーカーも日本にはこれが必要と思っている。あとは、プレゼンする力ですね。

渡辺 smart for visionは、はるかに現実的ですね。ドイツ人はあそこまですっ飛べない。少なくとも車体に外からみえるように「車間注意」「時速何キロ」なんて表示は死んでもやらないですよ。ドイツのエンジニアは度肝抜かれているんじゃないですか。彼らにとって、日本の小さいクルマはアメージングでテリブルだと思います。そして、いつか自分たちもそれを受容しなければならない時代がくるという危機感をもっているんだと思います。かつて、カップホルダーや電動格納ドアミラーなんて馬鹿にしていたけど、いまでは当たり前になっているどころか、彼らのほうが凝った仕掛けを生み出している。日本のエンジニアは、お客さんに対しての真摯さではまちがいなく他をリードしています。まぁ半分嫌味も込めて。

清水 お客様の望むものなら、と。

渡辺 日本はとにかくマーケットイン。ドイツはプロダクトアウトですから。

清水 ただ、日本にとってはマーケットインだけど、海外にはプロダクトアウトになってしまっているんですけどね。

島下 911ですら、ドアミラーもそろそろたたむといいなあと気づきはじめて、あたらしいモデルから採用をはじめているんですからね。

渡辺 じゃあ、911にも「車間注意」と表示される時代が来るかな?

PORSCHE |ポルシェ

ポルシェ 911

<プロフィール>
清水草一|SHIMIZU Soichi
1962年東京都生まれ。慶應大法学部卒業後、集英社入社。『週刊プレイボーイ』編集部を経て独立し、フリーライターに。代表作『そのフェラーリください!!』をはじめとするお笑いフェラーリ文学、愛と幻想と市場経済を核とした自動車読み物のほか、『首都高はなぜ渋滞するのか!?』などの著作で交通ジャーナリストとして活動中。雑誌連載多数。日本文芸家協会会員。

島下泰久|SHIMASHITA Yasuhisa
1972年神奈川県生まれ。走行性能だけでなく先進環境・安全技術、ブランド論、運転などなどクルマを取り巻くあらゆる社会事象を守備範囲に、専門誌、男性誌、webなどで執筆をおこなう。2011-2012日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。近著に 『2012年度版 間違いだらけのクルマ選び』(徳大寺有恒氏との共著・草思社刊)がある。
ブログ『欲望という名のブログ』http://minkara.carview.co.jp/userid/362328/blog/13360020/

渡辺敏史|WATANABE Toshifumi
1967年福岡県生まれ。企画室ネコ(現在ネコ・パブリッシング)にて二輪・四輪誌編集部在籍ののちフリーに。『週刊文春』の連載企画「カーなべ」は自動車を切り口に世相や生活を鮮やかに斬る読み物として女性にも大人気。自動車専門誌のほか、『MEN’S EX』『UOMO』など多くの一般誌でも執筆し、人気を集めている。

           
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