第42回東京モーターショー2011|渡辺敏史と清水久美子がいく 部品ブースウォッチング
第42回東京モーターショー2011
渡辺敏史&清水久美子がいく 部品ブースウォッチング (1)
国内外のメーカーのワールドプレミア、ジャパンプレミアにわく「第42回東京モーターショー2011」。
明日のカー社会への期待がいやがおうにも高まるけれど、モーターショーをいろどる未来のテクノロジーも、エンジンや電装部品、タイヤなど、ひとつひとつの部品メーカーの「ものづくり」があってこそのものなのではないだろうか?
それを確かめるべく、自動車評論家 渡辺敏史と、OPENERS BLOGでも活躍中の実業家にして凄腕アマチュアレーサー 清水久美子の両名とともに、部品系ブースをまわっていろいろと教えてもらおう、というのがこの企画。
すでに東京モーターショーに行ったひとも、まだ行っていないひとも、東京モーターショーがもっとおもしろくなるにちがいない!
話す人= 渡辺敏史清水久美子写真=荒川正幸
GT-Rのホイールにうっとり──レイズホイール
渡辺、清水両名に、ちょっと深いクルマの話をしてもらおうとはじまった部品系ブースめぐり。タイヤやホイールのメーカーがブースを出している国際展示場は東展示棟中央付近からスタート。
二人は「RAYS WHEELS」のブース前。清水さんといえばその細身の体からは想像できないドライビングテクニックをもつアマチュアレーサー。GT-Rの2007年モデル(都内第1号車!)を乗り回し、クルマのチューニングにも造詣が深いのですが──
渡辺 清水さんの好きな「RAYS」が出てるよ!
清水 いやー、ちょっとここは! ここはヤバイですよ!
渡辺 いきましょう、いきましょう!
清水 一本だけすごい気になるホイールがある。
渡辺 あ。これ全部純正品?
清水 こちら!! 一番右の列の真ん中!
渡辺 やっぱりこれですよね! GT-Rのホイール。
清水 やっぱり2011年モデルから採用されているこのあたらしいホイール! GT-Rに装着するために生まれてきたこのホイール! これはワタシのGT-Rにもはかせたいです。
渡辺 純正品にオプションの塗装が入っているものなんでしょうね、これは。
清水 すごくすてき……ブロンズですかね。
渡辺 一緒に写真とってもらったら?
清水 本当はスペックVのホイールが一番軽くていいんですけれど、これもデザインがおとなっぽくてワタシは好き。
渡辺 GT-Rのホイールっていうのは、代々みんなユーザーが他の車種にも流用していたり。
清水 そうなんですよ! いろんなクルマで履けるような洗練されたデザインなんです!
──性能的には?
清水 軽量だと思いますし。
渡辺 それに自動車メーカーにOEM供給されるホイールは、すごい強度試験してるんです。だから、3センチくらいの角材を踏んづけても曲がらない強度を備えている。
清水 いやーかっこいいなぁ。
渡辺 タイヤはどのメーカーが好き?
清水 タイヤはやっぱり35GT-Rに純正供給しているダンロップかブリヂストン?
(現在の純正タイヤはダンロップのみです)
ところが歩き出してすぐ、新製品が出ていることを発見して「横浜ゴム」のブースに突入する二人!
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渡辺敏史&清水久美子がいく 部品ブースウォッチング (2)
美女とエコタイヤ──横浜ゴム
新製品が出ているらしいと知って「横浜ゴム」のブースに突入した二人。「環境+人、社会にやさしい」をテーマとする環境タイヤのコンセプト「BluEarth」シリーズがずらり展示されている一角で、さっそくメーカーの方と話しはじめた。
清水 どれが一番、“食う”タイヤなんですか!?
担当の方 食う?……ああっ、“グリップがいい”ということですか! それでしたら、これですね。より本物のレース仕様は別のシリーズがありますが、これは低燃費タイヤでは一番“食い”ますよ。
清水 あ、おもしろいですね、あのパターン! ええと……“指紋”っていうんですね!
担当 弊社はネイチャーデザインというデザインスタディーに取り組んでおりまして、あれは指紋をモチーフにしたタイヤなんです。
渡辺 機能的にも意味があるパターンなんですか?
担当 これがそのまま商品になるというわけではないです。ただ、自然界のデザインには何か意味があるはずだ、と。こちらはハニカム。蜂の巣ですね。川のせせらぎをモチーフにしたデザインもありますよ。
渡辺 そうだよね……スタッドレスタイヤのパターンなんてさ、あまりにも複雑ですごいことになってるよ。その型も全部人間が彫るんだよ。
清水 それってすごいことですよね。
渡辺 えらいこっちゃだよ。ところで、手彫職人の方って何人くらいいらっしゃるんでしょう?
担当 それだけというスタッフは最近は……ただもちろん、こういった難しいパターンをつくれるスタッフはかぎられていますよ。
渡辺 ところで、清水さんの好きなスポーツ用タイヤはココにはないの?
清水 こんかいの横浜ゴムさんのブースは、BluEarthをはじめ、エコが大きなテーマですからね。
担当 クルマお好きなんですね。
清水 ええ、ワタシはレースを少々。
担当 弊社にはアドバンというブランドもありますから、そちらもぜひ。
清水 ええ、よく存じ上げています。ワタシ、アドバンが好きで、履いてます!!
渡辺 存じ上げてるって(笑)。
清水 アドバンはパターンがあたらしくなってからのほうがワタシは好きなんです。
渡辺 ちょっと唐草っぽいパターン?
清水 そうですそうです。
渡辺 ちなみに「ネオバ」のモデルチェンジはまだですか?
担当 発売が2009年で、まだ3年くらいですから、もう少し頑張ってほしいです。
──ここでネオバについての説明をお願いします。
渡辺 アドバンのトップグレードモデルで戦闘的な走り屋が好んで使いそうなスポーティーなタイヤがADVAN NEOVA。
清水 むっ。失礼な! ネオバは“食う”タイヤとして人気なんです! ワタシもネオバ履いてます! スポーツにはネオバ!
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渡辺敏史&清水久美子がいく 部品ブースウォッチング (3)
ニッポンの匠の技がひかる──関東自動車工業
「FS HYBRID CONCEPT」というコンセプトカーを大々的に披露しているのが関東自動車工業のブース。ほかには「アクア」やコンセプトカー「GRMN スポーツ ハイブリッド コンセプトII」といったトヨタ車をベースにしたコンセプトカーが展示されています。
──渡辺さん、関東自動車工業というのはどういう会社なんですか?
渡辺 トヨタグループの会社で、簡単にいえば「センチュリー」をつくっていることで有名ですね。もちろん、センチュリーはトヨタ車なんですが、生産は関東自動車工業が担当しています。それだけ匠の技があるんです。一日一台くらいのペースで、内装、外装、ハンドビルドだと思いますよ。
清水 このクルマも見ているだけで手がこんでいるのが分かりますね。
担当 この「FS HYBRID CONCEPT」は、サイズ的にはセンチュリーよりも小さいのですが、センチュリーのさらに上に位置するフラグシップカーとして製作しました。もちろん、後席を重視したクルマで、ドアはいわゆる観音開きタイプ。乗降性を高めています。
清水 これはぜひリアシートに乗ってみたいです。
担当 どうぞ!
清水 わ、いいんですか?
担当 いかがでしたか?
清水 シートがふっかふかで、内装もセンチュリーより広々としてくつろげる感じ。おうちみたいです!
関東自動車工業では一般の方に向けた工場見学も開催しているとのこと。日本の匠によるクルマづくりを実際に見ることができます。
クリーンディーゼルのかなめ──ボッシュ
少し場所をうつって今度は東棟の奥のほう、エンジン部品を扱うメーカーがブースを出しているエリアへ。
目の前にあるのは、ドイツに本拠地をおく自動車部品、アフター市場向け機器、電動工具などで有名な巨大メーカー「ボッシュ」のブース
渡辺 ボッシュいってみようか。ボッシュといえば?
清水 ボッシュはバッテリーですよ!!
渡辺 わははは。たしかにバッテリーも有名だけど、今回はバッテリーじゃないよ。
清水 これは、インジェクターですね。
渡辺 ガソリン用ですね。
担当 はい、ディーゼル用もあちらにございます。
渡辺 これはメルセデスのE 350シリーズが使っているものですね。
清水 ワタシたちがレースに使うのとちがって純正部品、しかも環境を意識したものですね。
渡辺 こういう高圧で緻密に燃料を噴く技術って、この十年くらい、先にディーゼルで確立されてガソリンに応用されるっていう状況なんですよ。
清水 それはどうしてですか?
渡辺 やっぱりヨーロッパではディーゼルのほうが普及したっていうことですよね。そもそも燃費は絶対ディーゼルのほうがいいうえ、CO2排出量も少ないので。排気ガスのキレイさならばガソリンなんですが。
担当 たしかにディーゼルというとどうしても排気ガスが汚いというイメージがあるかと思います。
清水 後ろを走りたくないような。
担当 いまはそんなことはまったくないんです。こちらは、ディーゼルエンジンの排気ガスを浄化するシステムです。ディーゼルエンジンはガソリンエンジンと比べて弱点が2つありまして、ひとつは黒煙が出やすい。もうひとつはNOXというんですが、窒素酸化物が出やすいことなんですね。それをどう浄化するか。黒煙については、ここにフィルターがついているんです。
清水 フィルターがあるのは、ここ、エンジンに近いところですね?
担当 はい。まずここで黒煙をとります……といっても昔と比べて黒煙の出る量もだいぶ少なくなってはいるんですけれども、まだちょっと出る分にかんしてはここでこして、NOXにかんしてはこの中で、尿素水といって化粧品でも使われているんですけれど、それで窒素と水、つまり無害なものに化学反応させることができるんです。20年くらい前のディーゼルエンジンとくらべると、95パーセント以上クリーンになっていて、ガソリンエンジンと比べてもおなじくらいのレベルを実現しています。尿素水タンクは20リッターほど。1000km走っておおよそ1リッター消費するので2万kmくらいはメンテナンスフリーで走れます。補充は点検の時やディーラーできますよ。
渡辺 このシステムを搭載したBMWのクリーンディーゼル車、ブルーパフォーマンスモデルは来年日本にも導入されるそうです。
クルマをまもる小さなパーツたち──コンチネンタル
渡辺 ドイツの企業、コンチネンタルはタイヤメーカーというイメージが強いかもしれまんが、じつはブレーキテクノロジー、ビークルダイナミックコントロール、エレクトロニックシステムなどの分野で高い技術力をほこる自動車関連部品のグローバルサプライヤー、一大グループですよ。
清水 だからエンジン部品系メーカーが集うエリアにブースがあるんですね。あっ、
会社の業務を紹介したパネルがあります……従業員数14万人! いろいろな部門があるんですね。
渡辺 ここでは、清水さんのGT-Rにも使われている部品もつくられているんですよ。
担当 こちらはGT-Rに採用されているブレーキの油圧を制御するための装置ですが、車両を制御するには車両の状態が分からなくてはいけないんですね。それを大きくわけて2つのセンサーで感知しまして、四輪の油圧を一輪ずつ制御して安定性を高めているんです。
清水 わー。
担当 そのセンサーがこのセンサークラスターです。これにはヨーセンサーと横Gセンサーが入っています。ハンドルの操作とクルマのヨーが合致していれば問題ないんですが、ハンドルを切ってもヨーが立ち上がらない場合はアンダーステア。逆にヨーが出すぎていればオーバーステアということです
渡辺 後者は清水さんがよく陥る状況なんじゃないの?
清水 じつは今日、ちょっと遅刻しそうでGT-Rで急いで会場まで来たんですけれど、雨が降っていて、後輪がククッと滑ったんです。でもすぐにクルマがバランスを取り戻して助かりました。この装置のおかげだったんですね。ありがとうございました! 小さな部品だけれど、これがなかったらどうなってたんだろう……すみません、これはどこについていますか?
担当 センターコンソール近辺です。
清水 ドライバーからは見えないところなんですね。
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渡辺敏史&清水久美子がいく 部品ブースウォッチング (4)
カーオーディオのオートクチュール──ソニックデザイン
東棟の奥まで行ったので、いったん、タイヤやホイールのエリアまでもどるふたり。黒い壁と小型スピーカーが入った陳列ケースに囲まれた威風堂々たるブースは、メルセデス・ベンツ SクラスやEクラス購入時にメーカーオプションとしてインストールできる高級オーディオを展開するソニックデザイン。
実際に試聴させてもらえるということで、受付の方に名刺を渡してブースの中へ。
サウンドシステムが取り付けられたメルセデス・ベンツ Sクラスの横で資料を見ながらしばし順番待ち。
清水 S-Class Sound Suite……スイートですよ!
渡辺 ほんまや。ああ、そう! クルマの後ろにプレートがついていて、Sound Suiteって書いてあるんですよ。
清水 ついているっていうことをアピールしちゃう!
渡辺 アピールしちゃう! これは日本独自の企画で、メルセデス・ベンツ ジャパンとして、このソニックデザインの商品をオフィシャル認定しているんです。かなり珍しいことですよ。
清水 ワタシ、メルセデスのSクラスにも乗っているんですけれど、普段はユーロビートなんかをバスをマックスにして聞いているんです。
渡辺 えっ、清水さんSクラスももってるの?
清水 ええ。重低音が好きで。GT-Rのときはドライビングに集中するんですがSクラスのときは、バンバン、ドンッ! みたいな。
渡辺 下世話な音が好きなんだね(笑)。
──順番がきて、試聴に。担当の方が運転席に座り、二人は後席に座ります。
担当 このシステムはナンバーを登録する前に取り付けます。通常のあとから取り付けるオーディオとちがって、室内への張り出しもないですし、車両重量の変化も誤差の範囲内。非常にコンパクトなコンポーネントです。
渡辺 ちなみにベストポジションはどこの席なんですか?
担当 ベストポジションを変えられるのが今回の新機構なんです。操作系は既存のままになります。
通常のSクラス同様の操作パネルからオーディオを操作。すると高音の女性ボーカルが流れはじめた。
清水 音がクリアですね。
担当 今は運転席ポジションです。これでたとえば渡辺さんがシートベルトをしていただくと、渡辺さんのところにポジションが変わりますよ。
渡辺 シートベルトと連動しているんですか!
──渡辺氏がベルトを装着すると一瞬音が途切れて、音の定位が変わる。
担当 これでいまは渡辺さんの位置が特等席です。さらに清水さんがシートベルトをすると二人用の空間になります。
清水 わー、来ました! こちらに! ええええ、すごいですね、これ。
担当 なんら運転席側で操作、設定することなく、シートベルトをしたらそこにひとがいるわけですから、そこに合わせる。ウインドウが下がったら音をミュートにして。
──担当の方がウインドウを下げだすとすっと音が消えた。
渡辺 ええええ!
清水 すごーい!
担当 ドアやスライディングルーフもおなじです。なぜそこまでするかというと、スピーカー自体がアルミのボックスに入ったエンクロージャー型なんですね。せっかくそれで外に音がもれないのに、開けてしまうと台無しになってしまう。先ほど、音がクリアだとおっしゃっていただきましたが、それはアルミのボックスにスピーカーが入っているからなんです。通常ですと、スピーカーはクルマに直付けされていますので、スピーカーの裏側に回った音が共振したり、振動で通常以外の音がまじってしまい、クリアではなくなるんです。
渡辺 じゃあドアなどの共振を防ぐために制振材とか防音材を使ったりはしていないんですか?
担当 していないです。
渡辺 Sクラスってロジック7でしたっけ?
担当 ハーマン・カードンのロジック7のかわりに、わたくしどもソニックデザインのデジタルアンプが入っていますので、こういう音づくりができるんです。室内の音響特性をすべて調べ、シートベルトなどの信号を拾ったうえで、音のセッティングを自動で変えています。
清水 ここまでつくりこむとなると、後付って難しいんですか?
担当 後付けは、メーカーオプションとしてはつけられないんですけれど、ソニックデザインとして、レトロキットを今後つくる予定です。
清水 今後というのは?
担当 本当に近い今後です。
清水 わー、楽しみですね!
──曲は弦楽器を中心としたものに。
渡辺 なんか迎賓館かどこかに連れていかれそうですね。
担当 音がクリアなので、音量をあげなくても心地よく聞こえるんです。ロングドライブでも疲れにくいですよ。
渡辺 音でマッサージを受けてるみたいだ。
清水 まさにそんな感じですね。
渡辺 たとえばこれは、助手席に合わせたセッティングも可能なんですか?
担当 お客様の要望には納車前であれば、それにあわせてプログラミングします。好みの音の傾向ですとか、窓を開けても音が消えないように、というのも可能です。
渡辺 音の世界のオートクチュールですね。
清水 お値段は?
担当 クルマの価格プラス295万円です。
おわりに
渡辺 なんかIQが20くらい上がった感じですね。
清水 ほんとに。ワタシのSクラスにも付けたいくらい、うっとりしちゃう音でした。
渡辺 つぎはどこにいきましょうか? まだ東棟も半分ですし、西棟もありますよ。
清水 今度は西にいってみましょう!
渡辺敏史|WATANABE Toshifumi
自動車評論家。2輪、4輪車誌の編集にたずさわったあと、フリーランスとして独立。弊誌をはじめ、多数の媒体に執筆している。
清水久美子|SHIMIZU Kumiko
GT-Rマニアの実業家。3代目日産スカイラインGT-Rをチューニングし、筑波サーキットをはじめとする草レースに参戦。仙台ハイランドドラッグコースではゼロヨンレースにも出走していた。チューニングカーに造詣が深く、雑誌『オプション』では2年間にわたって連載を担当。現在は弊誌BLOGにも執筆中。イベントリポーター、富士レースクイーンなどの経験も。R35GT-R、メルセデス・ベンツ Sクラス、トヨタ・プリウスなどを所有。