第5回 「フランク・ミュラー グループの未来」
Watch & Jewelry
2015年4月13日

第5回 「フランク・ミュラー グループの未来」

第5回 「フランク・ミュラー グループの未来」

天才時計師、フランク・ミュラーを頂点に擁するフランク・ミュラー グループ「WATCHLAND(ウォッチランド)」。その活動範囲は年々広がりを見せている。ピエール・クンツ、ECW、そしてクストス。果たしてグループはどこに向かおうとしているのか。

文=広田雅将

一大時計グループを築き上げたフランク・ミュラー。
その成功の影には、多くの右腕たちの存在があった。

辣腕起業家、シルマケスの存在

フランク・ミュラーの成功を考えるとき、忘れてはならないのがヴァルタン・シルマケスの存在だ。アルメニアに生まれた彼は、ジュネーブの宝石商で見習いを経た後、宝石商として身を立てた。

1989年、フランク・ミュラーと出会った彼は、その成功を確信。92年、フランク・ミュラー ブランドの会社を立ち上げ、97年には新オフィスと工房をジャントゥにつくるにいたった。

いまでこそ著名なフランクだが、当時はまだ一介の時計師としか見なされていなかった。そこに目をつけ、投資を惜しまなかったシルマケスの慧眼には、改めて驚かされる。

またシルマケスの知られざる功績には、トノウケースの量産化がある。91年、フランク・ミュラーはトノウケースを開発したが、量産は不可能と思われた。手に取るとわかるが、フランクのトノウケースは極めて複雑な造形をもつ。とりわけ風防にあたる硬いサファイアクリスタルは、三次元状にカットされている。

当時これを実現できるメーカーは、スイスに存在しなかった。あったとしても、彼らは新興メーカーには極めて冷淡だった。フランクとシルマケスは、優れたケースメーカーであるエコフェから技術を習得。ケースの内製化に成功した。

現在さまざまなケースバリエーションを誇るフランク・ミュラー。その一因には、自社でケースをつくれる体制があることを、決して無視してはいけないだろう。

フランクとシルマケス、両輪がもたらしたもの

フランクのもとで頭角をあらわしたピエール・クンツ。
いまやグループの一翼を担うブランドに成長。

フランクとシルマケス、両輪がもたらしたもの

フランク・ミュラーの名声が高まるにつれて、多くの時計師たちが彼のもとに集った。そのひとりに、ピエール・クンツがいる。

パテック フィリップなどでコンプリケーションウォッチを手がけた彼は、フランクのもとでたちまち頭角をあらわした。彼の才能に目をつけたフランクは、やがて彼に独立の許可を与える。

2002年、フランク・ミュラー グループの新ブランドとして、「PIERRE KUNZ(ピエール・クンツ)」が創業。「レトログラードの魔術師」として、彼の名は広く知れわたるにいたった。

シルマケスもまた、広い人脈をもっていた。そのひとりにロベルト・カルロッティがいる。フランク・ミュラーのイタリア代理店をつとめた彼は、優れた審美眼の持ち主だった。彼のデザインセンスと、ウォッチランドのケース製造技術がミックスされたのが「ECW(ヨーロピアン・カンパニー・ウォッチ)」である。00年創業のECWは、個性的な時計づくりを行うブランドして、ウォッチランドのなかでも異彩を放っている。

ケース技術を得手とするウォッチランド。そのノウハウの集大成ともいうべきブランドに「CVSTOS(クストス)」がある。創業者はサスーン・シルマケス。ヴァルタンの息子だ。フランク・ミュラーなどで培ったケースづくりの技術が、その複雑な3Dケースに投じられている。

フランク・ミュラー・グループ、その未来

2005年に発表されたピエール・クンツ「キュピドン」。
ハートをモチーフに、3本のレトログラード秒針が
「とても」「情熱的に」「狂おしいほど」という仏語をさす。
キューピッドの名にふさわしい愛にあふれたクンツの代表作。

フランク・ミュラー・グループ、その未来

優れたウォッチメーカーであるフランク・ミュラーと、優れたケースメーカーであるヴァルタン・シルマケス。両者があってこそ、いまのウォッチランドの成功はもたらされた。

その拡大はこれからも続く。06年、「RODOLPHE(ロドルフ)」と「BARTHELAY(バルトレー)」がウォッチランドに参加。07年には「BACKES & STRAUSS(バックス&ストラウス)」、「MARTIN BRAUN(マーティン・ブラウン)」などが参入。08年には新ブランド「CHRISTIAN HUYGENS(クリスティアン・ユゲン)」、「PIERRE MICHEL GOLAY(ピエール・ミシェル・ゴレイ)」も立ち上がった。

瞬く間に拡大してきたフランク・ミュラー グループ。自社製ムーブメントも完成し、いよいよ一大時計グループとして時計業界に乗りだそうとしている。

           
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