アストンマーティン V12 ヴァンテージ Sに試乗|Aston Martin
CAR / IMPRESSION
2015年12月28日

アストンマーティン V12 ヴァンテージ Sに試乗|Aston Martin

Aston Martin V12 Vantage S|アストンマーティン V12 ヴァンテージ S

最小のボディに最大のパワーを

アストンマーティン V12 ヴァンテージ Sに試乗

アストンマーティンのラインナップのなかで、もっともスポーティな「V12ヴァンテージ」の後継として昨年の秋に日本へ上陸を果たしたニューモデル、「V12 ヴァンテージ S」に小川フミオ氏が試乗した。コンパクトなボディに、吠え渡る573psのV12エンジン。創業100年の歴史とともに鍛え上げられた英国スポーツカーの魅力を味わう。

Text by OGAWA FumioPhotographs by ARAKAWA Masayuki

英国スポーツカーへの誘い

スポーツカーになにを求めるか。行き着く先は操縦する楽しさかもしれない。ただし、その解はさまざまだ。英国のアストンマーティンは、フェラーリほど娯楽性が高くなく、マクラーレンほどストイックでない。走りもスタイリングも、適度に官能的であるところが魅力といえる。

2013年秋にわが国で発売された新世代の「ヴァンテージS」は、そんなアストンマーティンのなかでも、もっともスポーツカーとしての魅力に溢れたモデルだ。

アストンマーティン「ヴァンテージS」は、ひとことでいって、パワフルでコンパクトであることを特徴とする。アストンマーティン「DB9」より33センチほど全長で短く、最高出力は57psも高い573psだ。かつ、アダプティブダンピングシステムや反応速度の高い新世代の変速機の採用で、“エクストリームなスポーツ性能”を高らかに謳っているところも印象的である。

実車は、5,935ccもの排気量をもつV型12気筒エンジンをフロントに搭載しているとはおもえないほどコンパクトにまとまっている。全長で4.4mしかないのだから、とてつもないパワーが凝縮しているイメージだ。

軽量シャシーにかぶせられたボディは職人がアルミニウム板を延ばして形作ったもので、内側からの筋肉ではちきれそうなぐらい、張りのある力強さを感じる。

Aston Martin V12 Vantage S|アストンマーティン V12 ヴァンテージ S

最小のボディに最大のパワーを

アストンマーティン V12 ヴァンテージ Sに試乗 (2)

ロケットのような加速

スポーツ走行時に乗員のからだが滑らないよう配慮してだろう、カーボンファイバーなどを使った軽量構造に人工スウェードであるアルカンタラが張られたシートも魅力だ。手ざわりもいいし、適度なたわみぐあいで、座り心地はスムーズレザーよりずっと上だ。

試乗車は、複雑なレイヤーで塗られたイエローのボディに、ブラックの内装。外板色との関連性をもたせて、イエローのステッチなど差し色が内装に色気を出している。このあたりも、徹底的にレースカー志向のマクラーレンの機能主義と、すこし異なる点だ。

センターコンソールのボタンでエンジンスタートし、Dレンジをやはりプッシュボタンで選ぶのは、これまでのアストンマーティンでおなじみの手順。あとは剛性感の高いパドルシフトのひんやりとした温度を感じながら、ギアをセレクトしていけばよい。

ヴァンテージSの変速機は「スポーツシフトIII」と呼ばれる新型だ。コンピュータでクラッチ制御を行う2ペダル式マニュアル。レーシングモデルで使ってきたものに手をくわえているそうで、前進7段のシフトスケジュールが緻密で、トルクバンドのもっとも太いところを使ってドライブさせようとしてくれるのがわかるし、クラッチを“つなぐ・切る”の反応も速くなっている。

5,750rpmで最大に達するという620Nmのトルクは、1,000pmで70Nm出る設定で、低速域からすばらしい加速性をみせる。静止から100km/hに加速するのに3.9秒しかかからないと発表されている。

3,000rpmを超えると、ロケットのような加速に移る。エンジン回転を上げていくと、このクルマがたんにスタイリッシュなクーペでないことがわかる。

すばらしく反応の速いステアリングと、しっかりと踏ん張る足まわり、それにエンハンサーを通してチューニングされた甲高い排気音が、ヴァンテージSを操縦する者を、「がんばれ、もっといけ」と叱咤激励するかんじだ。

Aston Martin V12 Vantage S|アストンマーティン V12 ヴァンテージ S

最小のボディに最大のパワーを

アストンマーティン V12 ヴァンテージ Sに試乗 (3)

それ以上の楽しみはレース場で

アストンマーティンという名前に惹かれつつ、適度なスポーツカーが欲しければ、ややマイルドで、リアに座席を備えるなど実用性もそれなりに高いDB9がある。それに対してヴァンテージSは、積極的に操縦を楽しみたいひとのためのクルマだ。

シフトタイミングやパワーステアリングの重さ、それにダンピングが変わるスポーツモードを選べるセレクタースイッチを備えており、サスペンションは「トラック」(レース場)まで設定されている。が、ノーマルモードでも、一般常識的にはスーパーな性能ぶりを味わえるスポーツカーだ。

おそろしく限界が高いハンドリング性能ゆえ、公道での楽しみには限界がある。車両の挙動も公道ではじつに安定した範囲内にとどまるだろう。コーナリング中もニュートラルなステアリング特性が変わらない。それ以上の楽しみはレース場で、ということなのだろう。

それでも、アクセルペダルの踏み込み対して、即座に回転を上げて反応するエンジンといい、軽いボディによる、操縦性の高さといい、乗っていると、幸福感に包まれる。操縦性の安全マージンが高く、かつ過渡的な領域できちんと楽しめるように作られているから、誰でもヴァンテージSの魅力をしっかり味わえる。

Aston Martin V12 Vantage S|アストンマーティン V12 ヴァンテージ S

最小のボディに最大のパワーを

アストンマーティン V12 ヴァンテージ Sに試乗 (4)

カッコよさにはロジカルな背景がある

ボンネットにずらりと並んだ冷却孔や、冷却と空力を考慮して造型されたフロントエアダムなど、ヴァンテージSのカッコよさにはロジカルな背景がある。そここそ、アストンマーティンが熱心に取り組んでいるレースとの関連性を主張する部分だ。

大きくないメーカーだが、資金をうまく集め、大メーカーのスポーツカーと互角に戦っている姿勢には感心する。そのレベルの高さを証明する好個の例が、このヴァンテージSなのだ。

自動車は、好きなひとが自分の理想を追求して作りはじめるのが、常にスタートである。アストンマーティンは、CEOと技術部門の統括を務めていたドクター・ウルリッヒ・ベツ氏の情熱のたまものだ。

個人の思い入れが強いプロダクトこそ、匿名性の高い多国籍企業が市場を支配しようとしているいま、みなで守るべきものかもしれない。その意味でも、スポーツカーに乗るなら、ヴァンテージSを有力候補に、とあらゆるひとに勧めたい。

080507_eac_spec

Aston Martin V12 Vantage S|アストンマーティン V12 ヴァンテージ S
ボディサイズ|全長4,385×全幅1,865×全高1,250mm
ホイールベース|2,600 mm
エンジン|5,935cc V型12気筒 DOHC
最高出力| 573ps / 6,750 rpm
最大トルク|620Nm / 5,750 rpm
トランスミッション|7段セミオートマチック(Sportshift III)
駆動方式|FR
重量|1,665 kg
タイヤ 前/後|255/35ZR19 / 295/30ZR19(Pirelli P Zero Corsa)
最高速度|330km/h
0-100km/h加速|3.9秒
価格|2,303万7,943円

           
Photo Gallery