熱狂するスモール&ミドルセグメントSUV|Feature Story
特集|百花繚乱のSUV新時代
熱狂するスモール&ミドルセグメントSUV
1990年代、日本のメーカーが牽引役となりはじまった今日のSUV人気は、もはや一過性のブームからひとつの本流へと姿をかえ、いまや高級自動車メーカーとよばれるブランドさえ無視できない状況になって久しい。マセラティからは「クーバン」、ジャガーからは「C-X17」、そしてベントレーは「EXP 9 F」と、いずれもコンセプトながらもプロダクションを意識したクルマをお披露目している。そして「カイエン」を擁するポルシェも、ひとまわり小さい「マカン」をつい先ごろ発表した。もちろん、老舗「レンジローバー」や「ジープ」も黙ってはいない。百花繚乱となった2014年。モータージャーナリストの渡辺敏史氏が“のSUV界のいま”を語る。
Text by WATANABE Toshifumi
SUVクロニクル
SUVの歴史を遡るに、避けてはとおれないブランドといえばジープ、そしてランドローバーだろう。両社ともに第二次大戦後はおもにプロユースの四輪駆動車を手掛け、少数ながらそのソリューションを活かした民生仕様も展開していたわけだが、レジャーニーズの高まりを受けて専用のデザインと快適装備をあたえたパッセンジャーカーを企てるにいたった。これが60年代の話であり、ジープ「ワゴニア」とランドローバーの「レンジローバー」がその始祖ということになる。
その後長らく専業メーカーを中心に形成されてきたSUVカテゴリーに変化が起きたのは90年代の話だ。堅牢なフルフレーム構造が前提だった四駆の世界に、乗用車のモノコックフレームをベースにした設計を普及させたのは日本のメーカーだった。悪路走破性は劣れどタウンユースでの軽快感に勝り、乗用車のラインでつくられることもあって製造コストを抑えることもできる。トヨタ「RAV4」やホンダ「CR-V」はその先駆けとなり、さらにトヨタが97年にレクサス「RX」=日本名「ハリアー」をリリース、これが爆発的な人気を博したことで、今日的なSUVカテゴリーが確立された。
現在のSUV市場を形成するモデルの大半は乗用車のプラットフォームをベースとしたアーキテクチャーとなっており、車種的にも車格的にも百花繚乱の相を呈している。いっぽうでフルフレーム構造をもつモデルは本格的な悪路走行を前提としたものに限られているのが実情だ。
ランドローバーはレンジローバーブランドの主力車種に専用設計のアルミモノコック構造を用いて、フルフレーム構造のネガであるオンロードでの運動性能や環境性能をカバーしようと試みている。
その戦略が具体化したのが、昨年登場した「レンジローバー スポーツ」だ。先代は「ディスカバリー」の重厚なビルトインフレーム型モノコックをベースにしていたのにたいして、新型では「レンジローバー」と同様のアルミモノコックをもちいている。
両車の構造を共有化することで高価なアルミアーキテクチャーのコストを分散しながら、レンジローバーはよりラグジュアリー側に、レンジローバー スポーツはスポーティ側にとテイストを巧みに振り分けているというわけだ。
とくにレンジローバーとほぼ遜色のないオフロード性能を有しながら、燃費的に有利な3リッターV6ユニットでも軽快にワインディングを振る舞うことのできるレンジローバー スポーツのコストパフォーマンスは、都市部に暮らすSUVユーザーにとって魅力的に映るだろう。常速域での乗り心地や内装の仕立てについてはさすがに兄貴分には一歩譲るが、そのぶんを補ってあまりある価格設定に、ブランドの主力車種として成長させるという同社の意気込みがうかがえる。
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熱狂するスモール&ミドルセグメントSUV (2)
台風の目はやはりポルシェ「マカン」か
コストパフォーマンスという面で同様に、魅力的なグレードを追加したのがメルセデス・ベンツ「Gクラス」だ。
そもそもミルスペック車輌として開発され、民生用としては79年にデビューしたこのクルマは、フルフレームシャシーにくわえて前後リジットサスペンション、さらに前後およびセンターの3つのデフを独立してロックできるなど、非常にティピカルかつタフなメカニズムをもっている。
外板パネルやウインドウガラスは調達や修復性をかんがえて曲げを極力排したデザインになっており──と、ディテールにも逐一理由があるこのクルマの武骨さがかえって新鮮に映るのだろう、近年はファッションアイテム的な扱われ方になっているのはご存じのとおりだ。
だが、あらたに設定されたグレード「G 350 ブルーテック」は大径タイヤやワイドフェンダーといったコスメティック要素を極力おさえた、外観的には素にちかい状態がたもたれている。そのステータス性を潜めて、道具の側をきわ立てたようなエクステリアに組み合わせられるエンジンは3リッターV6ディーゼル。
ガソリンエンジンではかなえられない分厚いトルクバンドと低燃費とを両立したそれは、いつでもどこまでも走り抜くというGクラスの本懐をもっとも端的にしめしているといってもいいだろう。1,000万円を切る価格設定もふくめて、いま、Gクラスを選ぶならこれしかないと個人的にはおもっている。
BMW「X5」もフルモデルチェンジにいたり、モデルサイクル的には各社一服したかんのあるフルサイズ系SUVのカテゴリーにたいして、スモール&ミドルSUVのセグメントは動きが活発だ。なかでも今年、台風の目となりそうなモデルといえばポルシェの「マカン」だろう。
同門のアウディ「Q5」と基本骨格を共有しながら、シャシーやパワートレーンをはじめとしたそのメカニズムはポルシェのエンジニアリングが全面的に投入されたこのクルマ、たんに「カイエン」の弟分というだけでなく、価格的にみてもD~Eセグメントのステーションワゴンもふくめたスペシャリティモデルのニーズにピタリとハマることになる。
ポルシェ「911」から派生しながら「ボクスター」「ケイマン」がいまや独立した評価軸で語られるモデルへと成長したように、マカンもカイエンとはちがった魅力をもち得ているかが大変興味深い。
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熱狂するスモール&ミドルセグメントSUV (3)
シティユースを強く意識
このマカンよりもさらにコンパクトな、B-CセグメントのSUVは、今後の世界の自動車市場においてもっとも成長が見込まれるカテゴリーとしても大袈裟ではないだろう。そもそも日本のメーカーが市場を牽引してきたそこには、近年フォルクスワーゲンやフォードといった大規模メーカーのみならず、ドイツのプレミアム御三家も食指を伸ばしつつある。
本格的な構造のSUVは、その物量による堅牢性がたたずまいや走行感においてひとつの味になっているわけだが、それはもはや嗜好品的な評価軸の方がしっくりくる話だ。おおくの人にとっては行動範囲を限りなく広げられるもっとも多用途性の高いマイカーとして、このクラスのSUVこそがベストチョイスになることだろう。