マクラーレン 600LTにハンガロリンクで乗る|McLaren
McLaren 600LT|マクラーレン 600LT
運転の喜びだけを追求した理想主義的なスーパーカー
「570S クーペ」をベースに、エンジンパワーの向上やエアロダイナミクスの最適化、そして軽量化などを施すことで、より一層走りに磨きがかけられた「600LT」。「675LT」に端を発するLTシリーズ第4のモデルとなる同車に、金子浩久氏がハンガリーのハンガロリンクサーキットで試乗した。
Text by KANEKO HirohisaPhotographs by McLaren
ドライバーを徹底的に楽しませる軽量のスーパースポーツカーを生産することが使命
そう遠くない将来に、すべてのクルマは大きな分岐点に差し掛かることだろう。
分岐点では、「移動のための機械」か「運転を楽しむためのクルマ」かが峻別され、あと戻りしたり、途中で交差することはない。
運転の自動化やコネクティビティなどが劇的に進化して交通事故や渋滞が根絶され、それと並行して電動化の進化によって環境とエネルギー問題なども抜本的に解決する。また、シェアリングなどによって、クルマを“所有”するのでなく“使用”が増えるなど、利用形態も大幅に変化する。
その結果、世の中の99パーセントの「移動のための機械」は、現在のクルマを運転して使うことよりもはるかに安全かつ便利で、快適に使えるものになる。
その時には、もはやクルマという乗り物の概念とそれによる移動のイメージが大きく変わってしまっているだろう。
残りの1パーセントは「運転を楽しむため(だけ)のクルマ」だ。99パーセントと1パーセントというのは仮の例えに過ぎず、実際の数は99.9パーセント対0.1パーセント、あるいは99.99パーセント対0.01パーセントであってもおかしくはない。要は圧倒的多数か、そうではないかの違いだ。
現在、ほとんどすべての自動車メーカーは99パーセントに入ることを目指している。しかし、はっきりと「ウチは1パーセント」と表明しているメーカーがある。マクラーレンだ。
F1の常勝チームをバックボーンに持つ、このイギリスの超高級スポーツカーメーカーは「カーボンファイバー製シャシーのミッドにパワートレインを搭載した2座席スポーツカーしか造らない」と公言している。
なんとも潔いというか、頑なな姿勢だ。 マクラーレン・オートモーティブ最高経営責任者マイク・フルーイットの言葉はいつも変わらない。
「圧倒的な性能によって、ドライバーを徹底的に楽しませる軽量のスーパースポーツカーを生産することが我々の使命です」。
流行りのSUVや4ドアモデルなどを造ることもまったく考えていないというし、スポーツカーであってもフロントエンジンのものも造らないと断言している。
そのマクラーレンの「600LT」にハンガリーのハンガロリンクサーキットで乗った。
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運転の喜びだけを追求した理想主義的なスーパーカー(2)
0-100km/h加速は上級のLTモデルである「675LT」に匹敵
600LTは「アルティメット」「スーパー」「スポーツ」と三段階に分かれているマクラーレンの現行シリーズの中のベーシックな「スポーツシリーズ」を発展させた特別限定モデルだ。
600はエンジン馬力で、LTはLong Tailの頭文字。1990年代の「F1 GTR Long Tail」から命名された。
その後、2016年にスーパーシリーズをベースに675LTと675LTスパイダーが誕生し、600LTは4番目のLTだ。
「エアロダイナミクスの最適化、パワーアップ、軽量化、サーキット指向のダイナミクスなどを施すことで、より一層のドライバーとクルマとの一体感を向上させることがLTシリーズのDNAです」(コマーシャル・オペレーションディレクターのアレックス・ロング氏)
生産台数は未定だが、生産期間が1年間と定められている。
600LTは、「スポーツシリーズ」の基軸モデルである「570S クーペ」よりも約100kg軽量化され、3.8リッターV8エンジンは車名となっている通り最高出力600psと最大トルク620Nmを発生する。
軽い車体に強力なエンジンを搭載するわけだから、その分、速くなる。なんと、停止状態から100km/hまで達する加速タイムがたったの2.9秒。この値が3.0秒を切るクルマというのはまれで、ひとつ上級のLTモデルである「675LT」(つまり、最高出力675ps!)に匹敵する。
さらに、200km/hに達するのにも8.2秒しか要さず、最高速度は328km/hにものぼる。
軽量化は、あらゆるところで実施されている。アルミニウム製の新しいシャシー、コクピット全体にわたる軽量素材の装備の採用などによって、乾燥重量で1,247kgにまで削減された。パワーウエイトレシオは2.08kg/psという驚異的なもの。
パワーアップと軽量化だけでなく、空力特性向上のために拡張されたフロントスプリッターやリアディフューザー、固定式のリアウイング、カーボンファイバー製のフラットボトム等々もまた600LT専用パーツが奢られている。
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運転の喜びだけを追求した理想主義的なスーパーカー(3)
200km/hから停止状態までの制動距離は「P1」よりも1メートル長いだけ
比較のために「570Sクーペ」でまずコースを3周した。アップダウンがあり、大小さまざまなコースが組み合わされたハンガロリンクのコースで、570Sクーペは文句ない速さを示した。
速いだけでなく、乗り心地が良く、快適なこともマクラーレン各車に共通した美点だ。ストレートエンドで、200km/hからの急減速を試みても、車体は安定し、ブレーキにはフェードの兆候すら覗えない。
コースに慣熟してくるにつれて少しずつペースを上げてみても、コーナリングスピードを上げながら周回を重ねていく。これ以上なにを望むのかといった速さであり、完成度の高さだ。
そして、600LTに乗り換えると、まずエンジン排気音からしてまったく違う。テールパイプが上方に向けられているため、頭のすぐ後ろで響いている。身体が震わされるようだ。
さきほどの570Sクーペも、他のスポーツカーに較べれば引き締まった乗り心地だったが、600LTはそれをさらにシェイプアップさせている。ステアリングの斬れ味も鋭く、570Sクーペとは明らかに異なっている。
コースを一周し、ホームストレートで速度を上げていくと、200km/hを越えた辺りで第1コーナーが見えてくる。ブレーキペダルを強く踏み込んだ途端に、最初の驚きが訪れた。一気にスピードが殺され、タイヤが路面に押し付けられていくのが分かるくらい踏ん張っていく。
自分ではギリギリまでブレーキを我慢したつもりだったが、まだまだ余裕があった。600LTは姿勢を乱すこともなく、安全な速度で第1コーナーをクリアしていった。ブレーキは、恐ろしいまでに強力でありながら、それを受け止めるシャシーも強固で少しも姿勢が乱されることがない。
600LTのブレーキは、軽量のアルミニウム製キャリパーと剛性に優れたカーボンセラミック製ディスクが組み合わされている。ワンランク上級の「スーパーシリーズ」のシステムが流用されている。
まったく新しいブレーキブースターとの組み合わせによって、ブレーキング中のペダルの感触と反応を大幅に向上させ、200km/hから停止状態までの制動距離も117メートルと、限定生産されたハイパーカー「P1」よりも1メートル長いだけ。
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運転の喜びだけを追求した理想主義的なスーパーカー(4)
サーキット走行でさえも容易には限界を探ることが困難
次に驚かされたのは、優れた空力特性だった。ストレートやゆるやかな高速コーナーを走っている時に、高速で流れる空気の力でボディを路面に押し付け、安定させていることが分かる。自分で運転している時と同じように、マクラーレンのテストドライバーが運転する助手席に乗った時でもそれは明瞭に感じ取ることができた。
600LTは、サーキット走行でさえも容易にはその限界を探ることが困難なほどの超高性能を持っている。
オプションパーツを装着すれば、さらなる性能向上も可能だというから感嘆するしかない。公道走行が可能でありながら、ハイレベルなレーシングカーに限りなく近い性能を持っている。
「600LTは日常生活でも使うことができるように造ってあるけれども、日常生活のために造っているわけではない。純粋にドライビングの楽しみのためのクルマだ。どんなに高性能であっても、いま流行りのSUVは日常生活のためのクルマです」(ロング氏)
600LTは純粋に運転の喜びだけを追求した理想主義的なスーパーカーである。そして、それを造り出したマクラーレンのクルマ造りの思想もまた、ストイックなまでに理想主義的なのである。
McLaren 600LT|マクラーレン 600LT
ボディサイズ|全長 4,604 × 全幅 2,095 × 全高 1,194 mm
重量|1,261 kg
エンジン|3,799 cc V型8気筒 ツインターボ
最高出力| 600 ps(441 kW) / 7,500 rpm
最大トルク|620 Nm / 5,500-6,500 rpm
トランスミッション|7段AT(SSG)
駆動方式|MR
タイヤ 前/後|225/35R19 / 285/35R20
最高速度|328 km/h
0-100km/h加速|2.9 秒
0-200km/h加速|8.2 秒
100-0km/h減速|31メートル
200-0km/h減速|117メートル
燃費(NEDC combined)|11.7ℓ/100km(8.5km/ℓ)
燃費(EU WLTP combined)|12.2ℓ/100km(8.2km/ℓ)
CO2排出量(NEDC combined)|266 g/km
CO2排出量(EU WLTP combined)|276 g/km