パリモーターショー2018 コンセプトカー編
CAR / FEATURES
2018年12月5日

パリモーターショー2018 コンセプトカー編

パリモーターショー2018 コンセプトカー編

電気自動車ア・ラ・フランセーズ

世界5大モーターショーの一つである「モンディアル・ド・ロトモビル2018」、通称パリモーターショーが10月2日から14日まで開催された。ここでは、特にコンセプトカーに焦点をあてリポートする。

report & photo Akio Lorenzo OYA

トランジシォン

パリモーターショー「モンディアル・ド・ロトモビル2018」が10月2日から14日まで開催された。第1回から120年目・通算で88回目という節目の今回、ショーはモデルチェンジともいえる大胆な変化に挑んだ。

ひとつは奇数年に開催されてきた2輪ショーとの併合である。さらに自動運転コミューターをはじめとする技術にフォーカシングしたエキシビジョン「モンディアル テック」、そしてラスベガスCESの欧州キックオフイベント「CESアンヴェイルド パリス」などが同時開催された。

またパリ市街のコンコルド広場では一般公開期間中、新型車のテストドライブも用意された。

E-Tense

DS X E-Tense

Peugeot P2X Cafe Racer

大会エグゼクティブマネジャーで、プライベートではフランス剣道代表チームの主将経験もあるジャン-クロード・ジロー氏は、前年から日本も含め各国を精力的に訪問して企業の参加を呼びかけた。そうした努力虚しく参加ブランドは17も減少。あのフォルクスワーゲンも参加しないという前代未聞の事態となった。

しかし蓋を開けてみると、会期中の総入場者数は106万8194人を達成した。前回の2016年比で微減にとどまったのは、一般公開日を前回の16日から11日に短縮したことを考えると善戦であったといえよう。

「5大ショーで最多入場者数」というパリの伝統も維持した。世界のモーターショーがそのあり方をめぐって劇的なトランジシォン(推移)にあるなか、世界最古のモーターショーとしての威厳を保ったかたちだ。

パリモーターショー2018 コンセプトカー編

電気自動車ア・ラ・フランセーズ(2)

シャンソンのDJリミックス?

4輪メーカーが占めた3パビリオンのうちフランス系ブランドは、例年通りパビリオン1に陣取った。

プジョーが公開した「eレジェンド・コンセプト」は、フルEV、カスタマイズ、コネクテッド、さらに自動運転というトレンディ要素をすべて押さえている。だがそのモチーフとなっているのは、かつてピニンファリーナの手によってデザインされた504クーペ(1969-1983)である。

室内に目を向けても、ベルベット✕伝統的な木というトラディショナルなマテリアルによって支配されている。プジョーの説明によれば、それらはデジタル化の喧騒から乗員を和らげるためという。

そうした過度なデジタライズに反旗を翻しながらサウンドデバイスは備わっていて、フランスのハイクオリティオーディオメーカー「フォーカル」がチョイスされている。

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Peugeot e-Legend Concept

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Peugeot e-Legend Concept

EVのアーリーアダプターとなる富裕な人々は、クルマのヒストリーやブランドのレガシーに関するリテラシーがある人々だろう。

同時に筆者がこの「eレジェンド・コンセプト」を見て想起したのは、2013年東京モーターショーで日産が展示した「IDxフリーフロー」だった。伝説の510型ブルーバードにインスピレーションを得た海外デザイン拠点の若手デザイナーたちの作品だった。

それを考えると、オリジナルの時代を知らぬ世代にも、こうしたレトロはそれなりに訴求力があることは考えられる。古いシャンソンが突如DJリミックスとして復活するように。

パリモーターショー2018 コンセプトカー編

電気自動車ア・ラ・フランセーズ(3)

エグゼクティブリゾートを狙え

ルノーはモーターショーと同い歳の120周年を祝いながら、EV×自動運転でも別の角度から大胆なアプローチを試みた。

ブース中央にディスプレイされたコンセプトカーの名は「EZ-ウルティモ」である。クルマがすべてを操作する「レベル4」機能を備えた同車が提供するのは、特定の場所における「プレミアムな旅」だ。

ルノーは、このクルマを主にBtoBのスタイルで提供する考えである。たとえば航空会社には、ファースト/ビジネスクラス客向けの自宅─空港間ドア・トゥ・ドアサービス用として提案する。

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Renault EZ Ultimo

E-Tense

Renault EZ Ultimo

またラグジュアリーリゾートにもゲストを運ぶ手段としても有効とアピールする。デザイン担当副社長L.ファン・デン・アッカーがプレゼンテーションで具体的なコラボレーターとして名前を挙げたのは「エヴィアン リゾート」と「クラブメッド」だ。

後者ではイタリアはシチリア島の「エグゼクティブ コレクション」における送迎を想定している。筆者個人としては、街にこだまする南部訛りの喧騒や、地中海から吹き上がる北アフリカの砂を含んだシロッコ、といったリアルな感動を感じぬまま自動運転のカプセルに乗って移動するのはやや惜しい気がする。

しかしセレブリティのモビリティとして捉えれば、シェードに囲まれた空間は心地よいコクーン感覚になるだろう。

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Renault EZ-PRO

E-Tense

Renault EZ-PRO

自動運転モビリティといえば、トヨタは2018年1月のラスベガスCESでさまざまな商業用途が可能な「e-パレット コンセプト」を公開し、モビリティ企業に変身していくことを宣言した。それを追うようにルノーが2018年9月にドイツはハノーヴァーの商用車ショーで公開した「EZ-Pro」も、都市におけるデリバリーをイメージしたものだった。

しかし今回は、エグゼクティブやリゾートでのモビリティという提案だ。それはバカンスの国というフランスが長年培ってきた文化のコンテクストとも見事に合致する。

パリモーターショー2018 コンセプトカー編

電気自動車ア・ラ・フランセーズ(4)

ジャーマンに対するアンチテーゼ

次回のプロダクションカー編でも触れるが、従来プレミアムEV市場は事実上テスラのブルーオーシャンだった。ところが今回のパリショーで、ドイツ系ブランドが参入して一気にレッドオーシャンになる兆候を呈してきた。

そうしたなか「eレジェンド コンセプト」「EZ-ウルティモ」が示した概念は、フレンチブランドがEV時代にサバイバルするための有望な方向性であろう。

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Smart Forease

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Audi PB18 e-tron

もちろんショー効果を狙ったコンセプトカーゆえ、当然ながら将来のプロダクションモデルでのアプローチは異なったものになる可能性がある。

しかし、テクノロジーを誇示するドイツ系ブランドに対するアンチテーゼとして、両ブランドの提案は十分にエモシォン(感動)あるEV時代を夢見させてくれた。

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