UNITED ARROWS|ファッションデザイナー ウミット・ベナン インタビュー
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注目のファッションデザイナー ウミット・ベナン インタビュー(1)
「遊びすぎない、ぎりぎりのクラシックスタイル」
トルコ人のファッションデザイナー Umit Benan(ウミット・ベナン)。その哲学者のような容貌は写真で知っていたが、実際に会った印象も同様で、質問には真剣に長い回答で応え、真理を追究する求道者のような雰囲気をたたえていた。待望の初来日で、彼が語った言葉とは。
Text by KAJII Makoto(OPENERS)写真=鈴木健太
3つのスクールで学んだこと
ウミット・ベナン氏のプロフィールを見ると、イギリスの「セントラルセントマーティンズ」、ニューヨーク「パーソンズ美術大学」、さらにミラノの「インスティテュートマランゴーニ」でファッションを学んでいる。そして2009年秋冬シーズンに自身のブランドを立ち上げ、デビューを果たした。
――初来日で、今日はこれが7本目の取材ということですが疲れていませんか?
こういうことはしょっちゅうあるので大丈夫です。ファッショウィークでは1日に90本の取材を受けることもあるんですよ。
――お会いしたらまず聞きたかったのが、3つのスクールのことです。とてもユニークなキャリアですが、なぜ3つも通われたのですか?
ロンドン、ニューヨーク、ミラノと、どこもファッション界をリードしている“ファッションキャピタル”で、それぞれの国でフィーリング、テイスト、スタイルの3つを経験したかったのが大きな理由です。
マランゴーニでは、技術的なサルトリア(ドレスメーキング)を学び、セントマーティンズではスタイリングを学び、パーソンズでは、ファッションマーケティングをふくめたビジョンを学びました。とくにパーソンズでは、悪いモノを良いモノに変えるすべを学んだのが大きかったですね。ファッションのいろんな要素を吸収したかったし、シティライフを経験したかったというのもあります。いまはミラノに住んでいますが、ニューヨークには住んでもよかったな。
――ロンドンには住みたくなかったのですか?
ロンドンは住んでみたいと思わなかったですね。すばらしい都市だけど、フィーリングがピンと来なかった。パリにガールフレンドがいて、週末になるとパリに行っていた時期があり、言葉が通じなくて困ったことがありましたが──ロンドンは言葉は通じるんだけど、居心地がよくなかった。
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注目のファッションデザイナー ウミット・ベナン インタビュー(2)
「遊びすぎない、ぎりぎりのクラシックスタイル」
「ウミット ベナン」は、世界最大級のメンズプレタポルテの見本市であるPITTI IMMAGINE UOMO(通称ピッティ・ウォモ)の新人発掘賞「Who Is On Next?」を2年半前に受賞して一気に脚光を浴びた。日本ではユナイテッドアローズがまっ先に買い付けたのである。</p>
東京に住んでいる自分は、想像することができますね
――今回が初来日ですが、東京はお気に召しましたか?
東京の印象は、想像と違っていました。東京に行った人からは、「TOKYOはクレイジーな都市で、人びとはクレイジーな格好をして、クレイジーなことがいっぱいあって、クリエイティブな人も多い」と聞いていましたが、まったくちがっていた(笑)。
――実際には?
まず建築物がすばらしい。歩いていると道がきれいだし、ニューヨーク、チューリッヒ、パリなど世界の主要な都市の、“きれいなところ”が融合している感じです。ミラノ以外ではニューヨークしか住みたいと思いませんでしたが、この日本になら住める。東京に住んでいる自分を想像することができます。
――気に入っていただいてうれしいです。さて、2009年に「ウミット ベナン」を立ち上げたときの目標を教えてください。
当時のことを正直に言うと、長期的なビジョンはありませんでした。ファーストシーズンも、限定版の時計を売ったお金で最初のコレクションを開いたのです。まさに「どうしていけばいいのか」という状態でしたが、ナイキのスローガンのように“JUST DO IT”の精神で進み、幸いにコレクションが好評で、それから6シーズンやってビジョンがやっと見えてきました。
――ユナイテッドアローズからはとても高い評価を得ています。
ユナイテッドアローズの評価にはとても感謝していますし、大切なことだと思っています。日本とほかの国のマーケットの違いですが、ほかの国ではプレスへの露出は多いのですが、日本ではプロダクトがベースになっています。これはとても重要なことで、ユナイテッドアローズが率先してプロダクトを紹介してくれることで、商品も売れる。ブランドビジネスでは大切なことです。
――今回はさまざまなメディアに出ますね。
ええ、反応が楽しみです。
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注目のファッションデザイナー ウミット・ベナン インタビュー(3)
「遊びすぎない、ぎりぎりのクラシックスタイル」
ウミット・ベナンは、2012年春夏メンズコレクションから「TRUSSARDI 1911(トラサルディ 1911)」のデザイナーとなる。前任のミラン・ヴィクミロヴィッチとどう違うのかが楽しみだ。
毎回コレクションのテーマが違うから、あたらしい発見がある
――いまのデザイン哲学を教えてください。
基本は不変で、クラシックなスタイルをあたらしい方法で展開していくことです。誇張したり、とっぴなものはやりません。それが私のスタイルです。メンズのシルエットは大事にしているけど、遊びすぎない。あたらしさがあって、ぎりぎりのところで表現していきます。また、毎回コレクションのテーマがちがうので、あたらしい発見がありますね。
――あたらしいことにチャレンジする例を教えてください。
そうですね。これまで「ウミット ベナン」は、70パーセントがサルトリアで、残りをファッションの要素が占めていました。いま、スポーツウェアをベースにしたテイストを取り入れることに挑戦していて、2012秋冬コレクションでは、40パーセントがサルトリアル、40パーセントがスポーツ、そして残りがファッションというバランスで発表します。
――具体的には?
たとえば、デイリーに着られるジャケットやカジュアルなアイテムなどに、スポーティなシルエットを反映させたいと思っています。
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注目のファッションデザイナー ウミット・ベナン インタビュー(4)
「遊びすぎない、ぎりぎりのクラシックスタイル」
さて、気になる「ウミット ベナン」2012年春夏コレクションだが、アイコンは、何とイタリアの老舗ブランド「セルティ」の三代目社長、ニノ・セルッティ氏。初老の男性=ニノ・セルッティを、デザイナーであるウミット・ベナン自身と、コレクションを着た若者たちが見つめる、というビジュアルも展開する。
人生はまさに、“Life goes on”
――2012年春夏コレクションのビジュアルには驚かされました。
コレクションのテーマは“サード ジェネレーション イタリアンズ”です。今回は、おじいさんが着ていたような成熟した服を若い人が着る──オールドスクールのテイストをあたらしい方法で表現しています。
イタリアの老舗ブランド「セルッティ」の3代目の社長であるニノ・セルッティ氏とその孫であるオスカーのスタイルからインスパイアされたコレクションです。80年代をテーマに、タッタソールチェックのスーツや、大きな襟のシャツ、3タック入りのハイウエストトラウザーズなど、クラシックなアイテムを中心にコーディネートしています。
――では最後に、昨年3月に日本は大震災に見舞われました。ウミットさんの故郷のトルコでも大きな地震がありましたね。
私はメッセージを言える立場にはありませんが、人間の力を超えたところでとても大きな自然災害が起こってしまったのは事実として受け止めなければなりません。被害にあわれた方には大変な思いをされているでしょうが、人生を生きていくあいだにはネガティブなことも起こり得ます。だから、事実を受け止め、がんばって生きていくしかない。こうやってコメントをしたことで何ら状況は変わりませんが、私たちはできるだけのことをする。まさに“Life goes on”です。
――ありがとうございました。
1980年 ドイツ生まれ。スイスの全寮制高校を卒業し、アメリカのボストン大学で経営学を学んだ後、イギリスのセントラルセントマーティンズでデザインを学び、さらにニューヨークのパーソンズ美術大学とミラノのインスティテュートマランゴーニでデザインの学位を修める。2009年秋冬コレクションで、自身の名前を冠したブランドでデビュー。現在はミラノを拠点としている。トルコ人としてのアイデンティティにくわえて、暮らしてきた国や学んできた過程の多様さによる独自のバランス感覚が、彼のコレクションの“あたらしさ”の要因である。
http://www.umitbenan.com/
ユナイテッドアローズ
http://www.united-arrows.jp