日産GT-R 2012年モデル─試乗インプレッション|NISSAN
CAR / IMPRESSION
2015年2月20日

日産GT-R 2012年モデル─試乗インプレッション|NISSAN

NISSAN GT-R|日産 GT-R

さらなる練磨を経た2012年モデル試乗(1)

最高出力20psの向上や左右非対称サスペンション採用など、イヤーモデルの範疇を超える大幅な進化を遂げた日産GT-R 2012年モデル。さっそく、自動車ジャーナリスト 渡辺敏史氏による試乗インプレッションをお送りする。

文=渡辺敏史写真=荒川正幸

徹底的に磨かれた絶対精度

「よく世界初の新技術採用って、自動車メーカーが唱うじゃないですか。僕はね、あれが嫌いなんですよ。そんなことはわざわざ言うことでもないし、お客さんにとってどうでもいいこと。要は求められていることに真摯に全力で応えることが一番重要であって……」

2012年型GT-Rの技術説明の席上、開発責任者 水野和敏氏は、我われメディアの面々に向かってそう斬りだした。

語気の強弱を使い分けながらみずからの想いを唱い上げ、締めには、すみません生意気言っちゃいました……とみずからを貶める。入念に作り込まれたパワーポイントはほとんど無視。そして背後にスタンバイするのは必携のホワイトボード。そこにマジックで図を書き込みながら開発主旨を流暢に説明する。自動車のエンジニアとしては異例なほど機微と抑揚に富んだ氏のプレゼンは、今やひとつの様式美として聞く者にあらぬ期待すら抱かせる。

僕はあえて訊ねてみた。それは裏返せば、GT-Rはコンベンショナルなエンジニアリングのクルマということなのか、と。

「当然ですよ。コンベもコンベ。未知の技術なんてなんにも使ってないし、そんなものにGT-Rの速度域は任せられない。ワタナベさんね、このクルマができてから4年間、僕がやってきたことはね、開発と生産の精度を徹底的に磨くこと。それだけですよ」

新技術より絶対精度。そのための地道な錬磨が量産車をして匠の領域を臨むところに導かれる。それは氏の物づくりの曲げられない哲学なのだろうか。

登場から5年目。周囲にいるあらたなライバルの内には、開発当時には得られなかったあらたな技術がいくつか散見されるが、GT-Rはそれに飛びつこうともしない。デビュー直前にドイツでプロトタイプを体験し、その開発現場を覗かせてもらったときには、こりゃとんでもないデジタルのバケモノだなと思っていたその印象は、ここにきて少し変わりつつある。開発のプロセスはまったく変わりないというのに、だ。

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さらなる練磨を経た2012年モデル試乗(2)

ブガッティ ヴェイロンに迫る加速性能

2012年モデルのGT-Rは、前年モデルにたいして出力が20ps増しの550psに到達した。そのためにほどこされた変更はざっくりと書けば吸排気・冷却の高効率化とマネジメントの最適化。はじめてエンジン内部に手が入れられたとはいえ、それはクルマの世界において、オーソドックスなリファインでもある。そして実際、僕のような普通のドライバーが乗るかぎり、その動力性能差は体感として得づらいものだろう。概して500ps超とはそういう世界でもあるし、第一GT-Rの速さは著しい馬力依存型というわけではでない。

そう、GT-Rの驚異的な速さの源は、馬力をいかに効率良く路面に伝えきるかというトラクション性能である。その一端を示す0-100km/h加速は、2012年モデルにおいて2.84秒という数字を記録した。これはもはやブガッティ ヴェイロンをおいて他に勝る量産車はないという、途轍もないものだ。

激しいスキールやスモークを上げるでもなく、1,730kgのマス感をまったく思わせることなく加速するそのサマを傍目でみていると、ねじ曲げられた物理空間にでもいるような錯覚に陥る。GT-Rの動きの質はもはや前代未聞の領域に達している。

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四輪すべてが非対称のサスセッティング

前代未聞といえば、2012年モデルの最大の目玉は、左右非対称セッティングのサスペンションにあるといえるだろう。これは右ハンドル仕様においてのみほどこされるもので、最大の狙いは、ドライバー乗車時の車体左右の重量差からくるドライバビリティのちがいをかぎりなくニュートラルに近づけるというものだ。後軸側にミッションをもつGT-Rは、前輪側へと駆動力を伝達するデフやプロペラシャフトの取りまわしもあって、静的段階で右に50kgほど重い。

左ハンドル仕様であればドライバーの乗り込みでそれが相殺できるが、右ハンドル仕様の場合はそれが若干ながらもアンダーステアの原因になるという。

具体的には左前輪側スプリングはややレートを高めた設定とし、左後輪側はアライメントをプリロード状態に近い設定とすることで、左右のバランスを静的段階から補正している。言い換えれば右ハンドル仕様の2012年型GT-Rは、四輪すべてが非対称のサスセッティングという、これまた市販車としては異例の事態になっているわけだ。

スペックVの代わりに用意されたセットオプション「for Track Pack」

そのほかにミッション部品の小変更や指定デフオイルの変更、ボディの全数加振測定の高精度化や前方ダッシュまわりのボディ補強、BOSEサウンドシステムのウーファー構造やメーターイルミネーションの変更など、1年のあいだに手がくわえられた箇所のその細かさには、毎度のことながら恐れ入る。くわえて、2012年型GT-Rには147万円でfor Track Packというセットオプションが設定された。これはサーキット走行を積極的に愉しもうというオーナーを前提とし、日常性の犠牲を最低限に留めつつ走りの質を高めるもので、2シーター化やブレーキ冷却ガイドつきフロントスポイラー、軽量冷間鍛造ホイールなどをかつてのスペックVのそれと共有しながら、専用設計の可変制御機能つきサスペンションや、表皮にからだのすべりを抑えるハイグリップファブリックを用いたシートなどをくわえた内容となる。

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さらなる練磨を経た2012年モデル試乗(3)

よりダイレクトに伝わるようになった臨場感

スポーツランドSUGOでおこなわれた試乗では、コース内で2011年モデルとの比較、そして一般道的環境の走行を初代2011年モデルと比較と、2012年モデルの進化をわかりやすく伝えるための工夫がほどこされていた。まず一般道的環境において低中速域を多用しながら流すようなペースで走ってみる。比較車にたいしてわかりやすく変化が感じられるポイントは、入力を柔らかく丸める足まわりの柔軟性向上と若干の侵入音低減といったところだろうか。

が、そこで僕がもっとも大きく感じ取った変化は、ステアリングフィールに湿っぽさというかナマっぽさがくわわったなというものだった。従来のGT-Rはそれが速度域をとんでもなく高めないかぎり味わうことができず、低速域ではたんに信号を入力しているかのような冷たさが支配していたのだが、2012年モデルはコーナーを普通に走るだけでもキャンバーの変化やタイヤの捻れ感が路面状況とともに伝わってくる。いや、実際にはそんな速度域でGT-Rの履く鬼のような剛性のランフラットタイヤが捻れることなどあり得ない。が、あたかも普通のラジアルタイヤをはめているかのような臨場感がそこにくわわり、結果として操作実感が充実したものになっている。

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深みを増したクルマとの対話性

あのデジタルモンスターに情感がくわわろうことになるとは。その印象は結局、コースを走るうえでも変わることはなかった。件の左右非対称設定サスが2011年型にたいして、確実にアンダーステアを抑えながら左右コーナーの感覚差を埋めていることは比較試乗で充分に察することができた。しかし、それ以上に驚かされたのは、僕のような一般的なドライバーをして、車体からのフィードバックに味わいを感じられるようになったことだ。ブレーキングで沈み込む車体の動きや、コーナリング中の四肢の接地状態、アクセルオンとともに捻れるように弾き出されるクルマの軌跡など、それはレーシングドライバーに遠くおよばない速度域であり、それでも僕としてはパニクりそうな速度域に引き連れられていても、思い描くイメージとピタリとシンクロする。これはとりもなおさず、クルマのダイナミックレンジが上だけでなく下にも広がり、結果として対話性が深まったという証でもある。オーディオにたとえるなら、ボリュームのノブが絞られていてもいい音が鳴るようになった感じというのだろうか。ともあれ、クルマに乗せられているというアウェイ感は大幅に減った。それこそまさにオーディオと同様で、アナログ対デジタルの議論が霧散する狭間をみせられているかのようでもある。

ニュルでの予測ラップタイムは7分10秒台!?

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ともあれ、GT-Rの絶対性能は年々進化を遂げている。それをわかりやすくユーザーに伝える数字として計測されるニュルブルクリンクのラップタイムは、恐らく7分10秒台に突入するだろうとのことだった。その数字自体、我われにとって実践的な意味をなすものではない。

この性能を極限まで絞り出すのは手練れも手練れなプロフェッショナルの仕事である。そう頭のなかでわかっていても、示されたその数字に一喜一憂してしまうのは、このクルマに日本の究極を託する期待があるからだろう。

GT-Rはそれを、携わる者がどれだけ匠に近づくことができるのかという錬磨によって更新しつづけている。ちなみに栃木工場の混流ラインでは、生産当初に配属された担当者の大半が変わることなく、今も黙もくとGT-Rを作りつづけているという。

NISSAN GT-R Pure edition|日産 GT-R ピュアエディション
ボディサイズ|全長4,670×全幅1,895×全高1,370mm
ホイールベース|2,780mm
車輛重量|1,730kg
エンジン|3.8リッターV型6気筒
トランスミッション|6段デュアルクラッチ式トランスミッション
最高出力|404kW(550ps)/5,400rpm
最大トルク|632Nm(64.5kgm)/3,200-5,800rpm
燃費(JC08モード)|8.7km/ℓ
CO2排出量|267g/km
価格|869万4000円

           
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