田中凜太郎|Excuse My Trash ! 『King Of Vintage Vol.3』(後編)
Fashion
2015年3月13日

田中凜太郎|Excuse My Trash ! 『King Of Vintage Vol.3』(後編)

連載|田中凜太郎

Excuse My Trash ! 『King Of Vintage Vol.3』(後編)

前回に引きつづき、今回も『King of Vintage Vol.3』の発売にさいしておこなった田中凛太郎氏へのインタビューの模様をお届けする。
フィフティーズ以前の古い時代の古着を極めることで、現在古着界の頂点に君臨する“King of Vintage”ラリー・マックコイン氏。話は、古着業界の現状分析からアメリカの歴史、社会分析へと広がり、そこからラリー氏の“強さ”の秘密へと帰結する。

写真=田中凛太郎インタビュー=竹内虎之介(シティライツ)

古い時代の服の人気は、アメリカ人がもつ“ハンブル”への憧れのあらわれ

──先ほど(前回)古い時代のアメリカがウケてるのは、じつはいまのアメリカへとつづくフィフティーズへのアンチ、みたいな話がありましたが、それはなかなか鋭い分析だと思いました。

アメリカ人は、この何年かすごくよく“ハンブル”という言葉を使うようになりました。日本語でいえば「質素」とか「質実」という意味ですが、彼らにとっていまそれが“失われてしまった良いもの”なんです。1940年代以前の古着の人気が高いのは、そこにもどりたいという意識がすごく強くなっているからだと思います。

田中凛太郎氏,King of Vintage,Queen of Vintage,2

田中凛太郎氏,King of Vintage,Queen of Vintage,3

──そういう背景もあるんですね。もし仮にいまのアメリカが“ハンブル”を本当にとりもどしたら、社会として復活できそうですけど。

でも残念ながら、そこにはもうもどれないでしょう。というのも、アメリカって、何をもってアメリカとするかが非常に難しい国ですから。そこは日本などとちがって、文化が一本の幹でできていないし、すでにマニュファクチュアもない。そもそもアメリカ人のおもしろさって発想力のおもしろさだと思うんです。ノリノリの発想のものを、いまなら中国で作れば安く作れるから売れる。それをアメリカで、オーバーコストで作ったらどうかというと、おそらく売れないでしょう。だから、ハンブルにもどれないというのは、社会の構造がそういうふうにできていないということです。

──つまり、ハンブルというのは彼らの伝統ではなく、アメリカという国を作っていくうえでの1ページだったと。

ハンブルさが生きていた時代におこなわれた西部開拓でさえ、ハンブルだけではできませんからね。そこにはアグレッシブさが必要です。おもしろいもので、いまでもたとえば東海岸のひとと西海岸のひとがポーカーのゲームをやると、西海岸のひとのほうがアグレッシブです。攻めるときには一気に攻めます。サーフィンやスケートボードといったアメリカのアグレッシブさを象徴するカルチャーも全部西海岸、とくにカリフォルニア生まれなんですよ。コンピュータなどもそうですが、そういうカリフォルニア的アグレッシブさが、いまのアメリカ社会を進化させてきたのも事実です。だから、いまのアメリカ社会とハンブルとは相容れないところが多いんじゃないでしょうか。

連載|田中凜太郎

Excuse My Trash ! 『King Of Vintage Vol.3』(後編)

ラリーの“攻めてる”姿勢が、うまく表現できたと思っています

──なるほど。もどれないからこそハンブルの時代の古着が盛り上がるんですね。

そうです。ラリーもよくハンブルという言葉を使います。彼自身は自分のおじいさんの影響で、ハンブルの世界を少しは実感として理解しています。『ヘラーズカフェ』自体も、もともとはそのおじいさんがやっていたカフェの名前で、それを場所とカタチを変えて受け継いでいるくらいですから、ハンブルという言葉は大好きなんです。ただし、彼は自分自身の世代のことも、13歳になる息子の世代のメンタリティも見ているから、ハンブルにもどれないことはちゃんとわかっているんです。

──ハンブルにもどれないことを知り、さらにそれを単なる郷愁に留めることもなく武器にする。やっぱり、なかなかのひとですね。

ある種この本って、いい意味でアメリカ人の“強欲さ”が出せたなと思っています。日本で欲をもつことって否定されがちですが、アメリカ人にとって強欲は必ずしも悪いことじゃないんです。ましてやハイエンドな古着のように、どこかアーティスティックな世界においては、ピュアなだけではおもしろくない。「おっ、攻めてるな」というところがないとおもしろくないんです。ラリー自身はすごく真面目なひとなので、センスだけでやっているわけじゃなく、真面目にビジネスとしてやっている。でも逆に言うと、真面目に“攻めている”から強いんです。それはもうプロの勝負師という感じ。そこが彼の才能でしょうね。ほかのひとはビビるから、なかなか彼とおなじハイローラーの席には座れないですよ。

田中凛太郎氏,King of Vintage,Queen of Vintage,5

田中凛太郎氏,King of Vintage,Queen of Vintage,6

──なぜ、ラリーさんはビビらずに攻められるんでしょう?

そこが彼のキャリア。最高のネタと、2カ月に1度東京に来るような真面目さによって、ちゃんと人脈を掴んでいるんです。その一方で、さっきも言ったように勝負に出るときは一気に勝負をかける。その緻密さと大胆さの兼ね合いはまさに「ハイローラーを極めたな」という感じです。この本では、そういう彼の資質をうまく表現することができたんじゃないかと思っています。

──たしかにそうですね。出てくる古着を観ても、単に古いというだけでなく、いまの気分として「これからこういうのがほしい!」と思わせるものがバンバン出てきますもんね。だからこそ、それぞれの古着は決して安くはないだろうな、と納得できる。そういう、見るひとを自然に納得させてしまう力が、彼のハイローラーたるゆえんかもしれませんね。

まさしくそうです。今回の本に出ているものは、当然ながらVol.1 には出ていなかったものばかりですが、決してVol.1のときにアウトにしたものじゃないんです。おそらく、ほとんど全部がVol.1以降に仕入れたものだと思いますよ。こんな高いものを、そんなふうに買えるひとなんて、いまラリーしかいないんじゃないでしょうか。そういう意味では、いま彼をフィーチャーしたこの本を出せて本当によかったなと感じています。

──今日のお話を聞いて、ますます中身が濃厚なものに見えてきました。この先も、来年2月開催のイベント『Inspiration 2012』、さらには来春発売予定の『My Freedamn! Vol.10』と予定が目白押しですが、いずれも大いに期待しています。今日は長い時間、本当にありがとうございました。

こちらこそ、ありがとうございました。

田中凛太郎氏,King of Vintage,Queen of Vintage,7

King of Vintage No.3:『Heller’s Cafe:Part2』
価格|5250円
サイズ|H307×W232 mm
重さ|約1kg


           
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