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INTERVIEW｜アーティスト篠原有司男、乃り子夫妻インタビューギャラリー

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INTERVIEW｜アーティスト篠原有司男、乃り子夫妻インタビューギャラリー

ブルックリンに住む前衛アーティスト、篠原有司男（左）と乃り子夫妻

ふたりの姿を追ったドキュメンタリー『Cutie and the Boxer（邦題：キューティー＆ボクサー）』が、全米で大きな話題を集めている

映画の冒頭で、80歳になった「ギューちゃん」こと有司男が、彼の代名詞ともいえる“ボクシング・ペインティング”をおこなうシーンがある

取材に訪れた日、有司男は実際にボクシングのポーズを取ってみせてくれた

取材に訪れた日、有司男は実際にボクシングのポーズを取ってみせてくれた

スポンジを括りつけたグローブを絵の具に浸して、カンバスにむかってパンチを繰り出す

有司男は1960年代、赤瀬川源平らとのユニット「ネオ・ダダイズム」として活躍

日本ではじめてモヒカン刈りもしたのは有司男（いまも尖った髪型は健在）

そして1969年、ロックフェラー三世基金の奨学金で渡米

以来ニューヨークを活動の拠点としている

ブルックリンにある広大な二階建てのロフト。ここが篠原有司男と乃り子夫妻のアトリエ兼住居だ

ふたりのアトリエ兼住居

ここにはふたりの作品がぎっしり

ここにはトイレのドアもない。雨が降れば雨漏りするのでバケツが必要だ

ブルックリンは、いまでこそトレンディなエリアとして知られているが、30年前にソーホーから移り住んできたときには、夜は出歩けないほど危険なエリアだったという

映画が作られたきっかけは、5年前にジャーナリストのパトリック・バーンズ（本作のプロデューサー）が、ここにザッカリー・ヘインザーリング（本作の監督）を連れてきたことだった

「最初は当然ながらギューちゃん中心の撮影になっていて、パトリックもザックも『ギューちゃんのアートはすばらしい、パーソナリティもすばらしい』と絶賛しているから、わたしが『ちょっと待ってよ、そんな甘いものじゃないのよ』って言ったの」（乃り子）

「当時ザック（注・監督のザッカリー・ヘインザーリングのこと）はまだ24歳でね。子どもみたいだった。彼が入り浸るようになって、うちが孤児院になったような気がしたわね」（乃り子）

「私たちはアーティストだから、家なき子というのかな、孤児が寄り集まって3人でいるような具合だったわ」（乃り子）

乃り子は1972年に19歳で渡米。そして当時、41歳だった有司男と巡り会った

その翌月には、乃り子がすぐ家賃を払わされたというエピソードも映画には登場する

この映画が従来のアーティスト映画とひと味違うのは、夫妻が「今月の家賃が払えない」といった生々しい生活ぶりを見せているところ

著名なアーティストでも毎月の家賃に困るという、生活の困難さがよく伝わってくる

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ふたりのアトリエ兼住居。写真は住居部分

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ふたりのアトリエ兼住居。写真はアトリエ

ふたりのアトリエ兼住居。写真はアトリエ

ふたりのアトリエ兼住居。写真はアトリエ

ふたりのアトリエ兼住居。写真はアトリエ

ふたりのアトリエ兼住居。写真はアトリエ

ふたりのアトリエ兼住居。写真はアトリエ

ふたりのアトリエ兼住居。写真はアトリエ

ふたりのアトリエ兼住居。写真はアトリエ

ふたりのアトリエ兼住居。写真はアトリエ

ふたりのアトリエ兼住居。写真はアトリエ

ふたりのアトリエ兼住居。写真はアトリエ

アトリエ兼住居。写真はアトリエ

ふたりのアトリエ兼住居。写真はアトリエ

ふたりのアトリエ兼住居。写真はアトリエ

ふたりのアトリエ兼住居。写真はアトリエ

ふたりのアトリエ兼住居。写真はアトリエ

ふたりのアトリエ兼住居。写真はアトリエ

ふたりのアトリエ兼住居。写真はアトリエ

ふたりのアトリエ兼住居。写真はアトリエ

ふたりのアトリエ兼住居。写真はアトリエ

ふたりのアトリエ兼住居。写真はアトリエ

ふたりのアトリエ兼住居。写真はアトリエ

有司男の代表作である段ボールによるオートバイのシリーズ

有司男の代表作である段ボールによるオートバイのシリーズ

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乃り子は1972年に19歳で渡米。そして当時、41歳だった有司男と巡り会った。彼女が2007年から描くようになったのが、『Cutie and Bullie（キューティー・アンド・ブリー）』という連作だ。作品には、彼女の分身であるキューティーと、有司男の分身であるブリーが描かれている

監督のヘインザーリング（左）は、まず『キューティー・アンド・ブリー』のシリーズをすべて撮影して、コンピュータで一部を動かすアニメーションに仕立て上げた

そして2010年の9月、ヘインザーリングが3分間のトレイラーを製作して、「サンフランシスコ・フィルムソサエティ」に出品したところ「ゴールデンゲート賞」を受賞。2万ドルの賞金が入って、映画を完成させる

乃り子が描いた『キューティー＆ボクサー』の原画

ふたりに映画を観た感想を尋ねてみた。「がっかりしたね。公園で撮ったボクシング・ペインティングのシーンもカットされていたし、映画がラブストーリーになっているからね」という有司男

さらに有司男は「ギューちゃんのアートの秘密に迫るといった肝心のところがなくて、興味なかったね」と語る

それを聞いて「興味ないのは、自分が主役じゃないからでしょ（笑）」と返す乃り子

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なんと若き日の乃り子の水着姿。美人です

この映画の面白さは、なんといっても乃り子の鋭いセリフが、随所に散りばめられているところだ

「ぼくは60年代から撮られ慣れているんだよ。観客がいないと製作できないぐらい、撮られるのが好きなんだよね。だから自分の方から演技していったね」（有司男）

映画にはホームビデオで撮った過去の映像も多く挿入され、酔っぱらって泣きだす有司男の姿など、貴重なシーンも見られる

「映画のなかで札束を持って帰ってきて、匂いを嗅ぐシーンがあるだろ。あれはぼくの演技なんだよね」（有司男）

「あそこでわたしは『本当はお金が足りないじゃない』って言っているんだけど、『4000ドルの家賃を払わなくちゃならないのに、3000ドルしかなくて足りない！』って言っているシーンは削られているの。わたしが厳しすぎるから柔らかく編集しているわけ（笑）」（乃り子）

「映画を観て、なんてわたしの人生ってかわいそうなんだろうと思ったのよね。わたしと有司男が映っている部分は、きれいに撮られ過ぎているけどね」（乃り子）

「まあ、ニューヨークでアーティストをやっていると追いつめられて、いろいろな幻想も生まれるわけだよね。定職を持っていると、絵を描く時間がなくなるわけだしね」（有司男）

さらに有司男はつづける。「でもニューヨークというのは、そんなこと関係なく、世界中からトップクラスのアーティストが集まってしのぎを削っているから、絵に集中しないと勝負にならないんだよ」

それを聞いた乃り子は、「わたしは留学に来たはずなのに、20歳も年の離れた男と一緒になってしまったから、親からの仕送りもなくなって、実家にも帰れないわけ。空港に行くお金もない状態で暮らしていて、日本に戻ればお金も入るという保証もなかったしね」とポツリ

それなさまざまな困難が立ちはだかっても、別れなかったというから、ふたりの強い絆を感じずにいられない

有司男（左）と乃り子

「別れるのは理想なのよ。でも離婚なんてリッチマンのラグジュリーなのよ。家賃ひとつ払うだけでも大変で、大家に待ってもらっているのに、ふたつ分の家賃なんて出せないわよね」（乃り子）

『キューティー・アンド・ブリー』の元になったもの。ワインの箱からインスパイアされた切り込みのあるオブジェだ

このオブジェの裏に『キューティー・アンド・ブリー』のイラストが描かれている。これは2007年に開かれた、ジャパン・ソサエティのグループ展に出展されたそう

乃り子は有司男の片腕として、じつにさまざまな役をこなしてきた。その彼女自身の創作に転回点がやってきたのは、2007年のことだったという

「それまでどんな大きな絵を描いても、どんな展覧会をやっても、自分がアーティストであるというのを確信できなかったの」（乃り子）

それが『キューティー・アンド・ブリー』を描いたことによって、「これが自分のオリジナルだ！」と感じられたのだという

「41年目にして、完璧な自分のクリエイションだと感じられたんですよ。はじめて自分は骨の髄からアーティストだと感じられたわけ」（乃り子）

「ギューちゃん」を創造のインスピレーション源にする乃り子には、有司男への深い愛がある

「だってこんな面白い題材がそばにいて使わなかったら損じゃない」と乃り子は笑顔を見せる

乃り子による『キューティー・アンド・ブリー』の原画

有司男の代名詞“ボクシング・ペインティング”で使用するボクサー

有司男の代名詞“ボクシング・ペインティング”で使用するボクサー

1969年からニューヨークを拠点にしている有司男

ニューヨークでアーティストをする意義について尋ねてみると、「ニューヨークは世界の最先端だからね。競争相手だってあだやおろそかじゃない。それはやり甲斐があるよ」という答えが返ってきた

「売れないというのがぼくのエネルギーだね。売れたらだらしなくなっちゃうから」（有司男）

乃り子（左）と有司男

『キューティー・アンド・ブリー』について、「ぼくが殴られたり、蹴られたりしていて面白いよね」という有司男に対して、「ギューちゃんは最初、『こんなのはアートじゃない、どうしてこんなものを描くんだ』って言っていたんだけどね」と乃り子

本棚には有司男の愛読書『名探偵コナン』や『ワンピース』が並ぶ

「売れないというのがぼくのエネルギー」と語る有司男

ペインティング中の有司男

有司男は映画にインスピレーションを受け、あらたな夢を抱いたようだ。「映画が上映されたあと舞台に出て行ったら、観客がスタンティングオベーションをするんだよね。1500人以上はいたね。映画の観客っていうのは、すごくダイレクトに喜んでくれるんだなあと思ってね」

「美術館だとみんな黙って見ているだろう。アートでもね、あんな風に人をエキサイティングにさせる絵を描いてみたいね」（有司男）

日本での上映は12月を予定している。ふたりのとびきりチャーミングな芸術家を、劇場で見届けて欲しい

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